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検疫所


 検疫所の中は……やっぱりどこかの工場のようだった。


 工場内にある休憩所……少し豪華なスタッフルームといった感じで、ピカピカの壁に電灯つきの天井、何故だか並ぶロッカーに、ふかふかソファ。


 それとテーブルと椅子があって……コーヒーメーカーや湯沸かし器までがある。


「す、すげぇ……これが精霊様の世界か。

 見たことねぇもんばっかりだ……それにあの天井、小さい太陽みてぇだ……」


「なんかすっげぇ良い香りもするッスよ……さてはあの机の上のやつ、食い物ッスね?

 精霊様の食い物って、どんなものなんスかねぇ」


 そんな部屋に入るなり、キョロキョロと視線を巡らせながら、感動に満ち溢れた声を上げるユーラとサープ。


 俺はそれにどう返したものかと悩みながら、部屋の中へと足を進めて……とりあえずコーヒーメーカーや湯沸かし器のスイッチを入れていく。


「えっと、シェフィ、とりあえずここで休憩しろってことで良いのかな?

 何分くらい休憩したら良いの?」

 

 それから頭の上のシェフィに問いかけると、


『今、精霊パワーで体内体外いろいろな部分の調整してるから、30分くらい休憩してね。

 さっきの風とかだけじゃ足りない部分をやってるから……こればっかりは受け入れてもらうしかないかな。

 その代わりにコーヒーとお茶は飲み放題、1人300円までのおやつは食べて良いよ。

 あ、食べてる間にグラディスの世話はボクがするから安心して』


 なんて言葉が返ってくる。


 なんとも反応し辛い内容だったなぁと冷や汗をかいていると、ユーラとサープは心の奥底から溢れ出す興奮を、その表情を輝かせることで表現してくる。


 それからユーラはソファにドカッと座ってその柔らかさを堪能し、サープはロッカーに手を伸ばして、扉を開いてその仕組みなんかの確認をしている。


 仕組みで言うならコーヒーメーカーの方が複雑で、色々と参考になりそうなのだけど、本能で判断しているのか、こちらには手出ししてこないらしい。


 まぁ、今は加熱中だから危ないし、興味がないのはありがたい。


 コーヒーが出来上がったなら、ガラス棚の中にあったコーヒーカップで淹れて……ユーラとサープと自分、それとシェフィの分を用意する。


 それからおやつはどこだろう? と、探し……ガラス棚の下にあった引き出しを引いてみると、引き出し内部には仕切りが用意されていて、値段ごとに分けられた大量のお菓子が姿を見せる。


 スーパーや駄菓子屋でよく見た定番系……の、パクリ商品。


 どれもこれも名前が微妙に違って、シェフィをモデルにしたロゴマークが包装に描かれている。


 美味しい精霊棒、大きい精霊カツ、精霊ヨーグルト、精霊せんべい、精霊ポップコーン、精霊グミ。


 などなどなどなど……どれもこれも子供の頃のような低価格で、これなら300円以内でも結構食べられそうだ……消費税もないみたいだし。


「……こ、これが精霊様の世界の食いもんか。

 なんか……こう派手な上にテカテカしてるな? これ、食えるのか??」


「んん? んー……多分これ、ヴィトーの持ってる本と同じ文字ッスよ。

 だから多分、食いもんを文字や絵を書いた何かで包んでるんじゃないッスかね?」


 いつの間にか背後までやってきていたユーラとサープがそう声を上げてきて、それを受けて俺は、これが前世の食べ物を模したものであること、仕切りに書かれた金額以内であれば好きに食べられるということを伝える。


 それからお菓子一つ一つの説明を丁寧にしていって……それから金額の表示についてと、300円ルールについても説明していく。


「―――と、まぁ、こんな感じで……いきなり計算は難しいだろうから、ある程度選んだら俺の方で計算して今いくらかを教えるよ。

 飲み物もコーヒーっていう、苦いながら美味しいものだから、それに合うように選んでも良いし、好き勝手に選んでも良いと思うよ」


 と、俺がそう言うと、ユーラとサープは子供のような顔となってお菓子棚に飛びつく。


 それからあれやこれやと手に取り、自分達なりの吟味をして……合計300円ギリギリになるように選び取っていく。


 ユーラは最初から計算をする気がなく、サープは自分なりにしっかり計算をしていて、ユーラの分だけを代理して計算し……ソファに向かったなら腰を下ろして優雅なコーヒータイムだ。


 まずはコーヒーを一口。


 コーヒー豆はかなり上等なものらしい……バニラの香りがするけども味は濃いめのブラックで、駄菓子があてなのが少しもったいなくなる味で、初コーヒーのユーラとサープも満足げで楽しめているようだ。


 多分シェフィの好みなんだろうなぁ、このコーヒー。


 そしてお菓子もまた美味しい……パクリ元よりも美味しいのは、無駄に本気で作ってしまったからだろう。


 最高級の素材で手作りに近い製法で作っているのだろうなぁ……砂糖も多分、和三盆とか無駄に高級品を使っていそうだ。


 ユーラとサープにとってそんな高級お菓子は、何も言えなくなるくらいに美味しいらしく、とにかく夢中で食べている。


 食べて食べて、コーヒーも一気に飲んで……そうやって俺達が大体のお菓子を食べ終えたタイミングで、ずっと黙って見守っていたシェフィが声を上げる。


『ちなみにだけどそのコーヒーとお菓子はお薬になってるからね。

 予防接種みたいなものかな……それであっちの風土病を防げるよ。

 更にこっちの風土病を持ち込まないためでもあるね……効果がしっかり出るまでもうちょっとかかるから、ゆっくり休んでね』


 その言葉を受けて、意味が分からないながらもユーラとサープは、自分達のためにそこまでしてくれたと大喜びで……俺は薬だったのかと驚きなんとも言えない表情をすることになる。


『あ、副作用とかはないから安心してね。

 むしろ今回の作戦の間、ずっと体内に残って君達を守ってくれるよ。

 ただ怪我とかして体外に出ちゃうと効果が薄れるから……いつも以上に怪我には気を付けてね』


 更にシェフィがそう続けてきて……事前に色々説明して欲しかったなぁ、なんてことを思いつつ、これ以上あれこれ考えてもしょうがなさそうなので、素直に今の時間を楽しむことにし……薬の効果が出るまでの間、ゆったりとした時間を過ごすのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。


次回はいよいよ、異邦探索です

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― 新着の感想 ―
お菓子が予防接種の薬になるなら、世のお子様達は歓喜するだろうな そんな世の中にはならんだろうけど
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