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ロレンスの使い


 村の大人達に今後どうしていくかの話し合いだけども、結局は『待ちの一手』という結論になったようだ。


 何しろ沼地の状況や事情がよく分からないままだし、こちらから攻めて行くつもりがない以上は、相手の出方を待つしかなかった。


 ロレンスなら状況や事情を知っているのだろうけども、連絡方法がない上にいつこちらに来るかも謎なので、いつも通りの日常に戻って暖かい今のうちにすべきことをしようと、そういうことらしい。


 ただし、また変な薬を持ち込まれてはたまらないので、見回りの人数を増やすのと、侵攻などに備えて罠などを増やしておくべきだろうということにもなったようだ。


 そんな意見に対し反対意見や異論が出ることはなく、無事決まり……翌日からはいつも通りの日々が過ぎていった。


 そうして数日後……ある程度罠が完成してきたということで、罠作りに参加していなかった面々に、罠の確認をしておいてくれとの指示が出された。


 それは罠の確認ついでにどこにどんな罠があるか、ちゃんと目視をしておいて、間違って罠にかかってしまうなどの事故を減らそうとのアーリヒの案があっての指示で……なるほど、確かにその通りだということで、俺とユーラとサープ、それとグラディスとグスタフというメンバーで罠の確認を行うことになった。


 皆が仕掛けた罠の種類は……様々だ。


 くくり罠のようなものや、落とし穴、それとトラバサミに近いバネ罠なんかも何個か仕掛けられている。


 それらの周囲には罠を作る際に出た鉄くずやらがばら撒かれていて……その匂いがあるからか、それらの罠にかかった獣は、今のところ一頭もいない。


 野生の動物は鼻がよく、特に鉄の匂いに敏感で、鉄を使った罠とかは川に沈めておくだとか、土に埋めておくだとかして、匂いを取らないと獲物がかからないものらしい。


 今回は獲物を狙っての罠ではなく、対人が目的だからとあえてそれらの匂いがするものをばら撒いておいたということらしい。


 他にも恵獣達の糞尿や角の粉末などもばら撒かれていて、それらも獣避けになるそうだ。


 角の粉末も効果あるのか? なんてことを思ったりもしたのだけど、恵獣達は木に角を擦り付けて縄張りの主張をすることがあるそうで……同じ恵獣にはそうして出来た木の傷で、他の獣にはその際に出た角の削りカスでもって、ここに近寄るなとの警告を出しているんだそうだ。


 そんな様々な獣避け対策をしてある罠地帯の確認をしていって……そして一通りの確認をした上で、罠地帯側にある岩の上に腰掛けた俺は、ため息を吐き出しながら感想を口にする。


「……罠、仕掛けすぎじゃない?」


 すると同じ岩に腰掛けて休憩をしていたユーラとサープは無言で視線を逸らすという反応を見せてくる。


 罠、罠、罠、そこら中に罠……密度が濃すぎてグラディス達の体では歩くことすら困難な場所が多く、何度も何度も迂回しての移動をしたくらいに罠だらけだった。


 いやまぁ、これから侵略してくるかもしれない相手がいる以上、それだけの対策をするのは当然のことなのかもしれないけども……しかしやり過ぎでは? という気分にもなってくる。


 一応沼地から村までのほぼ一直線の道や、その周囲には仕掛けていないので、普通にやってくる分には問題ないのだけど、道を外れたが最後、待っているのは地獄だと思う。


 これだけ多すぎるとすぐに罠が見つかってしまって効果がないのでは? なんてことも思うけども、逆にこれだけ多いと全ての罠を見つけきるのは難しく、どれかに引っかかる可能性が高く……うん、簡単に攻略出来るものではないのだろうなぁ。


 最善手は立ち入らないことで……ロレンス達がやってきたなら、絶対に道から外れないように注意しておかないといけないだろうなぁ。


 ……なんてことを考えていると、俺の足元……岩に寄り添う形で座って体を休めていた、グラディスの耳がピンと立つ。


 続いてグスタフの耳も立って、すぐさま立ち上がるグラディス達……どうやら何かの気配を感じ取ったらしい。


 それを受けて俺達もすぐに立ち上がり、ユーラとサープは精霊の槍を、俺は猟銃を構えてグラディス達が意識を向けている先……南へと向かっている道の方へと足を進めていくと、一人の男性の姿が視界に入り込む。


 フード付きのマントに背負カバン、しっかりとしたブーツでもって出来たばかりの道を駆けていて……目立つ武器なんかは持っていないようだ。


 カバンもそれ程大きくなく、結構な軽装だと言えて、そんな装備で沼地の人が一体全体何をしにきたのだろう? と、そんな疑問を抱きながら慎重に近付くと、こちらを見つけたその男性が声を張り上げてくる。


「ロレンス様の使いのものです!」


 その言葉を受けて俺達は顔を見合わせ……そしていつものように俺の頭上にいるシェフィへと視線をやる。


『嘘はついてないんじゃない? ロレンスに似た匂いがするし』


 するとシェフィがそう返してきて……たった一人の軽装の相手ならばと、ひとまず武器は向けずに近付いて、俺が代表する形で声をかける。


「シャミ・ノーマ族のヴィトーです。

 ……ロレンスさんの使いとのことですが、何かトラブルですか?」


 するとその思っていたよりも若い、青年と呼ぶべきだろう男性は足を止めて居住まいをただし、フードを脱いだ上で軽く茶髪に覆われた頭を下げてから、呼吸を整え……ハキハキとした声を返してくる。


「はい、我々というよりも、そちらに関するトラブルで……武装した者達がこちらに向かっています。

 人数は300人前後、300人のうち武装した騎士が100人、残りはその従卒となります。  

 目的は……まず名目としては以前こちらに派遣し、失踪したという者達の回収や調査とのことですが……人数が人数です、村の制圧なども考えていると思われます。

 今回のことにロレンス様は関わっていません、もちろん制圧なども望んでいません。

 ……ロレンス様はその程度の戦力では制圧など出来るはずもないとのお考えのようですが、そうだとしても知らせるのが義務だろうとのことで、自分を使いに出しました。

 今回派遣を行ったのはロレンス様と敵対している勢力です、それを妨害することも介入することも難しく、情報を知らせることしかできないことをお詫びしたいとおっしゃっていました。

 状況が落ち着きましたらまた改めてこちらにお邪魔し、事情の説明を行いたいとのことです」


「……簡潔な説明ありがとうございます。

 一つ質問なのですが、仮にその全員を殺害したとして、問題はありますか?」


 武装集団300人が害意を持って侵入してくる。


 ……薬物の持ち込みどころの騒ぎではない、完全な侵略行為で……それに対する対応は応戦しかなくなり、結果そういうことにもなるのだろうと考えての俺の言葉に男性は一瞬目を丸くしてから、すぐに視線を逸らして考え込み……それから言葉を返してくる。


「あると言えばあります。

 そんなことになれば当然我が国は警戒感を顕にするでしょうし、派遣した勢力の恨みを買うことでしょう。

 遺族なども黙ってはいないでしょうし……禍根を残すことになるでしょう。

 ただ侵略者に対し自衛するなとは言えませんし……ロレンス様からすると敵対勢力の敗北という失態と、戦力喪失はありがたいことではあるので、きっと相応のフォローをしてくださるのではないかと考えます」


 真剣に考えて誠実に返してくれているのだろう……態度や表情からそのことが分かった俺は、とりあえずの情報共有ということで男性に、失踪した連中が何をやらかしたのかという話を、隠すべき部分は隠しながら話していくのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はVS侵入者です

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