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説教の怒号の中で


 俺の試合が終わった途端、大人達が駆けてきて、相手の若者への説教を始める。


 説教というか怒鳴っているだけというか、何しろ人数が人数なので聞き取れない程の怒号となってしまって……そんな中、若者は倒れたまま空を見上げ、虚ろな表情を浮かべている。


 その目を見てみれば瞳孔が開いていて、おかしな色に染まっていて……うん、確実になんらかの薬物を摂取しているようだ。


 俺はその騒ぎの中、静かに様子を見守っていたアーリヒや長老達がいる場所へと向かい……他の人達に聞かれないよう小声で、そのことを伝える。


「あの子どうやら、おかしな薬を飲んだみたいだ。

 興奮作用があったり、肉体の限界を超えるような……もしかしてだけど中毒性があるかもしれないやつだね。

 試合中様子がおかしかったのも、その薬のせいだと思う」


 するとアーリヒは怒りながらも冷静さを失わないように怒りを飲み込み……そして長老衆はなんとも呆れ果てたというような様子になる。


「……そんな薬一体どこから……」


 そしてアーリヒがそう呟き、俺は怒号の中にいる若者の方を見やりながら小声を返す。


「魔獣の内蔵がそんな効能あるとか言われてなかったっけ?

 それと沼地の方から仕入れたのかもしれない。

 ……沼地をどうにかしたいと言っている連中が、沼地から物を仕入れているってのはおかしな話ではあるけど、歴史的にはそんなに珍しい話でもないというか、よくある話なんだよねぇ。

 ……もしかしたらこの騒動自体、沼地の連中が仕組んだことなのかもしれないし」


「……それは以前来たロレンスとかいう奴か?」


 その問いかけは長老の一人から発せられたもので、俺は首を左右に振りながら言葉を返す。


「多分ですが違います、ロレンスが何かしようと思ったならもう少し賢い手段があったでしょうし……。

 むしろロレンスがこちらとの交渉に成功したことに焦っている、邪魔しようとしている第三者の可能性が高いと思います。

 ロレンスがしたことと勘違いさせて仲違いさせたかったか、こちらに混乱を招きたかったか……あるいはあの薬の力は素晴らしいなんて考えが広まることを期待していたか。

 中毒性の薬物を広めて弱らせてから攻めるなんてのもまたよくある手段ですからね」


「ん? ……ああ、なるほど。

 力比べがあると聞いて、薬の使用者が勝てば話題になって広まると考えたか。

 そうして中毒になっているところを攻め立てる……か、沼地の連中らしい考え方だ」


 と、そう返して長老の一人は渋い顔をし、何人かはこれだから沼地の連中はと表情を歪めるが……まぁ、うん、このくらいのことはしてくるのだろう。


 直接やり合って勝てないというか、損害が大きくなりそうなら絡め手というのはよくある話……。


 そういった時には宗教を広めて、なんて手もあるのだけど、精霊様が顕現している今、そういった手も使えずに薬物という選択肢を選んだのだろう。


 沼地の……魔法推進派なのか、ロレンスと敵対している連中なのか、とにかくそういった連中が、彼らに上手く取り入って薬を与えた、と。


 好戦派は好戦派で、沼地の連中を上手く使ってやろうとか、そんな思惑があったのだろうけども……相手の方が一枚上手のようだなぁ。


「……ところでシェフィ、彼の体内の薬物って、こう精霊の力で抜くことって出来ないかな?

 中毒になられちゃうと後始末が大変だからさ」


 あれこれ考えて、小さなため息を吐き出して、それから頭上を見上げながらそう声を上げると、未だにプリプリ怒っていたシェフィが、俺の頭に着地しながら声を返してくる。


『まぁ、出来なくはないよ。

 ないけど簡単じゃないよ? すっごく辛いよ? 簡単にホイホイって抜いてなんてあげないから』


「……ぐ、具体的にはどう辛いの?」


『そうだねー、サウナに入ってもらおうかな、ボク達が作る専用のデトックスサウナ。

 そこで毒が抜けきるまで休憩無しで徹底的に蒸されてもらうよ。

 あ、もちろん病気になったり死んだりしないよう守ってあげる……守ってはあげるけど、辛さはそのままだよ。

 サウナの熱で蒸されて蒸されて、馬鹿な考えまで抜けきるまで徹底的にやるよ!

 脱水症状みたいなの起きるけど、死ぬことはないからそこはご安心!』


 ……なるほど?


 つまり休憩も水分補給もなしでサウナに入り続けろと? 脱水症状が起きて頭痛や吐き気に苛まれて、普通なら意識を失うレベルでも意識を失えず死ぬことも出来ず、ただただ耐え続けろと?


 ……拷問かな?


 何一つとして安心出来ないシェフィの言葉に俺が戦慄する中、何故かアーリヒや長老達は満足げで……うんうんと頷いていたりもする。


 ……サウナをそんな風に使って欲しくないという気持ちもあるけども、確かにデトックス的な効果を期待するのなら悪くない……のかも?


 いや、実際そんな効果があるのかは分からないけども、何しろ精霊が作るサウナだからなぁ、実際になくてもなんとかなってしまうのだろう。


 とにかくここで俺一人が反対しても状況はひっくり返らないようで、俺は仕方無しに頷き、同意を示す。


 するとアーリヒや長老達が動き始めて、未だに怒号を上げている皆に事情の説明をし始め……精霊が動くということで納得してくれたのだろう、怒号が収まっていく。


 それどころかこれから精霊直々のデトックスを受けることになる彼への同情の声までが上がり始める……が、シェフィは容赦することなく準備を始める。


 サウナと言うからには湖の側でやるものとばかり思っていたのだけど、どうやら村の中でやるつもりらしく、村の隅に移動して、ドラーとウィニアを呼んで何かをし始める。


 まだまだ試合は残っているというか、これからなのに容赦なく準備を始めてしまって……村の皆はそちらも気になるし、試合も気になるしと気がそぞろだ。


「とりあえず今日はこれで終わりにしましょう。

 続きはまた明日です! 今日はもう今日のための料理を口にして休んでしまいましょう!

 春山菜いっぱいの美味しい料理が待ってますよ!」


 そこにアーリヒがそう声をかけると、皆もその方が良いと納得したのだろう、しっかりと頷いてくれて……そうして食事会というか、宴会というか、そんな場の準備が始まる。


 試合のために準備をしていた者達も、観戦を楽しみにしていた者達も、それを手伝い始め……俺もまた出遅れないようにと駆け出して、皆の手伝いをしていくのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はデトックスサウナです

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― 新着の感想 ―
自業自得でもあり治療の一環でもあるから仕方ないのだけどあの村で今後も生活していくにあたってサウナがトラウマになりそうな経験するのは相当きついだろうな…アーリヒ達からすれば他の民の溜飲下げて抑止効果も見…
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