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目に見える目標



 ロレンス達はしばらくの間、こちらに滞在することになったらしい。


 あちらの騒ぎから逃げてきたからというのが理由で……それと春で過ごしやすいというのもあるようだ。


 出所は内緒にしているけども、地下畑から豊富な野菜が手に入ることで食事も美味しく……サウナもちょくちょく楽しんでいることから見るに今の村は、ロレンス達にとっては天国みたいなものなんだろう。


 ロレンス達が持ってきたワインや、ベアーテ達がお祝いということで用意してくれたビール? のようなお酒もあって、飲んで騒いでも出来て……村の皆もロレンス達の滞在を歓迎してくれている。


 今回はそれだけ得るものがあった。


 戦利品にロレンス達が持ってきた品々に……沼地でも浄化が進むって期待感に。


 全く意図していなかったことだけど、今回のことでロレンス達の発言力が増した結果、沼地でも消極的ながら浄化が進んでいく……らしい。


 いきなり全ての魔法禁止は無理だけども、出来るだけ使わないようにしながら魔獣狩りも進めていく。


 更には精霊信仰のための場も作るんだそうで……いつかは精霊に来てもらって、力を貸してもらえたらと考えているようだ。


 シェフィ達はそんなロレンス達に対し、まだまだ許しきれないという態度ではあったけども、ちゃんと考えて前に進もうとしている態度は認めてくれていて……このまま歩みが止まらなければ、きっと精霊達も沼地の人々に手を貸してくれることだろう。


 そんな風にロレンス達が村に滞在するようになって数日が過ぎたある日のこと……シェフィが昼ご飯時になったら広場に集まってくれと、そんなことを言っていたので、グラディス達の世話と食事を済ませてから広場へと足を向ける。


 すると広場の中央には大きな……布で包まれた何かがあって、どうやらこれはシェフィ達が用意した物であるようだ。


 大きさとしては、3mくらいあるのだろうか……? 何かのオブジェなのか何なのか……うぅん、予想もつかないな。


 そんな布に包まれたオブジェの周囲にジュド爺やユーラ達、村の大人達に長老衆、男衆に若者達に女性達、子供達やロレンス達も集まって……アーリヒが俺の隣に来たことで大体の村人が集合したことになる。


 見回りをしている人達、恵獣の世話をしている人達、サウナの管理をしている人達など不在な人もいるけども、それでも大体は揃った。


『皆そろったねー! これからお披露目するよー!!』


 そんな面々の前に降り立ったシェフィが元気な声を張り上げ……それから布をちょいと摘んで、手品師がやるかのようにバッと手を一振り、布を剥ぎ取ってみせる。


 あれだけの大きさの布を剥ぎ取るのはそう簡単ではないはずなのだけど、そこは精霊の力ということなのだろう、あっさりと成功し……姿を見せたのは木製地球儀だった。


 いや、これを木製と言って良いのかはなんとも言えない。


 まず広場に結構な大きさの大樹が生えている……まっすぐ上に伸ばした幹の途中が枝分かれしていて、空間のようなものが左右に別れた幹の間に出来上がっていて……そこに木製と思われる、絵の具を塗って地球を模したといった感じの大きな球体がはめ込まれている。


 いや、正確に言うならその空間に浮かんでいるようだ、浮かびながらゆっくりと回転しているように見える。


 そんな空間の上では別れた幹が合流していて、合流した先には普通に枝があって、まるで空間や地球儀などなかったかのように、普通の木のような姿をしてはいる。


 してはいるけども、地球儀が異様過ぎて……とても普通の木とは言えないだろう。


 そんな木の地球儀を見ての皆の顔は、疑問まみれというものだった。


 そりゃそうだ、そもそもこの世界というか大地が球体であること自体知られていないのだろうし、これを見てすぐに大地だと分かる人は……世界のどこかにはいるかもしれないけど相当なレベルの天文学者とか知識人に限られるはずだ。


 ロレンスの仲間達も疑問まみれという顔をしていたが……思い当たることがあるのか、ロレンスだけは真剣かつ青ざめた表情をしている。


『これはねー、この世界を模したものなんだよ。

 大地の形とか海の色とか、この世界の状況がそのまま反映されてるんだ。

 だからどこかの海で何かがあって赤くなったら、これの海の色も赤くなるんだよ。

 そして……こうすると、今の世界の浄化の進み具合が分かるんだよ』


 と、そう言ってシェフィが球体をトンと叩くと、球体の色が変わる。


 描かれている大地の形はそのままなのだけど、海を含めた全体が赤く染まり……そして一部だけが赤くならず青い色を発している。


 ただし青い色はまばらだ。


 北極近くの半島とその周辺……これは恐らく今俺達がいる、シャミ・ノーマの大地なのだろう。


 そこからだいぶ南に進んだ……さっきの球体の色を考えると砂漠地帯も今は青く光っている。


 それと地球儀の反対側にある島々も青い、離島と呼ばれる島々は結構な範囲で青色だ。


 海も3割程は青くなっていて……ヴァークの活動範囲なんだろうか?


 そして驚くことに全くの別大陸……俺達が暮らす大陸とほぼ同じくらいの大きさというか規模というか、面積をもった大陸の7割くらいが青色となっている。


 他にもいくつか大陸があって……恐らく世界全体の3割くらいが青色なのだろう。


『世界各地で皆が頑張ってるから、今の浄化具合はこのくらいかな。

 ……少ないと思った? これでもかなり凄いんだよ? ボク達が動く前はほとんどが赤色だったからね。

 自分達の頑張りは分かりやすいけど、他の人達の頑張りは目に見えないからねぇ……これを見てやる気を出してもらおうと考えたんだ。

 他のとこでも頑張ってる、他のとこに負けないように頑張って欲しい……これが全部青色になれば、もう魔獣やそもそもの原因たる諸悪の根源に怯える必要もなくなる。

 ……だから皆、これを見ながら頑張ってね、世界中の仲間達に負けないようにね!』


 と、そう言ってシェフィが地球儀に触れてくるくると回し始める。


 青色と赤色に染まった地球儀がくるくると。


 それを見ているうちに村の皆がわぁっと声を上げ始める。


 自分達のやってきたことが無駄ではなかったとはっきり知れた、世界中に仲間がいることを知れた……目に見える形で達成感を浴びることが出来た。


 そうして思わず上げた大歓声を。


 それからしばらくの間、広場は大いに盛り上がり……ロレンス達を巻き込んでの宴会が開始となるのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。


次回から新章突入です。



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