サープの試合
「勝負あり! ヴィトーの勝ちです!」
ユーラが尻もちをついたのをみてアーリヒが声を上げる。
それを受けてユーラはがくりと項垂れるが、すぐに顔を上げて笑顔で口を開く。
「ま、負けたかぁ……やっぱり技も鍛えねぇとダメだなぁ」
「……こういう足技の経験があった分だけ、俺に有利だったね」
そう返した俺が手を伸ばすとユーラは、がっちりと掴んで……素直にというか、俺に引っ張られることをしっかり受け入れて、その勢いを利用して立ち上がる。
だけども疲労がかなり来ているのだろう、しっかりと立てていないというか、足が震えてしまっていて……それを見てかユーラの家族が駆けてきて、ユーラに肩を貸して、休憩が出来る場所へと連れていく。
「負けんじゃねぇぞ!」
振り返ったユーラの言葉に、
「ユーラに勝てたんだから誰にだって勝てるよ!」
と、俺が返すとユーラはさっきよりも柔らかな笑みを浮かべて休憩所へと去っていく。
……と、見送ったは良いものの俺も結構疲れが来ていて、ふらふらとシェフィ達の観戦席へと向かい、そこに敷いてあった絨毯のような布の上に腰を下ろす。
と、すぐに調理担当の女性の一人がお茶を……黒糖がたっぷり入ったハーブティを持ってきてくれて、それを一気に飲み干す。
それから深いため息……いやぁ、ユーラにはあんなこと言ったけど、これは次の試合ではあっさり負けるだろうなぁと、そんなことを思ってしまう程に体が疲れている。
ユーラとやる前はそうでもなかったのに、ユーラに体力の大半を持っていかれてしまったのだろうなぁ。
『頑張ったねー、最後の方は柔道かな? ヴィトーは前世で結構やってたもんね?
服があったらもっと色々出来たのかもねー』
なんてことを考えているとシェフィが声をかけてきて……俺はハーブティを飲み干してから言葉を返す。
「まぁー……柔道というよりは、この体のおかげの勝利って感じだったけどね。
ユーラはもう力が強すぎて、あのでかい手で思いっきり掴んでくるっていう、それ自体が攻撃になっていたから……普通の体では耐えられなかっただろうなぁ」
『まー、ユーラもヴィトー相手だから全力を出せたとこあると思うよ?
他の子相手ではそこまで力入れてなかったし……ユーラにとってはすごく良い経験だったんじゃないかな?
きっと良い糧にして成長してくれると思うよ』
「あ、そうなんだ、あの怪力は俺だけだったんだ……いやまぁそうか、他の人だったら骨が折れていてもおかしくなかったもんなぁ。
はぁー……それならまぁ、この体で良かったってことなんだろうね。
……もう次は無理だろうけども……」
『いやいや、頑張って頑張って、次も頑張ってよ!
次でラストなんだから、もう一踏ん張りだよ?』
「え? ああ、そう言えばそうだったね……なんだかユーラ戦が凄まじくて忘れていたよ。
そっかぁ、次が決勝か……次は多分サープが対戦相手になるんだろうなぁ」
と、そんな会話をシェフィとしていると次の試合の準備が整って、サープと対戦相手が円の中に入っていく。
サープの対戦相手はユーラに負けず劣らず体格が良く、筋肉もそれなりのものだ。
ただ筋肉量がユーラより少ないというか、脂肪量が多いというか、ユーラ程引き締まった体ではないようだ。
……ただ細身のサープからすると筋肉だろうが脂肪だろうが、相手が重ければ重い程不利になる訳で……かなり相性の悪い相手だと言えるだろう。
俺のように頑丈な体でもない訳だし……と、心配していると相手と組み合ってアーリヒから開始の合図があって、試合が開始となる。
直後、対戦相手の膝がガクンッと勢いよく折れて、そのまま地面に膝を突いてしまう。
「え!?」
『え!?』
『はぁ!?』
『うわっ!?』
俺とシェフィ、ドーラとウィニアの声が同時に出る。
「えっと、相手が転んだ……とかではないよね?
多分サープが技を仕掛けたんだとは思うけど……何をしたらあんなことに?」
『なんだろうねー……ボク達でもちょっとわかんないかな。
相手の力を利用するような合気道とか? そういう系の技術なのかな?
試合開始直後だったから、その時のやる気とか勢いを利用したとか?
うーん、一瞬過ぎたからなぁ……あとで録画を見直して検証しないとだね』
「あ、録画とかしているんだ……。
それならまぁ、その検証結果を待つか、本人に聞くかになるけども……いやぁ、休憩する時間がなくなっちゃったな」
と、シェフィとそんな会話をしてから俺は小さなため息を吐き出す。
サープの試合時間を少ないながらの休憩時間にしようと思っていたのだけど、決着があっという間過ぎて休憩も何もない。
『それが狙いだったんだろうね。
ヴィトーに休憩時間を与えず、かつ自分の体力も消耗させない。
賢いサープらしい作戦で……これは作戦が良かったと褒めるしかないかな。
……ほらほら、サープの素晴らしい作戦を無駄にしないためにも、すぐに行ってあげなきゃダメだよ』
そしてシェフィのそんな正論に促された俺は、重くなった足でどうにか立ち上がって、試合会場へと向かっていく。
するとサープは爽やかな笑顔でもってこちらを迎えてきて、俺はぎこちない笑顔を返す。
サープもサープなりに疲れているはずなのだけど、しっかりと余裕を見せつけてくるのは流石だよなぁ。
そして決勝ということもあってか、場は一段と盛り上がって大歓声が上がり、大歓声の中で俺が勝つか、サープが勝つか、まるで賭けているような声まで飛び交う。
ざっと数えた感じ、五分五分……村の皆もどっちが勝つかは分かっていないようだ。
そんな中、サープと向き合うとサープは笑顔を炸裂させながら元気な声を張り上げてくる。
「はっはっは、まさか決勝でヴィトーでやり合うことになるとは思ってなかったッス!
自分が途中で負けるかユーラとやり合うかのどっちかだと思ってたんスけどね……。
だけどヴィトーとやり合った時用にちゃんと準備はしてあるッスよ! 作戦も技も十分過ぎる程に準備完了ッス!
絶対に負けないッスよ!!」
その言葉すら作戦のうちなのだろうなぁと、そんなことを思いながら俺はシンプルな言葉を返すことにする。
「俺も負けないよ」
そうして組み合った俺達は……アーリヒの合図と同時に全力でもってぶつかり合うのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、VSサープになります






