表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/153

グオラとの鍛錬


 大会で優勝したら大量ポイントが貰えるかもしれない、それで新しい武器を作れるかもしれないとなって、やる気を出したというか気合を入れ直していると、グオラがのそのそと歩いてきて、何かをこちらに差し出してくる。


 それは小さな果物のようで……まさかこの畑でもう収穫出来たのかと驚かされる。


「食べて良いの?」


 と、しゃがんで視線を近付けながら俺が口を開くとグオラは嬉しそうに目を細めてジュイジュイと鳴き、食べて良いよとの意思を示してくる。


 それを受けて果物を……赤くて小さな、ベリー系の何からしいそれを受け取り、口に運ぶ。


 甘くて酸っぱい、ラズベリーに似た味で……酸っぱさが強い。


 嫌になるような酸っぱさではなく、爽快でクセになる酸っぱさなんだけども、もう少し甘さが欲しくなる味だ。


 とは言えこの短時間でこんなに美味しい果物が作れるのは凄いことで、


「凄く美味しかったよ、ありがとう」


 と、そう言ってからグオラの背中をガシガシと掻いてやる。


 以前シェフィから聞いたのだけど、花モグラにはこうしてやると喜ばれるらしい。


 コミュニケーションの一貫であり、花モグラにとって気持ち良いことでもあり……実際、グオラは手足をばたつかせながら喜びの声を上げている。


『ちょっと! ボクも! ボクも食べたい!』


 するとそんな光景を見ていたシェフィがそんな声を上げ、すぐに別の花モグラが先ほどとは全く違う勢いで、ズザザッと走っているかのような勢いでもってやってきて、両手に抱えた果物の山をシェフィに差し出す。


 ……勢いと数の差は人間と精霊への対応の違いなんだろうか……。


 なんてことを考えている間に、果物を口に運んだシェフィは、


『ん~~~、すっぱい!』


 なんて声を上げながら、なんとも嬉しそうに果物を食べていく。


『たくさんあるから皆も食べよ!』


 美味しい果物に機嫌を良くしたシェフィがそんな声を上げると、畑で働いていた他の花モグラも参加しての食事会が始まり……俺は一つで十分だからと遠慮をすることにして、大会に備えての筋トレでもしようかと、畑の隅に移動する。


 ……筋トレするなら畑から出てやれという話なのだけど、シェフィを置いていくと拗ねるしなぁと体を動かす前の柔軟をしていると、それに気付いたグオラがやってきて、鍛錬の相手をしてやるぞと、そんな顔を見せてくる。


「……気持ちは嬉しいけど、体格差があるし、グオラとの鍛錬は難しいんじゃ―――」


 と、俺がそんなことを言っていると成犬程の大きさのグオラが体を立ち上げさせて……両腕を大きく広げ、思っていたより大きな体でもって、そんなことないぞ、いい相手になれるぞとアピールしてくる。


 ……が、流石に二本足で立ち続けるのは難しいのだろう、体がグラグラと揺れ始め……それを受けて俺は、グオラを受け止めるついでに腕を取って組み合って、力比べの体勢を作り上げる。


 するとグオラも俺の意図を察したのだろう、こちらに体を預けながら力を込めてきて……そのままなんとも変則的な、相撲というか押し合いが始まる。


「……え!? いや、力つよっ!?」


 グオラと組んで押し合ってみて感じるのは、明らかに力負けしているということ。


 それなりに体を鍛えていて、レベルアップもしていて、かなりの力を持っているはずなのに、全然勝てる気がしない。


 こっちは必死に踏ん張っているのに、グオラは余裕の態度で……どんなに力を入れても、踏ん張っても押し返せる気がしない。


 俺が知っている範囲で一番の力持ちはユーラだが、ユーラと鍛錬したとしてもここまでの差にはならないだろう。


 モグラに力持ちのイメージは全くなかったのだけども……これは恵獣だからなのか、それとも成犬サイズにしたモグラはこのくらいの力があるものなのか……。


 そうして、グオラとの鍛錬はまるで熊を相手にしているような気分で続けることになったが、終始手加減をしてもらっていたようで、グオラの本気を引き出すことは出来なかった。


「……いや、でも自分より強い相手との鍛錬はかなり意味がありそうだね……普段やっている自己鍛錬よりつかれたし、疲れた分だけ意味があった……と思う」


 グオラとの鍛錬を終えて汗だくとなった状態で座り込み、そんな声を上げると、たっぷりとベリーを食べて満足したのか……その毛の一部を赤く染めたシェフィがやってきて、声をかけてくる。


『うんうん、レベルも大事だけど、そうやって体を鍛えるのも大事だからね、良いことだよ。

 レベルアップでの体力や筋力の増強はあくまで補助的っていうか、基礎がしっかりしてないと意味ないからね。

 なんにも鍛えてないのにレベルだけ上げても全然強くなれないっていうか……割増みたいなイメージで合ってる感じかな。

 だから基礎体力を増やせば増やすほど、レベルの価値も上がっていくからね、頑張ると良いよ。

 ちなみにレベルをいくら上げても日常生活に支障はないからね、そこら辺はしっかり精霊がコントロールしてるから大丈夫だよ』


「あー……そうか、筋力が増すということはそういう心配もありえたのか。

 そこら辺までは考えが回ってなかったなぁ……まぁ、まず問題を起こすとしたらユーラだろうからって、油断していたのもあるかもねぇ」


『確かにまずユーラだったかもね。

 そして次に力が強いのは……ベアーテさんかな?

 そうするともし精霊のコントロールがなかったら、あの一家が大変なことになってたのか。

 まぁ、ボク達はシャミ・ノーマの味方だから、絶対にそんなことにはしないんだけどね』


 と、そう言ってシェフィはからからと笑う。


 そして会話が一段落したのを見てか、グオラが水を木の器に汲んで持ってきてくれて……礼を言ってからそれを受け取った俺は、驚く程に冷えた綺麗な水を、存分に堪能するのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回は大会のあれこれの予定です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

書籍版紹介ページ

書籍版絶賛予約中! 画像クリックで通販ページに飛びます。
mnijqs95k05fkifczb7j2ixim1p_k0i_15z_1nn_13kk2.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ