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2人の戦い



―――ハンマーを横薙ぎに振り回し ユーラ



 力いっぱい全力でもってハンマーを横に振るう。


 狙いはつけない、大体この辺りに来るだろうとの直感でもってただただ振るう。


 目線は正面から突撃してくるサイ魔獣に向けられていて、ハンマーは一切見ずに振るっていて……頭を下げ角の先端をこちらに向けたサイ魔獣の突撃とハンマーがぶつかり合う。


 凄まじい衝撃がハンマーから伝わってきて、衝撃音が周囲に響き渡り、そのまま押し負けそうになるがユーラは大股に開いた両足、ハンマーを握る両腕、強く噛んだ顎、それらを支える全身、すべてに力を込めて押し返そうとする。


 ユーラにとってもサイ魔獣にとっても押し合ったままで得るものはなく、一度離れて仕切り直した方が良いのだが、どちらも意地になってそうしようとはしない。


「ぬぅぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 噛むのを止めて大口を開けたユーラが、喉を焼き付かせながら吠えて更に力を込めて込めて……根負けしたサイ魔獣が仕切り直そうと後ずさる。


 それを受けてユーラは力を込めていたハンマーを振り抜き……その勢いを殺さずに横に一回転し、もう一度横薙ぎにハンマーを叩きつける。


 サイ魔獣にとってその動きは全くの予想外だった、構え直すなり振り上げるなり、攻撃の前に間があるものと考えていたのだが、それはなく……勢いも力も衰えることなく迫ってくる。


 それを受ける訳にはいかず一歩後退り、それを受けてユーラはもう一回転しながらサイ魔獣との距離を詰めてハンマーを振るう。


 サイ魔獣は再度退き、ハンマーを空振ったユーラはもう一回転するが、今度は横ではなく斜めに、ハンマーを上に振り上げながら回転し……振り上げたハンマーをサイ魔獣に向けて振り下ろす。


「目が回るんだよぉぉぉぉ!」


 意味があるのか、そんな声を上げながらのユーラの一撃にサイ魔獣は再度退くことを選んだが……そもそもとして四つ足は後退りするのに向いているとは言えず、後退が間に合わず鼻の先端……角でもってその振り下ろしを受けることになってしまう。


 角が砕け、衝撃で頭が上下に揺れて、変な受け方をしてしまったせいで目眩を起こし動きが鈍る。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 その隙を逃さずユーラは連続攻撃を仕掛ける。


 よく分からないが振り下ろしが当たった、振り下ろしが効いた、こいつは振り下ろしが弱点に違いないと思い込んで何度も何度も、ハンマーを振り上げては振り下ろし、サイ魔獣の頭をしつこく殴りつけていく。


 ハンマーを上下に振るい続けるその攻撃は、体力を消耗する上に負担も凄まじく、すぐに顔が真っ赤となって汗が吹き出すがお構いなしで何度も何度も何度も、サイ魔獣の頭を殴りつける。


 その勢いと衝撃は凄まじく、見る者がいたなら恐れ慄く程だったが、サイ魔獣の命を奪うまではいかなかったようで……何十回目かの攻撃の際、疲労と負担でユーラの動きを鈍ったのを見逃すことなく動いたサイ魔獣は、ハンマーを振り上げて隙だらけとなったユーラの懐に突進を放つ。


「しゃああああああ!!」


 それを見てユーラはそう声を上げながらハンマーから手を放す。


 勢いよく振り上げられたハンマーはそのままどこかへと飛んでいき……ユーラは自由となった両腕を広げて突進してくるサイ魔獣を迎え撃つ。


 サイ魔獣の下げられた頭を脇腹に抱え込むようにして受けて、そうしながらしっかりと抱え込んで逃さないようにし、暴れるサイ魔獣に振り払われないようにしながら殴って膝蹴って攻撃を仕掛ける。


 ……だが、武器なしの打撃ではダメージを当てられないようでサイ魔獣は衰えることなく暴れ続け……このままでは倒せないと悟ったユーラは、サイ魔獣の甲殻の隙間に指を突っ込み、しっかりと掴み……そして両足を大きく開いて地面に突き立て、ハンマーのようにサイ魔獣を振り上げようとする。


 それに気付いたサイ魔獣は、どうにか抵抗しようとするが抵抗しようがなく……先程以上に顔を真っ赤にしたユーラに持ち上げられてしまう。


 そして……、


「ぬぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 先程のハンマーのように何度も何度も地面に打ち付けられることになり……どうせならとユーラは振り回しながら移動をし、近場にあった岩へと目掛けてサイ魔獣を振るい始め……流石にそれには耐えられなかったのだろう、サイ魔獣はそのまま絶命することになるが……それでも尚ユーラは気付くことなく振るい続け、その体力が完全に尽き果てるまでその攻撃が繰り返されることになるのだった。



――――響いてくる衝撃音を聞きながら サープ



 どこからか響いてくる衝撃音に、何をやっているんだろうかと小さく驚きながらサープは、冷静にマトックを振るい続けていた。


 突進してくるサイ魔獣を華麗に躱し、すれ違いざまに奮って甲殻の隙間や目を狙い一撃を放つ。


 素早く鋭く、遠心力を活かすために大きく振るって、それでいて狙いは正確に。


 そんな風に大きく振るったなら普通は狙いがブレるものだが、サープの狙いは一度も外れることなく弱点を狙えていて……サイ魔獣はその事実に怯えて動きを鈍らせていた。


 当たる寸前体をひねるなり突進を曲げるなりして回避をしていたが、一切回避をしていなければ全てが命中していた、目を鼻と耳と全関節を貫かれていた。


 いくら突進しても何度も突撃してもこちらの攻撃は当たらないのに、向こうの攻撃はあと一歩……ほんの一瞬対応が遅れていたなら命中していたものばかりで、魔獣ながらその思考は逃げ出したい、戦いたくないという弱気一色に染め上げられていた。


 そうした怯えにサープは気付いていて、だからこそあえて恐怖を与えるようにマトックを振るっていて……精霊によって作られ頑丈かつ鋭く鍛えられたツルハシのようなそれが、周囲に空気を切り裂く音を響かせ続ける。


 しかしサイ魔獣のそうした恐怖は、サイ魔獣の回避力を増させていて、全ての攻撃を完璧に避けさせていて……サープにとっては苦しい状況を作り出してもいた。


 ユーラ程体力のないサープではいつまでも回避と攻撃を繰り返すことはできない。


 いずれは限界が来てしまう、その前に決着させなければ負けてしまう……。


 そんな焦りを抱きながらもサープが冷静に、的確に攻撃を繰り返していると……サープ達の左右から、サープ達を挟み込むような形で音や声が響いてくる。


 一方からは猟銃の二連射の音、一方からは岩に叩きつけ続けたサイ魔獣を放り投げる音。


 そしてうっすらとだが絞り出すような断末魔も聞こえてきて……それきりどちらからも音は響いてこず、決着したということが伝わってくる。


 音からして魔獣が勝ったということはないだろう、仲間を失ったことを悟ったサイ魔獣は、混乱と恐怖から完全に動きを鈍らせてしまう。


「さっさと楽になるッスよ」


 そこに冷たい声が響き、マトックが振るわれ……攻撃を避けることが出来なかったサイ魔獣は、それから致命的な連撃を受けることになり、恐怖と絶望の中で絶命することになるのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。


次回は決着後のあれこれです

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