再びのロレンス
ライフルの性能に関しては、村の皆にも共有されることになった。
精霊達が常に側にいる精霊の愛し子が、それを悪用するということはないと分かっていても、凶悪な武器を持っていることを隠しているというのは良くないと思ってのことで、希望する人達の前での試射も何度か行われた。
ライフルの性能を知った皆の反応は……頼もしいとか羨ましいとか、そんな声ばかりで、不安の声とかは全く聞こえてこなかった。
ヴァーク族のビアーテなんかはもっと強くて凶悪な武器はないかと興奮気味で……ヴァーク族についている精霊に頼んで、船の上で使えるような銃に類する武器をなんとか作ってもらえないかと画策しているようだ。
……そうなると大砲とかになるのだろうけど、流石にそこまで行くと兵器になってしまうし、精霊も作ってはくれない……はずだ。
……しかし不安の声が全く無しとはなぁ……それだけ精霊を信仰しているのか純朴なのか。
少しくらいは不安に思ってくれても良いのだけど……沼地からの侵略者を撃退したこともあって、本当に喜びの声しか聞こえてこない。
まぁ、連中が持ってきた物資や倒した連中の装備が手に入って、テンションが上がってしまっているのもあるんだろうなぁ。
何しろ300人分の物資だからなぁ……食料だけでもかなりの量だ。
他にも塩やら砂糖やらお酒やら……装備の手入れのための工具や修理のための素材、予備の装備もいくらかあって、どれも質も出来がかなり良く、売るだけでちょっとした財産になるだろう。
鉄鉱山がないこの辺りではそれだけの量の鉄が手に入ったというのも嬉しいようで……早速溶かして何にするかという相談も行われている。
剣も槍もシャミ・ノーマの戦いには合わないし、ひどく寒くなるこの辺りでは鉄の防具の出番もないので、全て売るか溶かすかになるようだ。
売り先はヴァークで、ヴァークもまたほとんどを他所に売ることになるようだ。
海の上で鉄の防具というのも、錆びるし海に落ちた際に邪魔にしかならないので使うことはないらしい。
ではどこに売るかと言えば、世界各地で戦っている目的を同じとする人々で……同胞と言ったら良いのか、仲間と言ったら良いのか……精霊の下で戦う人々の下に届けられるようだ。
話を聞いて、仲間相手に売りつけるというのもどうかと思ったのだけど、支払いは人々ではなく精霊がしてくれるそうで……ヴァークにとっては貴重な『ポイント』を手に入れられる良い機会という訳だ。
『まぁ、ボク以外の精霊がボクと同じことをしてくれるとは限らないけどね。
工房以外の方法だったり、工房で作るにしても別の物を作るかもしれないし……ヴァークの精霊達のことだから、海の生活で役立つ何かをくれるのかもね。
同じポイントでも使い方は色々……知恵と工夫次第という訳だねぇ』
と、そんなことを頭に張り付いたシェフィが言ってきて……俺はそれに耳を傾けながら大量の物資が行き交う村の中を散歩していく。
大量の敵兵を殺したのが昨日で、今日から三日ほど俺は休暇を取ることになっている。
偉業を達成した英雄への褒美ということらしいけども、俺の心へのダメージを配慮してのことらしい。
俺としてはサウナにたっぷり入って、一晩寝て疲れも取れてスッキリした気分なのだけども……まぁ、皆の気遣いは素直に受け取るべきなんだろうなぁ。
『アーリヒとラブラブ混浴も出来たもんね?
元気いっぱいだよね?? まぁ、毎回ちゃんとサウナしてるのは褒めてあげるけどね、でもあんまり我慢ばっかりだとアーリヒも気分良くないんじゃない?』
「あーあーあーあー……流石にそこまで言及するのはマナー違反だよ。
精霊様でもマナーは守らないとね」
更に続く言葉に俺がそう返すと、シェフィも流石に良くないと思ったのか、それ以上は何も言わず……そうして俺は三日間、ゆったりとした日々を過ごすことになる。
妙に気遣いをしてくるユーラとサープ、そしてアーリヒ……だけでなく、テンション高い村の皆にチヤホヤされながらの三日間を。
そして三日が過ぎての昼過ぎ、鈍った体を鍛え直すための鍛錬を村近くの森の中でしていると、何人かの村人達が慌ただしく村の方へと駆けていく。
その様子を見ていると、鍛錬をしていた俺とユーラとサープに気付いた一人が声をかけてくれる。
「沼地のロレンスとかいう連中が来たみたいだぞ!
なんだか大量の荷物を持ってきたみたいでな、戦勝祝いってことらしいぞ!」
「そうなんだ……ありがとう!」
と、俺が返すとその人は、荷物を見に行くためか村へと駆けていって……俺は小首を傾げて「うーん」と唸り、ロレンスが荷物とやらを持ってきた意味を考える。
本当に戦勝祝い? 敵対派閥とは言え、身内を殺されているのに?
それでも敵対派閥を倒してくれたことが嬉しい? ……敵対派閥にとってそれだけ手痛い敗北となった?
「……あー、多分だけどロレンスは精霊の力のことや、銃の力のことを知っていて、沼地の人々に警告したんだろうね、多分。
だけど相手にされず、結局敵対派閥が動いて、結果はまさかの惨敗……ロレンスの警告が正しかったことが証明されて、評価を得て立場が変わった……のかもね。
敵対派閥が弱った上に、ロレンスが評価されたことで、天秤が一気に傾いて……それを喜んでの戦勝祝い……とか?」
自分なりに考えて言葉にすると、それを村の大人達……これからロレンスと色々話すことになるだろう人達に知らせるため、サープが駆け出す。
そしてユーラはバスンッと力いっぱいに肩を叩いてきて、爽やかなニヤケ顔を見せつけてくる。
よくやったと褒めてくれているのだろう、それをしっかりと受け止めた俺は、サープ程は急ぎはせずに、村の方へと足を向けるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、ロレンスに何があったかー……です






