尋問
尋問は広場で公開される形で行われた。
デトックスの時と同じ効果を狙ってのものらしく……また心配そうにしている好戦派の家族への配慮もあってのことらしい。
室内でやればどんな拷問じみたことがされているのかと不安になってしまうだろうからと、そういう理由のようで……好戦派が黙り込むようなら最悪、そういうここともする予定だったのだけど、好戦派達があっさりと口を開いたために、予想していたよりも尋問は穏やかに進んでいった。
結論から言ってしまうと、俺があの時に予想していた流れと大体同じことが行われたようだった。
やはりあの薬は、沼地の人々がシャミ・ノーマを内部から崩壊させようと持ち込んだものらしい。
以前やってきたロレンス達とはまた違った派閥の人間達がこっそりとこちらの領域にやってきたのを見つけた好戦派は、なんとも意外なことに即排除しようとはせず、まずは情報収集だと交渉を試みたらしい。
自分達は反主流派で、族長を排除しての反乱のようなことを狙っていて……沼地の人々との交流にも興味があると、そんな嘘を混じえながら。
結果としてその試みは大成功、沼地の侵入者達は好戦派の本当の目的を見抜けないまま上手く利用出来ると思い込み、味方になってやるぞと、そんなことを言いながらあれこれと情報を教えてくれた上で、色々な物資を与えてくれたらしい。
自分達に好意的な勢力が主流派になってくれたらという、そういう期待もあってか、かなりの量の物資を手に入れたようで……その中にあの薬があったとのことだ。
好戦派はそうやって沼地の連中の力を利用しながら沼地へと攻め込み、力での支配領域の拡大を目論んでいたようで……今日の試合で優勝することで、それが可能なくらいの力があると周囲に見せつけて、村の皆からの支持を集めて主流派となって……なんならアーリヒと良い仲になろうとまでしていたらしい。
そのためには俺の排除が必要で、排除するためだったら怪しく、危険性のある薬を使うのもやむ無しで……その末路があの有様と、そういうことのようだった。
「全く……馬鹿な真似をしおって。
……それで? 物資を受け取った後、沼地の連中はどうした? 沼地に帰ってまたこちらにやってくると?」
広場の中央に身を寄せ合いながら座り込み、デトックスへの恐怖からかガタガタ震えながらそれらのことを吐き出した好戦派に対し、一歩前に進み出たジュド爺がそう尋ねると……好戦派の一人が事も無げに言い放つ。
「そんなの、物資を受け取った時点で全員殺しましたよ。
オレ達が沼地の連中を見逃す訳ないでしょ」
そんな言葉を受けて、好戦派を囲むように立っていた村の皆は、なんとも言えない顔となる。
馬鹿なことをしやがってと、皆の中には叱りつけたい気持ちがあるようだけども……相手は世界を汚染している沼地の人々、その中でもこちらにヤバい薬物を持ち込んでの薬物汚染を目論むような連中だ……殺して当然と言うか、他の人が発見していたなら、紆余曲折は経るかもしれないが結局は死刑にしていただろう。
捕らえてアーリヒに報告し、村の皆でどう対応するかを相談し、死刑を決断……結果だけを見れば同じことにはなっていただろう……そもそも無断で侵入してきた時点で攻撃対象でもある訳だしなぁ。
いや、様々な情報と物資を奪えたという点を見れば、ただ殺すよりは良い結果を引き出したと言えなくもない。
彼らがやらかしたことによって沼地の人々との関係が悪化したり、警戒感が高まったりする可能性もある訳だけども……元々良い関係だった訳でもないからなぁ。
あとはまぁ、ロレンス達がどう思うかだけども……ロレンス達の敵対勢力のようだし、最悪の結果にはならないはずだ。
……殺人に対する倫理的なあれこれは、まぁ、ここで言っても仕方ないのだろうし、今は置いておくとしよう。
あと気になるのは精霊達がどう思うかだけど……と、上空を見上げると、シェフィ達は頬を膨らませてぷりぷり怒っている。
そして俺の視線に気付いたのか、それぞれ怒りの理由を言葉にしていく。
『ヴィトーとアーリヒの関係はボク達が認めて祝福したのに、邪魔するとか言語道断だよ!』
と、シェフィ。
『薬なんかに頼るやつは、戦士じゃねぇ! せっかく加護を与えてやったのになんてザマだ!』
と、ドラー。
『結果が同じだからって、大人に相談もせず好き勝手やっちゃダメでしょ……』
と、ウィニア。
村に顕現した三精霊共に、好戦派を許せないようだ。
それぞれ正論であり、更に精霊様の言うことだからと、多くの大人達がその意見に賛同する……中、ジュド爺が更に質問を投げかける。
「で、物資ってのは具体的にどんなもんがあったんだ? 薬だけじゃぁねぇんだろ?
詳細とどこに隠しているのかもさっさと吐けや」
すると若者達は素直に、記憶を探りながら物資の詳細を答えていく。
まずは鉄製武器……沼地の人々はシャミ・ノーマ族が原始的な暮らしをしているものと思い込んでいるらしく、鉄製の武器さえあれば勝てるだろうと、結構な量を持ってきたらしい。
剣、槍、短剣などなど……あまり質はよくないものが多いようだけども、量はかなりのもののようだ。
防具などはなし……まぁ、甲冑とかって作るのにとんでもない手間がかかるらしいし、その分だけ価値も跳ね上がるから、用意する気すらなかったのだろう。
一応盾が数枚あったようだけど、それもそこまでの数はなかったようだ。
……これに関しては素直にありがたいと言って良いだろう、最悪溶かしてサウナストーブの材料にでもしたら良いし、鉄を貰えたと考えれば悪くないはずだ。
そして件の薬物……俺と戦った彼が使ったもの以外にも、結構な量があるようだ。
そして酒……あまり質が良くないワインをそれなりの量持ってきたらしい。
それらだけでなく金貨銀貨もかなりの量あったようだが……そこに関しては本当か? と、誰もが懐疑的だった。
反乱を支援するにしても、貴重な金銀をそんな雑に明け渡すだろうか……?
そんな疑問はジュド爺も抱いていたようで、
「その金貨か銀貨、今持っているなら見せてみろ」
と、そんな言葉を投げかけ、若者の一人がおずおずと金貨を差し出すと、懐から抜き出したナイフでもって金貨を叩き……表面の金メッキというか、雑に貼り付けられた金箔を剥ぎ取る。
案の定、偽金貨だったようだ。
それを村の中で使わせて……ヴァークとかの取引で使わせて、シャミ・ノーマの信用失墜とかを狙ったのだろうか?
こんな雑な偽金貨、放っておいてもすぐに剥がれてバレそうなものだけども……。
それを見て好戦派の何人かは肩を落とし、大人達はそれ見たことかという顔になり……ジュド爺は、贋金の中身が鉄であることに気付くと、これはこれで使い道はあるかという顔になる。
そうして大体のことを聞き終えた大人達は、その後の対応をどうするのか、沼地の人達が殺された人達に関して何かを言ってきたらどうするのかといった話し合いを始めて……ひとまず今回の尋問は終了となるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はその後のあれこれです