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改めての連携


 

「そのライフルって武器を見る限り、ただただ鍛練するしかねぇだろうな」


 村近くの森の中、広く地面が乾いた一帯で、ジュド爺がそんな声を上げる。


 そんなジュド爺の背後ではスクワットのような運動を続けるユーラとサープの姿があり……ハンマーやマトックのような武器を使うならばとにかく筋力だと命令された結果がその光景だった。


 加護のおかげで体力は有り余っているのだから、今日一日筋トレしていろというもので、逆らうことも逃げることも許されていない。


 自分もそんな命令を受けるものと思っていたのだけど、ジュド爺曰くライフルを扱うための筋力は既に備わっているそうで……後はただただ使いこなすだけ、ということらしい。


「まずは恵獣様の背に乗っての射撃だな。

 そいつが寝そべって使うもんだとは分かっちゃいるが……ヴィトーには加護があるんだ、多少の無茶はしねぇとな。

 ……せっかく恵獣様に乗るための道具もあるんだ、それを完璧に使いこなせ、駆けながらライフルを扱ってみせろ、距離なんか気にしねぇでぶん回せ!

 なんなら片手で撃ってみせろ! やってやれんことはないはずだ!」


 んな無茶な……なんてことを思ったりもするが、的外れな言葉でもないし、従わなければ一日筋トレコースが待っているので素直に従うことにする。


 と、言う訳ですぐ側で待機してもらっていたグラディスとグスタフに来てもらい……

グラディスに鞍などを装着させた上で、シェフィからライフルを受け取る。


 今回は練習用ということで、空砲弾も一緒に受け取る。


 一発1000ポイントのライフル実弾と違って空砲弾は10ポイントで済むそうで、今回は練習ということで空砲弾を20発作ってもらっている。


 弾は出ないが引き金を引けばしっかりと発射動作が行われ、音と光も出る空砲……これなら練習に良いはずで、とりあえずライフルに込めていく。


「よし、準備が終わったらグスタフと一緒に追い回してやる! 追い回しながら石を投げてやる! 石に当たったら罰、グスタフに追いつかれても罰、木や枝にぶつかっても罰、ライフルを落としても罰。

 ただ逃げ回ってもダメで、ワシが良しと言うまでにしっかりこちらを狙って全弾撃ち切るように。

 撃ちきれなかったらやっぱり罰だ! 覚悟して挑め!!」


 罰とはつまり筋トレのことなのだろう。


「わ、わかりました」


 と、返した俺は、なんとも軽い態度で『がんばれ~』なんて声を上げるシェフィに応援されながらグラディスの背に乗り……ライフルを何度か騎上で構えてみる。


 やっぱりこのライフルはこうやって構えるものではないのだろう……重いし長いし、取り回しが悪い。


 撃てないこともないけど獲物を狙うなんてのはまず無理で……それでもどうにか狙いをつけようとする。


『言っておくと、それって普通のライフルよりは軽いからね。

 精霊の特別製っていうのを忘れちゃダメだよ!』


 と、シェフィ。


 本物だったらもっと扱いにくかったのか……本職の軍人は凄いなぁ。


 なんてことを考えながら構えを取り続け……ある程度やって納得出来たなら頷いてジュド爺を見やる。


 するとジュド爺は、その間に拾っていたらしい、石がいっぱい入っている風にゴツゴツとした見た目となっている革袋を持ち上げて見せつけてきて……向こうも準備万端といった様子だ。

 グスタフも準備万端やる気いっぱい……俺達との追いかけっこを楽しむぞって顔をしていて、こちらも油断ならない相手となるようだ。


「ようっし、準備は良いな……そいじゃぁ開始だぁ!!」


 そう掛け声があって鍛練が開始となる。


 老人とは思えない速度で駆けてくるジュド爺、それに追従するグスタフ。


 ジュド爺が投げる石も的確かつ鋭く、グスタフもしっかり隙を見ての突撃を繰り出してくる。


 そんな中でこちらは色々な障害物のある森の中を駆け続ける必要があって……その上長く重いライフルを手綱を握った状態で構えなければならない。


 恵獣であるグラディスは賢い、手綱を操作しなくてもある程度こちらの動きに合わせてくれるとは言え、ライフルを向ける方向や撃つタイミングはしっかり知らせて合わせる必要があり……めちゃくちゃに忙しい。


 頭も体も忙しい、考えることが多いしやらなきゃいけないことも多い。


 前を見て後ろを見てグラディスの様子を見て……目が倍は欲しい、頭も腕も何もかもが2倍か3倍は欲しい。


「グゥーーーー!!!」


 するとグラディスから叱責するような声、なんで自分を頼らないんだと、ひどく怒っているようだ。


 グラディスには俺よりよく見える目があり、賢い頭があり……森の中での瞬間的な判断力もまた俺よりも数倍上のはずだ。


 ならばと移動などの判断を全てグラディスに任せて自分はライフルに意識を集中させる。


 こうして構えてみると猟銃がいかに取り回しが良かったかと実感する。


 取り回しも良いし、反動も制御しやすい……散弾を使えば狙いだってそこまで付ける必要はないし……まったくライフルってやつは。


 しかもこの長物で後ろを狙って言うんだから無茶苦茶だ。


 どう構えたら良いのか、どう体をひねったら良いのか……いや、待てよ、後ろを狙う必要はないのか。


 と、言うかライフルで後ろを狙うなんて方がおかしかったんだ、とにかく前を見てライフルを前に構えて……いつでも撃てるようにしたならグラディスに声をかける。


「今!」


 詳しくは説明しない、とにかく短く伝えて……グラディスはすぐに察して加速を始める。


 森の木々の合間を抜けて、ジュド爺とグスタフの攻撃を回避して……俺では絶対に出来ない動きと判断力で、どんどん速度を上げてくれて、そしてジュド爺達からある程度距離を取ったなら切り返し、ジュド爺達へと向き直る。


 そこで俺はライフルを即発射、しっかりと狙いをつけての発砲で……命中も何もないのだけど、しっかり狙ったということでジュド爺は納得顔だ。


 そのまま俺達はすれ違うことになり、すれ違いざまの投擲や突撃はグラディスが回避をしてくれる。


 俺はその間に排莢をし次弾を装填、発射可能にしたならまた構え直す。


 そしてグラディスもまた次のすれ違いのための準備を整えてくれて……それを咎めるためなのかジュド爺から鋭い投石が何度も何度も、激しく行われる。


 ……って言うか、ジュド爺もだいぶおかしいことになっているな……なんでグラディスと駆けっこで張り合えているんだよ……。


 そんな戦慄とドン引きをした俺は、ジュド爺との特訓を早く終えるために気合を入れてしっかりとライフルを構えるのだった。




お読みいただきありがとうございました。


次回は鍛練の続きとなります

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― 新着の感想 ―
キャッキャウフフと、若い衆とか恵獣達を普段から追い回してるんでは
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