決着、そして……
サイ魔獣を倒し終えて、ユーラとサープがホッと一息吐き出し、息を整えながら周囲を見回しているとまたもひび割れが現れてしまう。
またかよ!? と、突っ込みの声を上げたくなりながら、二人を休ませるために俺がと銃を構えていると、ひび割れから今までのサイ魔獣とは全く別物の、大きな角がこちらにやってこようとしてくる。
どうやらサイ魔獣の親玉がこちらにやってこようとしているらしい。
大きく力強く、さっきのやつの数倍はあろうという大きさで、これは待っているべきではないなとすぐさま引き金を引こうとすると、精霊達が飛んでくる。
シェフィ、ドラー、ウィニアの三精霊が、窓ガラスでもそこにあるように忙しなくペタペタとひび割れに触れると、ひび割れが修復を始めて……それでも角はこちらに来ようと暴れ始める。
シェフィ達が閉じようとしているひび割れも抵抗をしているのか、どんどん大きくなろうとするが、なった先からシェフィ達に閉じられてしまい……出てこようとするサイ魔獣と押し込もうとする精霊達の攻防戦が始まる。
そんな様子を驚きながら眺めていた俺は心を落ち着けながら銃の状態や装填の確認をし……ユーラとサープも息を整えて立ち位置を変えて、しっかりと武器を構えてとこの隙に状況を整えていく。
そんな状況のまま何分経ったか、精霊達とサイ魔獣の……角との攻防を見守っていると、精霊達の力が勝ったのか、あるタイミングからひび割れが一気に縮小していく。
どんどん小さくなって、ひび割れが角を包むような形になっていって……そこから更に縮もうとしているのか、角からギシギシと……破壊的な音が響いてくる。
そして……、
『あっ』
『おう?』
『あらら』
と、精霊達の声が上がったかと思ったら角が折れる……というか閉じようとする力に負けて切断されてしまう。
ドサリと地面に落ちて……血なのだろうか、どす黒い液体を周囲に撒き散らす。
「え、えげつないことになったなぁ……」
「さ、流石精霊様……」
「ひび割れの向こうでは大惨事って感じになってそうッスねぇ」
俺とユーラ、サープがそんな声を上げる中、ひび割れを懸命に閉じてくれていた精霊達はどこか申し訳なさそうにしながら、落ちた角や他のサイ魔獣の死体の浄化を始める。
他にもひび割れから入り込んだ瘴気があるらしく、周囲一帯の浄化も始めて……そんな様子をしばらく見守っていた俺達は、新たなひび割れが現れないことと、精霊達が警戒を解いての緩んだ顔をしているのを見て、戦闘は終わったものと判断して武器を下ろす。
それから俺は安全装置を入れて……二人はシェフィ達に武器を返そうとする。
さっきの武器は二人が自分達のポイントで作ったものらしい……それぞれの得意なことを活かす切り札として。
そして二人にとっては俺にとってのライフルのような特別な武器であるらしく、緊急時以外は使わないつもりらしいが……。
『ん? 整備して欲しいの? そうじゃなければ普通に持ってて良いよ?
仕組みは二人が考えたものだし、向こうの力も使ってないからね……自分で手入れしてみて、ダメだと思ったら預かって整備してあげるけど、ポイントがかかるよ?』
と、浄化中のシェフィに返されたことで、考えを改めたのか大事そうに抱えて、懐から布を取り出しての手入れを始める。
汚れを落とし油を塗って……綺麗にしてから精霊達に念の為に浄化してもらい、それから二人はまた武器を抱きしめる。
「狙い通り上手くいってよかったぜ……槍も悪くねぇんだが、いまいち力が伝わらねぇからなぁ」
「急所一点狙いならこれがあれば十分ッスよ!
ついでにこれなら沼地の連中の鎧とかも攻略出来るッスからねぇ……岩に引っ掛けて砕いたり割ったり、他にも色々使い道あるッスよ!」
それからそれぞれそんな声を上げて満面の笑みを浮かべる。
計画を組んで、それを形にしてもらって実戦で使って大成功。
試行錯誤の末の成功も嬉しいものだけど、何もかもが狙い通りに行くというのも嬉しいもので……今二人はそんな気分を味わっているのだろうなぁ。
……俺も何か考えてみるべきなんだろうか? しかしなぁ……銃に関する工夫なんてものは、あっちの世界で専門家達がやり尽くしているはずだからなぁ、俺なんかの浅知恵でどうにかなるとも思えないし……。
変に突き詰めていくと虐殺のための兵器とかになりそうだしなぁ……あとはもう使う側の問題、自分のことを鍛え直すとかだろうか?
猟銃はまぁまぁ使い慣れてきたけども、ライフルはまだまだだからなぁ……その辺りを突き詰めていっても良いのかもしれない。
……まぁ、弾のポイントがクソたっかい現状、射撃練習は出来ないのだけども……。
とりあえず取り回しの練習になるかな、軍隊とかだと担いで駆け回ったりするんだっけ? 崖を登ったり滑り降りたり……あとは戦闘中にどう持つのか、近距離で撃つとしたらどう構えるべきかなど、練習すべきことは残っているかもしれないな。
そうすると……またジュド爺に頼むのが一番だろうか、銃に詳しくなくても訓練の仕方とか、必要な筋肉を鍛える方法とか、近距離射撃に関しても良いアイデアを出してくれるに違いない。
最近のジュド爺は加護のおかげで肉体も気持ちも若返ったのか、精力的に狩りをしているし、若者達の鍛練もしているし……何なら恋までしているらしい。
ひどく驚かされたけども、年の近いお婆さんと良い仲なんだとか。
ジュド爺もお婆さんも伴侶を亡くしていて……一人だけで生きるよりは、ということのようだ。
いや本当に驚いた……驚かされた。
俺達に続いてジュド爺も良い相手を得て……村の暮らしが豊かになってきたからか、その幸せの連鎖は他の人にも波及していたりする。
恋仲になった、結婚した、子供が出来た……などなど、アーリヒが特に喜ぶ嬉しい知らせが毎日のように届くようになっている。
どんどん状況が改善している、前に向かって皆が進んでいる……だからこそ新しい脅威にはしっかり対応していかないといけない。
とりあえずは……さっきのサイとひび割れが何だったのか、浄化が終わったらしいシェフィ達に聞いてみるとしよう。
……と、そう考えているとシェフィ達もそれを察したのだろう、コクリと頷いて……どういうつもりなのか工房のモヤから紙芝居を取り出し、語り始めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は紙芝居です
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