二度目の……
全試合が終わって試合会場だった円の上に木材が組み上げられ、そこで焚き火が始まり……同時に食事次々に運ばれてくる。
既に食べていた人もいた訳だけど、参加者の多くはまだ手をつけておらず……腹を空かせた参加者のための豪勢かつ大盛りな料理が次々に焚き火の周囲に並べられていく。
すると参加者のうちの何人かは、汗も汚れも気にせずに料理の前に腰を下ろして食事を始めるのだけども、俺としてはやっぱり食事の前に汚れを落としたい訳で、素直にサウナの準備が終わるのを待つことにする。
食事の場から少し離れた所に座り、水分補給だけはしてゆっくりと体を休めて……と、そうしていると焚き火の上で踊って、今日という日を祝っていた三精霊達がこちらへとふわふわ飛んでやってきて、そして俺の手に小さな小瓶を押し付けてくる。
『はい、今回のオススメアロマオイル。
ヴィトーならきっと気に入る香りにしてあげたから、楽しんできてね』
そしてシェフィが代表する形でそう言ってきて……俺は首を傾げながらも「ありがとう」と返し、小瓶を無くさないようにしっかりと握り込む。
なんか以前もこんなことがあったような……?
なんてことを思うが、疲れた頭ではどうにも思い出せず……とにかくまぁ、サウナを楽しめるアロマオイルなんだから深く考えることもないかと気にしないことにして、体を休めることに集中する。
そうしているとすぐにサウナの準備が整ったと、サウナの管理人さんが知らせてくれて、それを受けて俺は筋肉痛のような痛みを訴える体をどうにか立ち上がらせて、とにかくサウナだと足を進める。
そしていつものように服を脱いで体を丁寧に洗って……今日は汚れたので特に丁寧に洗って、タオルと小瓶を手にサウナへと入る。
「ヴィトー、お疲れ様でした、頑張りましたね」
直後、アーリヒの声が響いてきて……思わずそちらへと視線をやった俺は、サウナ中のアーリヒを直視することになる。
ま、またかぁ。
というかシェフィめ、また知っていたな、以前みたいに……!
そしてこの小瓶……前回のレモンオイルと同じく、いい香りを二人で楽しめと、そういうつもりで用意してくれたらしい。
おせっかいと言うか何と言うか……俺はなんとも言えない気分になりながら小瓶をアーリヒに見せて、それをロウリュ用の水に混ぜた上でロウリュを行う。
するとすぐにアロマオイルの香りが広がって……その懐かしい香りは、どうやらサクラのアロマのようだ。
「サクラかぁ、懐かしいというかお腹が減る香りだなぁ」
サクラの香りを嗅いで普通ならサクラの花を思い浮かべるのだろうけども、俺は違って桜餅が浮かんできてしまう。
桜餅を食べた時、口の中いっぱいに広がるあの香り、あの香りが今熱気と共にサウナ中に広がっていて……桜餅の独特の美味しさをついつい思い出してしまう。
料理屋などで食後に桜湯……サクラの塩漬けをお湯に入れたものが出てきた時にも、桜餅のことを思い出して、ご飯を食べたばかりだというのに和菓子屋に足を運んでしまったりもしていた。
「これは……花の香りですか? 随分と爽やかな……良い香りですね」
あれこれと思い出しているとアーリヒがそう言ってくれて、俺は頷きながらアーリヒの隣に腰を下ろし、口を開く。
「これはサクラっていう、俺の前世の故郷の花の香りだね。
大きな木に咲く春の花で、とても綺麗な花ということで前世の国では一番有名というか、愛されていたというか……この花が咲く時期には、木の下で皆で集まって宴のようなことをしたりもしていたんだ。
そして食用としても活用されていて……春になるとこういった香りのお菓子なんかがお店に並んでいたねぇ」
「なるほど……とても素敵な花の香りなんですね。
それをわざわざ……ありがとうございます」
前回もそうだったけども、用意したのは俺ではなくシェフィなんだけども、今それを言うのも野暮なんだろうなぁ。
シェフィの気遣いをありがたがるべきか、自分の至らなさを恥じるべきか……。
今そこら辺のことで悩むのも違うかなと考えた俺は、アーリヒに視線をやって……見つめ合いながら二人の時間を過ごすことにする。
何か言葉を交わしたりすべきか? なんてことも考えるけどもここはサウナ、そんな長時間を過ごせる場所ではないのだし、今はこの熱気とサクラの香りと二人きりの時間を楽しむだけでも十分だと……思う。
ちょっとだけ視線を下げたくなる気持ちもあるけど、それも我慢……今変な考えを持つべきではないのだろう。
そうしてサクラの香りに包まれながらじっくりと蒸されたなら、二人で湖へ、そしてダイブしての水風呂モード。
水風呂を堪能したなら瞑想をしっかりして……今回も整えたけどもレベルアップとかはなかった。
まぁ、試合を鍛錬と言って良いかは微妙だからなぁ。
それから着替えてすっきり爽快、疲れもある程度抜けた状態で広場に戻る。
広場ではまだまだ食事が続けられていて、大いに盛り上がっていて……そこにベアーテがのっしのっしと大股で歩いて現れる。
「よく頑張ったね! アタシからの祝いだよ!!」
ベアーテがそう言いながら担いでいた何か……動物か何かの皮で包んでいたものを、料理を並べるためにと用意されたテーブルのように組み上げられた木箱の上にドシンッと置いて、それから皮を開いていく。
その中に入っていたのは大きな魚だった。
大きさとしては1.5mくらい? ベアーテの力でも担いで運ぶのに相当な苦労をしたに違いないそれは、大きさはマグロのようなのだけど、見た目としてはマスとかに似ていて……しかしヒレとかが随分と尖っているというか、力強いというか、見たことのない作りをしている。
こちらの世界特有の魚……なんだろうか?
そんな魚を目にした村の皆やアーリヒは目を輝かせて喜んでいて……どうやらどんな魚かを知っていて、その登場を喜んでいるようだ。
俺の……ヴィトーの記憶には無いのだけども、うぅん、たまたまヴィトーの視界に入ることがなかった、のだろうか?
なんてことをあれこれ考えていると、ユーラが大きな刃物を持って駆けつけて、それをベアーテに手渡す。
するとベアーテはなんの躊躇もなくそれを魚に振り下ろして……まさかの謎魚の解体ショーが開催されるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は謎魚やら何やらです
そしてお知らせです!
皆様の応援のおかげで先日発売したコミカライズ1巻が重版となりました!
本当にありがとうございます!
これからも楽しんでいただけるよう、頑張っていきますので、引き続き変わらぬ応援を頂ければ幸いです!!






