精霊達の評価
――――翌日、広場上空から広場に集まった面々を見下ろしながら シェフィ達
三人の精霊……シェフィ、ドラー、ウィニア達は、先ほど始まった大会に備えての鍛錬の様子を見下ろしながら、満足げな笑みを浮かべていた。
シャミ・ノーマの皆が、目的を持って楽しそうに自らを鍛えている光景は、精霊にとってとても望ましいもので、思わず笑みがこぼれてしまうようだ。
鍛錬である以上、痛みもある苦しむこともある、だけども成長の喜びを感じていて……加護でもってその手伝いが出来ていることを三人は心から喜んでいた。
『一番はやっぱりユーラかな? そもそもの体格が良いもんねぇ』
と、シェフィ。
『ま、単純な力比べの大会になるだろうからな、ユーラは有利だろうな……ヴィトーは普段使っている武器が使えないのが厳しいよな』
と、ドラー。
『で、でもヴィトーとサープは足払いをしようとしたり、技術で頑張ってるとこあるよ? 意外と頑張るんじゃないかな。
特にヴィトーは……なんだか慣れてる感じあるよね、あっちの世界にも似たようなのがあるんだっけ?』
と、ウィニア。
ウィニアが言っているのは相撲のことであり……相撲によく似たルールの力比べ大会でヴィトーは、相撲技での勝利を目指しているような節があった。
サープは相撲技ではないが、器用さと俊敏さでもって相手を翻弄しようと考えていて……ユーラはそれらを理解した上で、あえて力でもって押し勝とうと体と技術を磨き上げている。
『ん~~……ヴィトーとサープにも頑張って欲しいけどね、ユーラもなんだかんだ実戦の中で力の使い方を学んでいるからなぁ、どうなるだろうね。
……皆の力の差を表すならこんな感じになるのかな?』
と、そう言ってシェフィは、いつの間にか手にしていた金色のチョークのような何かで、空中に文字を描いていく。
ヴィトー
力 80
体力 80
器用さ 80
柔軟さ 80
頑丈さ 250
ユーラ
力 150
体力 150
器用さ 50
柔軟さ 30
頑丈さ 100
サープ
力 70
体力 70
器用さ 150
柔軟さ 100
頑丈さ 70
人間の身体能力は簡単に数値化出来るものではないが、それでも精霊の力でなるべく分かりやすく数値化しているようで……空中に浮かんだ数字に対しドラーもウィニアも異論を挟むことはない。
そしてシェフィは更にそこに数字を書き足してく
ヴィトー
力 80+60
体力 80+60
器用さ 80
柔軟さ 80
頑丈さ 250
ユーラ
力 150+40
体力 150+40
器用さ 50
柔軟さ 30
頑丈さ 100
サープ
力 70+40
体力 70+40
器用さ 150
柔軟さ 100
頑丈さ 70
書き足されたものはレベルアップによって強化された数字のようで、これにもドラー達は異論はないようだ。
ヴィトーとユーラ達に数値の差があるのは、魔獣を狩った数の差なのか、シェフィの贔屓の差なのか……ドラーとウィニアはシェフィの贔屓が強そうだなぁと思いつつも口には出さず、中に浮かんだ数字を眺めて、それぞれ思考に耽る。
この中で誰が強いのか、誰が活躍するのか……ドラーはやはりユーラだろうと考えて、ウィニアはヴィトーかサープかと考えて……そんな精霊達のことを村人達もチラチラと見てはいるが、数字の意味は分かっていないようで、何か不思議な絵を描いていると、そんな理解をしているようだ。
文字を持たない文化ならではの反応……だったが、ビスカやベアーテといった、村の外出身の者達の反応は少し違った。
シェフィ達が描いているのは日本語とアラビア数字だ、異世界の数字だ、ビスカもベアーテもそれを読み取ることは出来ていないが……なんとなしにその意味を理解している。
ビスカは学者としての経験と勘で、ベアーテは海を渡る商売人として経験と勘で理解した上で……それぞれの想い人の数値に意識を強く向けている。
数字の意味をしっかりと教えて欲しい、他の村人との比較が欲しい、もっと彼のことが知りたい。
そんな想いのこもった視線が向けられるがシェフィ達は気付くことなく、それぞれの視点での強さ議論に花を咲かせ始める。
そんな中、ヴィトーもまた空中に描かれた文字には気付いていて、精霊達を除いては唯一その意味をしっかり理解していて……理解しながらも人間の能力はそう簡単に数値化出来るものではないだろうと、興味を示してはいないようだ。
それよりもと鍛錬に意識を向けていて……シェフィ達はそんな様子を喜びながら更に議論を白熱させていく。
するとそんな広場に族長であるアーリヒが様子を見に来て……そして上空の文字に気付く。
アーリヒもまた文字を持たない文化で育った身ではあったが、最近はヴィトーと一緒に過ごすことが多くなり、漢方薬の関係などで文字に興味を示す機会も増えていって……文字への理解を深めていた。
特に日本語やアラビア数字など、ヴィトーが前世で使っていた文字についての知識は中々のもので……すぐに上空の文字の意味を察する。
ヴィトーとしては異世界の知識をアーリヒに教えるつもりはなく、出来る限り視界に入らないようにと気をつけていたのだが、それでも本を読んでいたり、本の内容をメモしていたりする中で、アーリヒがそれらの文字を目にする機会はあり……その際のヴィトーの言動も合わせることで大体の意味を理解出来てしまっていた。
そうしてアーリヒは不満げに頬をふくらませる。
愛しいヴィトーだけ評価が厳しいというか、3桁の数字が無いではないかと、露骨なまでに不満を表に出してくる。
そしてアーリヒを出迎えようとしていたヴィトーは、その変化にすぐに気付いてしまい……挙句の果てに自分が何か怒らせるようなことをしてしまったのではないか? という勘違いをしてしまったヴィトーは、それから大慌てとなってアーリヒへと駆け寄り、必死のフォローを始めてしまう。
そしてそんなヴィトー達の様子に気付いた精霊達は、今度はなんとも微笑ましげな笑みを浮かべて……ヴィトー達のことをしばらくの間、観劇気分で眺めるのだった。
――――アーリヒに声をかけながら ヴィトー
鍛錬の様子を見にやってきて、そうかと思えばあっという間に不機嫌になってしまって。
そんなアーリヒの表情を見た俺は、それが俺に関することであるとすぐに察する。
そもそも族長として己を厳しく律しているアーリヒが、露骨に不機嫌になるなんてのは稀なことで、その時点でもうほとんどの場合で俺が絡んでいると分かるのだけど、更には表情までがそうだと語っていて……全く心当たりがないながらも、何かしてしまったのか!? という焦りが生まれてしまい、慌てて側へと駆け寄る。
それから慎重に、機嫌を更に悪くしてしまわないように言葉を選んで話しかけていると、アーリヒはきょとんとした顔をし、そしてすぐに笑いだし、コロコロとした笑い声を上げる。
「あ、あはははは、違いますよ! ぜ、全然ちがいます!」
何が違うのか、どう違うのか……説明して欲しいのだけどアーリヒは笑い続けていてそれどころではないようで……それからもしばらくの間、何が起きたんだと困惑する俺をよそに、なんとも楽しそうな笑い声を上げ続けるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は大会本番です