襲撃の結果
連中が枝や石を持ち出しても、結局のところ大したダメージにはならなかった。
いや、痛いは痛いのだけど我慢出来るレベルで……それは上空でプリプリ怒っているシェフィのおかげもあるのだろう。
シェフィが怒り出した辺りから、上空からキラキラした何か……恐らくポイントを砕いた粉末らしいものが降ってきて、その粉末を浴びた辺りから痛みが減ったというか、防御力が上がったような感覚があったので、何かをしてくれているのだろう。
そのおかげで怪我らしい怪我もなく、多少腫れている? 程度で済んでいるのが現状だ。
防御も回避も必要がない、ならば反撃出来たりもする訳なんだけども……ここで反撃するのもなぁ、なんてことを思ってしまう。
連中と同じ土俵に上がりたくないというか、同レベルにはなりたくない、決着をつけたいのならこれから始まる試合でつけたら良い訳で……試合を前にして子供みたいな喧嘩をするのもどうかと思う。
するといつまでも俺が屈しないことになのか、全く傷つかない体になのか、連中はビビってしまったようで……段々と勢いを失っていく。
一度勢いを失ってしまうと、やる気が萎えてきてしまい、疲れが表面化してしまい……自然と誰もが攻撃しなくなり、周囲が静かになっていく。
そして攻撃を止めたことでようやく周囲のことに意識が向いたのか、何人かが俺に降りかかるキラキラした粉に気付いて、上へと視線を向ける。
そうやってシェフィに気付いた面々は顔を青くする。
隣に立っていた仲間が突然そんな顔になったことに驚き、気付いていなかった者達も追いかけるように視線を上げて……そして全員がシェフィに気付く。
いや、俺を襲撃した時点でどうあれシェフィにバレるだろうに、何を今更ビビっているのか……。
呆れるやら何やら言葉もなく様子を見守っていると、一人がジリジリと後退りを始め……そしてそのまま逃げ出してしまう。
一人が逃げれば続く者がいて、あっという間に全員に波及……気付けばリーダー格の若者も逃げてしまっていて、俺とシェフィだけがこの場に残る形となる。
『良くない! ああいうのは良くないなー!
言いたいことがあるならまずそれを言う! 話し合いでダメなら正々堂々決闘する!
あんなやり方に他の皆がついてくる訳がないし、あんな態度じゃ沼地の連中と大差ないじゃんか!
あんなじゃ恵獣達だって離れちゃうよ! 恵獣はボク達以上に見る目が厳しいんだから! 恵獣無しじゃぁ生きていけないでしょうに……。
ああいう感じになられると困るからって力を貸すのを嫌がる精霊も多いんだけど、もー……その気持が分かっちゃうなぁ』
するとシェフィがそんな声を上げながらプリプリ頬を膨らませながら俺の頭に降りてきて……俺は体の様子を確かめながら言葉を返す。
「まぁー……あのくらいの年齢はどうしてもほら、若さゆえの万能感っていうか、そういうのに振り回されちゃうものだから。
俺が記憶を取り戻してから成功続きで、暮らしもどんどん豊かになって、精霊も恵獣もどんどんやってきてくれて……逆に今までこっちを苦しめていた沼地の連中が苦境に立たされて。
今なら沼地の連中に一泡吹かせることが出来る……活躍して末代まで語り継がれるような英雄になれるかもしれない。
そう思ったらもう我慢が出来なくなっちゃったんだろうね。
言葉にはしていないけど、もしかしたらアーリヒへの侮りっていうか……反感もあるのかもしれないなぁ」
『なーるほどぉ……思春期によくあるやつって感じかぁ。
……狩りも経験していないから実戦を知らなくて、だけども気持ちだけ先走って……。
うぅん、若い子にも加護を与えたのは間違いだったかな? いやでも村で頑張ってる人達にもちゃんと加護あげたいしなぁ』
「……そう言えば彼らにはどんな加護を与えたの? 狩りに出ていないってことは、家事とかで加護をもらった感じなんだよね?」
『えっと……お手伝いと鍛錬を頑張ったから加護をあげた感じだね。
お手伝いは家事とか、家業とか……鍛錬はそこら辺を走り回ったり、木材を振り回したり。
すごーく頑張ってたみたいだけど、言っちゃうとどれも半人前レベルっていうか、子供レベルではあった感じかなぁ。
でもあれだよヴィトー、他の子達にも加護を与えているけど、あんな感じにはなってないよ? あの子達が特別悪い子なんじゃないかなー?』
「良い子ではないことは確かだけど悪い子では……いや、手を出しちゃった時点でダメか。
大人としてどう諭すべきだったのかは、分からないままだけど、試合ではきっちり勝って、現実を教えてあげないとだね」
『……まだ試合する気なんだ? 今のことを皆に言えば全員失格のお説教タイムで不戦勝になると思うけど……』
「それだと色々燻ったままというか、こっちもあっちもスッキリしないだろうからきっちり試合で決着をつけるよ。
あの感じだと負けることはなさそうだし……諭せなかった代わりに実力の方で現実を教えてあげないとね」
『……その考えは立派だけど……大丈夫かなぁ、こんなことしでかす子達だからなぁ。
試合でも色々やらかしそうじゃない? 大事な試合であんなことやらかされたら流石に黙ってはいられないよ?』
「まぁー……そこまで言ったら俺も止めはしないし、仕方ないことと思うことにするよ。
そもそもとしてこれだけの暴力でダメだった相手に、一体どんな手が打てるんだって話でもあるけどね。
逆に気にならない? 連中がどんな手を打ってくるのかって」
俺がそう言うとシェフィは、もの好きだなぁとでも言いたげな小さなため息を吐き出し、それから『好きにしたら良いよ』と、諦めの一声をかけてくる。
諦めながらも、どんな試合になるのか楽しみなのだろう、その声には期待の色も込められていて……応援してくれているのか、俺の頭の上に座ったまま、シュッシュッなんて声を上げながらのシャドーボクシングみたいなことを始めているようだ。
俺の髪の毛をペシペシ叩いてシュッシュシュッシュ……。
試合では拳は禁止なんだけどなぁと、そんなことを思いながらも俺はその様子が面白くて仕方なく、あっはっはと笑いながら皆が待っているだろう広場へと、足を進めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はいよいよヴィトーの試合です






