大会初戦
それからも体を鍛えたり、狩りに出たり、南方の設備を整えたりしながらの日々を過ごすことになり……ついにやってきた大会当日。
参加することになった若者達が広場に集まり……上半身裸だったり、上半身シャツのような肌着だけだったりと、そんな格好をし始めていた。
その理由は不正防止……武器などを仕込めないようにするためで、俺とユーラとサープも、それぞれアーリヒ、ベアーテ、ビスカが作ってくれた肌着というかシャツというか、そんな服を着ての参加となった。
そんな参加者の中には、好戦派と言ったら良いのか、沼地の人々との戦いを望む者達もいて……体を見るにかなり鍛え上げているようだ。
そして気配からするに精霊の加護も受けているようで……そこら辺シェフィ達は平等というか、何というか……努力をしたならしっかり加護を与えてくれるようだ。
まぁ、俺達と考え方は違うけども目的は同じ……魔力という災害から世界を守るという点は一致している訳で、そのために努力している彼らをちゃんと評価してあげるのも、精霊としての大事な仕事なのだろう。
精霊の加護を受けたことで彼らは自信を増しているようで、不敵というかふてぶてしい笑みでもってこちらを見やっているが……うぅん、こちらはこちらで加護を受けているんだけどなぁ。
特に魔王やらを倒しているのは俺達だけで、その差が大きいと思うのだけど……彼らは彼らなりに努力をしてその差を埋めてきた……ということなのだろうか?
何にせよ大会を開くとなった以上は本気でやり合うつもりだし、俺達に手加減も油断もない、ただ本気でやるだけだと気合を入れ直し……その時を待つ。
すると広場の上空にいつもと少し違った様子の……いつもより大きく、いつもより派手なローブを身にまとったシェフィ達がやってきて、元気いっぱい、大きな声を張り上げる。
『じゃー、皆張り切って大会に挑んでね!
正々堂々! 祖霊に自慢出来る戦いぶりを見せるんだよ! 優勝者には色々あげるから、頑張ってね!!』
『おう、面白いもん見せてくれや!』
『が、頑張ってください』
シェフィ、ドラー、ウィニアの三精霊のそんな声を合図に大会が開催となり……シェフィ達が会場となる円……相撲で言う所の土俵を不思議な力で地面に描き、誰と誰が戦うのかといった組み合わせもシェフィ達が考えてくれていたらしい、空中に描かれた組み合わせ表で公開となる。
トーナメント式のその表には、名前と写真のように写実な人物の顔が描かれていて……文字が読めない皆に配慮した形となっているようだ。
一回戦目はユーラと、好戦派の……一番体格の良い、いかにも力自慢でございますといった若者との対戦となった。
……いきなり一番盛り上がりそうな組み合わせを持ってきてしまっているのは、何だかもったいないというか……ここで決勝戦が終わってしまうんじゃないかって状況だけども、まぁシェフィ達にも考えがあるのだろうからと何も言わずに円を囲うように移動し……そして円の中にユーラとその若者が進み出る。
審判役は男衆の誰かか長老衆の誰か、それか族長のアーリヒがやるかと思っていたのだけど、まさかのシェフィが担当するようで……2人の間に入り込むように進み出たシェフィが『しゃみ・のーま』と書かれた軍配を振り上げ、ユーラ達に準備を促す。
……いやいや、相撲じゃないんだから、その軍配って何か特別な意味があるものじゃないの?
と、そんなことを言いたくなるが、この世界でそんなことを言っても仕方なし、何も言わずに見守ることにする。
『組み合って組み合ってー……殴る蹴る頭突きとかもダメだよ、力と技の勝負のみ、正々堂々とやり合うように!
それじゃー……試合開始ぃ!!』
と、そんなシェフィの声で試合開始となる。
流石にはっけよい残ったとは言わなかったかと、安堵のため息を俺が吐き出す中、お互いの肩を掴み合うような形で組み合ったユーラ達が、円の中央でお互いのことを睨みつけながら、お互いの力をぶつけ合うように押し合い……2人の体が声無き悲鳴を上げる。
筋肉が盛り上がり、白い肌が真っ赤に染まり、血管が浮かび上がって……両者共に譲らない。
まさかあのユーラに力で張り合える人がいたなんてと、目を丸くして見入っていると……段々と二人の表情に差が出てくる。
ユーラはこの状況を楽しんでいるのだろう、なんとも良い笑顔になっていくが……相手の顔はどんどん苦痛に歪んでいく。
それだけ力に差があるのか……しかしそうなら押し勝っても良さそうだが、勝負自体は拮抗している。
『のこったのこった~! いいよいいよ~! 二人共がんばって~!』
そんな中、響き渡るなんとも呑気なシェフィの声。
結局のこったのこった言ってしまうのかと、俺ががっくりと肩を落とす中、ユーラと組み合っている若者……長い茶髪を頭後ろで結んでいる彼が膝から崩れていく。
力で押し負けたと言うよりも、体力が切れてしまって立ち続けることが……踏ん張り続けることが出来なくなってしまったようだ。
そうして膝をついてしまう。
『勝負あり! ユーラの勝ち~~!』
と、軍配を掲げたシェフィが声を上げて負けが確定した瞬間、ふっと力が抜けて気絶してしまったのか、若者は完全に地面に崩れ落ちてしまう。
今の広場の地面は泥が露出していて、そこに倒れ込めば相応に汚れてしまう。
そのことを分かっているユーラが組み合った腕をそっと持ち上げて抱えてやって……すぐに仲間がやってきて、若者は回収されていく。
それを見送ったユーラは、悠然とした足取りでこちらにやってきて……そしてなんとも良い笑顔を浮かべながら、元気な声を張り上げる。
「だっはっは! とりあえず勝てたぜ!
まー……アレだな、力は大したもんだったが、体力も技もいまいちだったな!
力の入れどころ、抜きどころが分かってねぇって言うのか、組み合ったあとも手滑らせてきたり爪立てようとしてみたり、あれじゃぁ力比べとは言えねぇよな」
「……見ている分には気付かなかったけど、そんなことになってたんだ。
……うぅん、力だけを鍛えた結果って感じなのかな」
と、俺が返すとユーラはにっかりと笑い、
「ま、良い経験にはなったぜ、次があればもっと楽に押し勝てるだろうな!」
なんて声を上げて胸を張る。
男らしいというか格好良いというか……とにかく今は勝ったユーラを讃えるべきかなと考えた俺とサープは、ユーラの肩をバシバシと叩いて、その健闘と勝利を祝福するのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はサープ戦です