ロレンス達の顛末
村に戻ると早速ロレンスとアーリヒ達の話し合いが始まっているようで、族長のコタ周辺に人だかりが出来ていた。
更に族長コタの周辺に停められた荷馬車の周辺にも人だかりが出来ていて……6頭引きの馬車という、結構な大きさの荷馬車には、それなりの量の積荷が乗せられているようで、皆は興味津々だ。
ロレンスの仲間……というか護衛だろうか、剣を腰に下げた人達はなんとも困惑した様子でそんな村人達の相手をしていて……だけども誰もが微笑んでいることから、決して険悪な様子ではないようだ。
やはりロレンスにとって良いことがあったのだろう、護衛達もそのことを知っているようで、かなり緩んだ表情をしている。
そんな様子を見守っていると、族長のコタの中からジュド爺が出てきて、ニヤケ面でこちらへとやってきて……そしてサープや俺の胸をどんと叩いてきて、一言、
「やったじゃねぇか!」
と、そう言ってくる。
どうやら余程景気の良い話が族長のコタの中で行われているらしい。
「何があったんスか?」
サープがそう尋ねるとジュド爺は初めて見るようなニヤケ顔でもって大体の話を報告してくれる。
大体俺の予想通りの顛末だったらしい。
あちらに帰還したロレンスは、まず仲間の議員達に事の次第を報告したようだ。
仲間の反応は様々だったようだが、最終的にはロレンスを信じてその意見……シャミ・ノーマと友好関係を結ぶことに同意してくれたらしい。
それから仲間達と話し合って、議会用のカバーストーリーを作り出し、未開の蛮族に慈悲深い救いの手を差し伸べる代わりに、汚染の浄化方法を教えてもらうとか、手付かずの資源を開発してそれを輸入出来るとか、そんな話をしたようだ。
シャミ・ノーマは未開民族ではあるが、だからこそ瘴気への対抗策を知っていて、浄化も順調に進んでいる……長年魔獣と戦い続けて戦闘能力はかなりのもので、決して侮れない。
その性格を考えると戦力を使っての脅しや強制は逆効果、寛大な慈悲の手でもって協力させてやるのが最善……という感じだ。
かなりこちらを見下している内容だけども……まぁ、そんなものなんだろうなぁ。
自分達のことを先進的だと思っている国民や議会に、他の言葉で妥協と譲歩を納得させるのは難しいものがあるだろう。
……その先に依存しまくっている魔法を放棄するなんて目的があるなら尚の事で、ロレンス達は中々賢い手段に出たと言えるだろう。
そんなロレンス達の意見に反発したのは複数ある派閥のうちの二派閥……魔法研究を何よりとしている少数派閥と、伝統的な文化と魔法的な暮らしを守ろうとするロレンス達と敵対している議会最大派閥。
ロレンス達はどちらかというと先進的な考えをしていて、シャミ・ノーマの下にやってきたのもそうだし、魔法以外の技術を研究していたりと……その派閥とはあらゆる部分で考えが合わないらしく……予想していた通りにロレンス達の提案に反発し、そんな方法ではなく、武力による制圧をし、浄化方法を接収するという提案を議会に提出したようだ。
色々と議論があったようだが、うすうす瘴気と魔法の関係に気付きつつあるらしい魔法派閥が完全に敵に回ったことでロレンス達は敗北し……議会の承認を得た上での正式な派兵が決定したそうだ。
その第一弾が先日の連中だったようで……敵対派閥達は、この第一弾で勝利という決着となると予想していたが、結果は全く予想外の大惨敗。
全く気付かなかったのだけども、あの連中の中には魔法研究派閥から派遣されたかなりの腕前の魔法使いが何人もいたそうで、そいつらの魔法が全く通用しなかったとなって……敗残兵の報告を受けた議会はパニックとなったようだ。
まず魔法派閥が混乱のまま決議を辞退……そんなことよりも一体何があったかという調査と研究を優先したようだ。
敵対派閥は派兵失敗と、重要な戦力と、家族や身内を無駄に失ったという責任を押し付けあっての内部紛争が発生。
特に遺族となった議員達の怒りと混乱っぷりは凄まじかったようで……派閥そのものが瓦解しそうな状況らしい。
なんなら議員本人が戦死したなんてこともあったようで……結果相当な数の議席を失ったようだ。
逆にロレンス達の株は鰻登り……議会や国民から大絶賛の英雄扱いとまでなっているようだ。
社会問題となりつつある浄化の手立てを見つけて、正式な派兵をあっさりと撃退出来る程の戦力を有するシャミ・ノーマと優位な交渉を成功させていて、誹謗や批判を恐れることなく議会に提案した……救国どころか救世の英雄ってなくらいの持ち上げ方をされているようだ。
沼地の国には結構な数の隣国があるらしく、瘴気に困っているそれらの国からも好反応があって……それからロレンスは大使的な人達からの面会攻撃を受けることになり、それに疲れてしまったのと、どう対応するか考える時間が欲しいからとロレンスは、その混乱の中をどうにか抜け出して……お祝いというかお礼というか、とにかく集められるだけの物資を集めてこちらにやってきた……という顛末らしい。
ただそんな話をされても村の皆は、まだまだ議会が何なのか理解していないようで……なんとなしの空気感しか理解しきれていないらしい。
……まぁ、ロレンスと話し合ってるアーリヒ達は理解してくれているから問題ないだろう。
「お祝いの品って、具体的に何を持ってきたんだ?」
話を聞き終えてユーラがそう返すと、ジュド爺は肩をすくめてなんとも言えない顔をする。
恐らくはその詳細を聞いたはずなのだけど、覚えてなかったりそれが何か知らなかったりで言うことが出来ないのだろう。
するとそんな俺達のやり取りを聞いていたのか、護衛の一人が近付いてきて……羊皮紙と思われる紙を手渡してくれる。
俺が精霊と一緒にいる愛し子だから気遣ってくれた……かな?
しかし沼地の文字を渡されてもなぁ……と、思っていると、シェフィが目録を読み上げてくれる。
『えっと……ワインと蜂蜜酒、干し肉とかの食料と、宝石かな、多分。
えぇっとこれは、お宝? ああ、金銀とかかな? それと美術品……お皿とかかな? もあるみたい。
そーれとー……良い仕立ての服も何着かあるみたいだね。
ああ、フォークとかスプーンみたい方の食器も結構あるみたい』
価値のありそうなものを手当たり次第という感じかな、それが……馬車の中いっぱいにある訳か。
本当に慌てて来たのがよく分かる感じで……シェフィの読み上げを聞いた村の皆が盛り上がる中、とりあえず俺達は休憩でもするかとそれぞれのコタに向かうことにし……そしてコタに到着した俺は待ってくれていたグラディス達の世話をしていくのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はグラディス達のあれこれです