異邦の地
おやつタイムと休憩を終えて、検疫所を出るとまたビニールカーテンなどがあり、そこを過ぎるとまた通路があって……通路の先には扉があった。
何故だか木製で古風で……よくドラマなどで見る洋風館の扉といった感じだ。
何故だかライオン顔のノッカーまであって……特に意味はないのだろうけど、ノッカーでノックをしてからドアノブを握る。
その先には……草原が広がっていた、多分、草原と呼ぶべき空間が。
サイの魔獣がやってきたことから大体察していたというか、サバンナとかに近い光景が広がっているのだろうとは思っていたのだけど、基本的にはその通りだった。
所々土がむき出しとなった背の低い草が広がり、木も一応あるのだけどまばら、どれもこれも細く低く……視界の奥の方には低木林と呼んでも良いような場所も広がっている。
……問題はその木の形だった。
枝がぐるぐるとうずまきのようになっている、葉の色が半分は緑だけども残り半分が紫で……時折、天に向かって根のような、枝ではない何かを広げている木までがある。
「こりゃ……参ったな」
と、ハンマーを構えながらのユーラ。
「……事前に覚悟してなかったら混乱しちゃってたに違いないッスね」
と、マトックを構えながらのサープ。
「……これが瘴気によって歪んだ世界かぁ……」
更にグラディスに跨がり直した俺がそんなコメントをしていると、背後で何かをしていた……恐らく扉を消していたシェフィが、頭に乗っかってから声をかけてくる。
『そう、ここが瘴気で歪んだ世界。
……ちなみにこれでも瘴気は少なめの、まともな方なんだよ。
この辺りにも精霊の戦士がいてね、彼らが頑張ってくれたおかげで、だいぶ浄化が進んだ状態なんだ……けども、この辺りは凄く広くてね、まだまだ手が回っていないのが現状なんだ。
そこでその一部をヴィトー達に担当してもらう訳だね』
「あ、そういう感じなんだ?
ちなみにその戦士達とは共闘したりはしないの?」
と、俺がそう返すとシェフィは『ん~~~~』と唸ってから答えを返してくる。
『共闘はちょっと難しいかな。
彼らは凄く勇敢で強いんだけど、その分だけ血の気が多くてね……よそ者にどんな反応を示すかはなんとも言えないんだ。
いきなり襲いかかってくるまでは行かなくても、威嚇されたり武器を手放せと脅されたりはするかも……ということで、基本的には出会うことはないと思うよ。
遠くで見かけたりはするかもだけど、出来るだけ接触は避けてね。
……それと、この辺りに出てくる魔獣は、この辺りにいた動物が歪んでしまったものが主で、ヴィトーならそう言われてある程度予想出来ると思うんだけど、ライオンの魔獣よりヤバいのがいるからそのつもりで』
「……百獣の王よりヤバい?
……あ、あぁー……なんとなくは想像出来たけど、そんなの倒せるのかな?」
と、俺達がそんな会話をしていると、ユーラとサープがなんとも不安そうな顔を向けてきて……俺はしっかり説明した方が良いかと言葉を返す。
「えぇっと、まずライオンって動物は、大型の猫の仲間で……牙や爪を武器に群れでの狩猟をする動物だから、それに近い魔獣がいるんだと思うよ。
そしてシェフィの言っていたヤバい魔獣っていうのは……多分、象って動物の魔獣なんじゃないかな。
四足で凄く……あの魔王よりも大きくて、器用に動く長い鼻と鋭く硬い牙があるから攻撃力は十分、それでいて皮膚が分厚くて防御力もあるだろうから……魔獣化したらどうなるやら、想像もしたくないね。
魔獣化してなかったとしても、1体1では苦戦する相手になると思うよ」
俺の言葉を受けてユーラとサープはごくりと息を呑む。
初めて訪れる地で、いきなり脅かしたくはなかったけども、全く情報を与えないというのも問題で……二人には覚悟してもらうしかないだろう。
同じく話を聞いていたはずのグラディスは、特に問題なしと言った様子で顔を上げて鼻息をふんすと吐き出していて……やる気も満々のようだ。
『じゃぁー……まずは、ボクがこの辺りを浄化するから、その間邪魔が入らないように守ってもらおうかな。
浄化が終わったらここにコタを建てて、拠点として……少しずつ浄化範囲を広げていくとしよう。
浄化が始まればすぐに魔獣達が気付いてやってくるだろうから、そのつもりで……。
仮に象魔獣の群れが襲って来たりした場合は、すぐに扉を作るから撤退してね。
流石に象魔獣はボクでも止められないだろうし、逃げるが吉だよ』
俺の説明が終わったと見てか、シェフィがそう声を上げ……それからすぐに浄化が始まる。
シェフィが不思議な、聞き取ろうとしても聞き取れない言語で歌を歌いながら周囲を踊り回り……その際に放った光が地面や空気に溶け込んでいく。
俺達の周囲を何度も何度もグルグルと踊り回り……その結果、地面の色が茶色になり、草の色も鮮やかな緑色になっていく。
……気付いていなかったけども、地面の色も変化していたらしい……焦げ茶色と言うべきか。
今はようやく土色になっていて、ここまではっきりとした、目に見える浄化が初めてだと、ユーラもサープも驚いている。
改めてシャミ・ノーマが守っていた土地は、汚染が少なかったんだなぁと思い知らされる。
世界の半分近くがこんな有り様だって言うんだからなぁ……沼地の人々も、もっと危機感を持つべきなんじゃなかろうか?
「お、来たな」
「音が近付いてくるッスね」
そんなことを考えているとユーラとサープがそう声を上げて、ある方向へと向き直り、構え直す。
どうやらそちらから魔獣の足音が聞こえてきているようで……確かに耳をすませば、地鳴りのような音がかなり遠くから響いてきているのが分かる。
数は……多くはないようだ、敵の占領地ともなれば、かなりの群れが来ることも覚悟していたのだけども……この地の戦士と戦って数を減らしたか、今まさに戦闘中でそちらに戦力を向けているのか、そのどちらかなのだろうなぁ。
そんな音は段々と近付き大きくなっていって……そしてサイ魔獣が5体、姿を見せる。
5体は少し多いが、一度戦ったことのある相手で……この地は障害物も何もなく、広く戦いやすい地。
5体相手でもなんとかなりそうだと頷き合った俺達は、それぞれ覚悟を決めて武器を構え……そうしてサイ魔獣を迎え撃つのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はVSサイ魔獣です