襲撃?
サープの試合のあとはまた付き合いのない若者の試合となり……そして休憩時間となった。
俺達は試合に集中しているけども、村の皆がそうではない。
試合に参加せず観戦しているだけという人も多く……特に年嵩連中は、若者の頑張りを肴にしてのどんちゃん騒ぎをしていて、中には熱くなりすぎている者達もいる。
そんな場の空気を一旦落ち着かせるための休憩時間で……今日のために用意された豪勢な食事が広場へと運ばれてくる。
今は春、食材が豊富な季節だ、多くの肉も手に入っているし、グオラの畑から収穫が早い作物やベリーが届いているので、それはもう豪勢な内容となっていた。
食料在庫に不安がないからこそ贅沢に、工房で作った調味料があるからとても美味しく、そして今日という日を盛り上げるためにド派手に盛り付けられていて……広場のあちこちに絨毯やらテーブルやら台やらが用意されて、そこにそんな料理が盛り付けられた木皿が並べられていく。
そして盛り上がった皆がそれに喜んでの大歓声を上げてから皿に手を伸ばし、賑やかな食事タイムとなる。
そんな中俺達は、それぞれパートナーが用意してくれた席での休憩をすることになった。
俺はアーリヒ、ユーラはベアーテ、サープはビスカ。
他の試合に参加した面々も家族かパートナーか、あるは親友か対戦相手と食事を始める……が、そこに好戦派の姿はない。
一体どこで何をしているやら……ロクでもないことをしでかせば、そもそもの目的である好戦派の意見を通すことも難しくなると思うから、変なことはしないとは思うけども……。
と、そんなことを考えながらアーリヒとの食事を楽しむことにする。
連中のことを考えて不安そうにしている俺を、アーリヒは試合を前にして緊張していると見てくれたようで、緊張をほぐすような言葉をかけてくれたり、寄り添ってくれたり……なんとも予想外な形で楽しい時間を過ごすことになる。
そんな風に食事を終えたなら食休み……準備運動も兼ねて散歩をするかと一人で村の周囲をぶらつこうとすると、好戦派の何人か……ユーラに負けた二人と三人……いや、四人を加えての六人が現れて、なんとも分かりやすい挑発的な顔でこちらを睨んでくる。
「うわぁ……」
そんな声が思わず漏れる、いやほんと、声に出す気はなかったのだけど出てしまう。
この状況で俺を何かしたとして、どうなると言うのか……状況が好転することも要求を通すことも出来なくなると思うのだけども、まさかこんなチンピラ的な手法に出てくるとは……。
呆れるやら何やら、きっと今俺はその感情を表情として全面に出してしまっているのだろうなぁと、そんなことを考えていると、連中の後ろの方から小声が聞こえてくる。
……本来なら聞こえないようなその小さな声は、加護のおかげか結構ハッキリと聞こえていて……、
「―――良いか、次の試合で勝てない程度に痛めつければ良いんだからな、精霊様の愛し子に勝てば、愛し子よりも俺達の方が上だと族長に―――」
と、その思惑がいとも簡単に分かってしまう。
マジかこいつら……。
仮に俺より上だと証明したから何だと言うのか……それに連中は気付いていないようだけどもシェフィは今『この場』にいるんだぞ?
さっきまでイチャついていた俺とアーリヒを気遣って上空に移動していただけで、ずっと俺の頭上にいるんだぞ?
今もなんか、物凄いニヤついた視線でお前らのことを見ているんだぞ? 信仰の対象たる精霊の前でそんなことをやらかしたら支持を得るどころか、とんでもない処分を受ける可能性まである訳で……考えなしにも程があるだろう。
……そんな風に心中で、連中の愚かさに関する感想をまとめ上げた俺は、次にどうするかと、コレにどう対処すべきかを考えていく。
……反撃するか? 馬鹿なことをしでかそうとした連中を制圧して大人達に報告するか?
それともいっそあえて殴られて連中に厳しい処罰を受けさせるか?
大人としてはそんなことになる前に説教でもして反省を促すべきなんだろうけども……ここまでの考えなし相手だと、どういう説教をしたら良いのかが分からない。
……教師の経験でもあれば上手くやれたのだろうか?
そんな事を考えながら頭を悩ませていると、そんな内心もまた表情に出てしまったようで、物凄い顔で怒りの感情を表現した若者が木の棒に動物の皮を巻き付けたものを、説教用というか、折檻用の道具を振り下ろしてくる。
すぐに避けるべきだったのだろうけども、それも面倒くさいというか、思考の方に意識を向けていたために反応が遅れて、それが頭というか顔というか、とにかく斜め上からその辺りに直撃する。
「……はぁ!?」
直後響く折檻用の道具を振り下ろした若者の声、俺が特に痛がりもせず声も上げず、考え事を続けていることに驚いているようだ。
俺にはユーラのような力はないし、サープのような技もない。
だけども頑丈さだけは特別で……そもそもにおいて人間離れしているというか、人間ではないのだ。
魔獣に吹き飛ばされても無事で、大した怪我もなくて……その状態から更に精霊の加護を得ていて、生まれつきの頑丈さに磨きがかかっている。
これが殺傷能力のある武器だったらやばかったのかもしれないが、相手に怪我をさせないようにと気遣われた折檻用のものではどうしたってダメージは少なくなる。
続いて他の男が同じ道具で殴りかかってくるが、やはりダメージらしいダメージはない。
いや、痛みを全く感じないでは日常生活で支障が出ることもあるので、多少の痛みはあるのだけどそれだけで……声を上げたり反応したりするようなレベルではない。
……いっそこのまま殴られ続けるか? それで自分達の非力さを思い知らせるとか? 無力感を味わわせる? ついでにコイツらの馬鹿さ加減をシェフィに見せつける? 反省を促すのはそれからにするか?
なんてことを考えていると、連中のうちの二人が折檻用の道具では駄目だと気付いたのだろう、そこらに落ちていた太めの木の枝と石を手に取る。
そして二人は勢いをつけるためか駆け出してきて、それらを振り下ろしてくるが……先程よりはまぁ痛いかな? 程度で特に問題はない。
まぁ、魔獣の一撃に比べればなぁ……なんてことを考えた俺がなんとも言えずに困り果てていると、連中はどうしてかそれを挑発と受け取ったようで、よりいきり立って周囲から探してきたらしい、枝なり石なりの武器でもって襲いかかってくるのだった。