ゲートの使い方
春が終わって夏が来た。
と、言っても全然肌寒くて長袖上着がなければ震えてしまう気温なのだけど、それでもこの辺りにとっては一年で一番暑い時期となる。
そんな気温以上に大事なことがあって、それは晴れの日が続くということで……一週間もそれが続くと雪解け水でぬかるんでいた土が乾く、乾燥期が訪れる。
そんな乾燥期にすることと言うと……村の移転と大洗濯で、乾燥する今のうちに水源近くへと引っ越し、そこでコタの布やら何やら……生活に使うありとあらゆるものを洗うことになる。
石鹸をたっぷり使い、虫よけの草の汁を染み込ませ、時には鍋で煮込んだりもして、徹底的に綺麗にし、乾燥した空気にさらすことでパリッと干し上げる。
これを欠かすと衛生的に大変なことになってしまうので村を挙げて……誰もが協力して洗濯を行うことになる。
という訳で今日はグラディス達の世話を終えるなりに洗濯の手伝いをすることになり……主に力仕事を頑張っていく。
水を吸って重くなった布を物干し台に干していき……そうしながらあれこれと思考を巡らせる。
今後の浄化をどうしていくか、ゲートをどう使っていくか……。
ゲート、ゲートか……どこでも繋げられるゲート……。
「たとえばゲートを空高く作って、下の岩場に落下させて魔獣を倒すとか……」
なんてことを呟きながら四角く畳まれた大きく重い布を持ち上げ、太い木材で作られた物干し竿にそっと……丁寧に開きながら置いていく。
すると物干し竿の隅っこに座っていたシェフィが声を返してくる。
『ゲートの安全性をどうするかって悩んでいる時に、そんなエグい提案されるなんて思ってなかったよ?
……可能と言えば可能だけど、それじゃぁ人間が頑張ったことにならないし、浄化も進みにくいんじゃないかなぁ』
「あ、ダメなんだ……。
……じゃぁ罠だらけの殺し間を作ってそこに魔獣を出現させて皆で一斉攻撃とか」
『ん、んー……ギリギリセーフではあるけど、戦士としてどうなんだって点でドラーの加護はもらえないかもねぇ。
浄化って点ではまぁ……出来ると思うけども』
更にそんな会話をしていると、シェフィの隣にぼわりと炎が上がり、ドラーが現れ声をかけてくる。
『知恵を練ること自体は悪いことじゃねぇよ? 罠だって立派な狩猟法だしな。
ただまー……オラの好みじゃぁねぇからな、それでいっくら魔獣を狩ってサウナに入っても、炎は味方してくれねぇよ。
知恵どうこうで加護が欲しいのなら他の精霊に頼むしかねぇんだろうな』
「そうなんだ……いやまぁ、浄化を進めたいって思いでの案だから、ダメならダメで良いんだけどね。
……しかし知恵の精霊かぁ、知恵の精霊って……どんな精霊なの?
火でも風でもないのなら……水とか?」
と、ドラーに返すとドラーはそうじゃないと笑いながら顔を横に振り、それから目の前に炎を作り出し……その色を赤色から青色、青色から紺色……黒色と変化させてから答えを返してくる。
『知恵を司るのは闇の精霊だぜ。
なんで闇が知恵だって顔してるな? ほら、インクって黒色だろ? で、インクってのは文字を書くためのもんだ。
文字ってのは見方によっては知恵の結晶だろ? だから闇のやつが知恵を司るって言い出したんだよ。
シャミ・ノーマは文字を使わないから寄り付かないが、文字……というか本を重視するとこには結構顔出してるみたいだぜ。
だからまー……罠とかでの加護は期待しねぇほうが良いだろうな。
良い悪いの問題じゃなくて相性の問題だな、相性の』
なるほど……文字を扱っていないからって知恵がないという訳ではないと思うけども、文字やインクが知恵の象徴というのは分かる話だ。
ちょっとした作戦や罠くらいなら良いのだろうけど、それを主体にしては評価外という訳かな。
『と、言うか今はゲートの安全性についてを考えて欲しいよ?
ゲートの使い方じゃなくてさ……いやまぁ、魔獣を狩る方法を考えること自体は悪いことじゃないんだけどもね?』
と、そう言ってきたシェフィが不満そうな顔をし……俺はふぅむと唸って少し考えてから言葉を返す。
「なら殺菌室みたいのをゲートの出入り口に作ったら?
ゲートに入るにしてもゲートから出るにしても、そこを通らないとダメ、みたいな。
僅かな空気も逃さないみたいな作りにして、可能な限りの防護を施して風とかで付着物を落とすようにして……食品工場の出入り口にあるようなアレを作れば安全性はかなり上がると思うよ」
そこまでの設備を作るとちょっとやそっとではないと思うが、色々と無茶な代物を作り上げる精霊の工房なら不可能ではないはず。
完璧な密閉と完璧な殺菌消毒……そこを俺達が通って狩りをするのなら、大体の問題は解決するはずだ。
それだけでなく俺達に予防注射をするとか、虫除けのあれこれを使うとか、海外旅行の時以上の対策をする必要はあると思うけども……それらもまた工房なら可能だろう。
なんてことを考えていると、シェフィがうんうんと頷きながら声を上げる。
『……なるほど。
確かにヴィトーの世界では普通に人が世界中を行き来していたもんねぇ……その際に行われる対策を真似したら良いのか。
……殺菌室、いや、防疫室? んー……いや、税関だね。
うん、精霊税関を作ろう、そこでゲートの出入りを徹底管理するよ。
そしたら悪用できないし、ヴィトーみたいな使い方も制限出来るからね!
安全安心、世界を守るためにもきっちりやらなとね……だからヴィトー、そのためのポイント集めをよろしくね』
シェフィの話を真似してうんうんと頷きながら聞いていた俺は、突然の言葉にぎょっとして「え!?」との声を返し……少しの間唖然としてから声を返す。
「俺がポイント集めるの!?
いや、必要ならやるし文句がある訳じゃないんだけど……俺が??」
『うん、そうだよ。
ゲートを作ってあげるのも武器を作ってあげるのと一緒、ボク達はあくまでお手伝いで、頑張るのはヴィトー達じゃないとダメなんだ。
だからゲートと税関を作るポイントはヴィトー達が集めてね』
武器と一緒と言われると……確かにその通りかという気分になる。
浄化のための道具、世界を救うための設備、銃だってそうなのだから……ゲートもそうなのだろう。
そうして納得した俺は深く頷き……、
「分かった、やってみるよ」
と、そう返す。
するとシェフィとドラーはそれを見て嬉しそうな笑顔を浮かべて、その笑顔でもって『頑張って』と、そう伝えてくるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はポイントのあれこれです