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畑のその後と大会と


 相撲のような力比べの大会が開かれると決まり、参加を決めた若者達は体や技を鍛え始め、長老達は若者達への賞品の準備をし始めた。


 良い賞品を用意して大会を盛り上げて、とにかく鬱憤晴らしをさせてやろうと村を上げての大騒ぎだ。


 そんな中俺は、特に準備をするようなことはなく、それよりも大事な用事……地下畑の確認のために足を運んでいた。


 南からやってきたモグラの恵獣……花モグラのグオラ。


 そんなグオラが日々耕している地下の畑がまた進化したというか、発展したというか……結構な変わり様を見せたとのことで、その確認をする必要があった。


 収穫はまだまだ先で、ちょっとした聖域扱いでもある地下畑には村の誰も足を運んでいない。


 グオラの好きにさせているのが現状で……その確認に適任なのが精霊の愛し子である俺という訳だ。


 まぁ、大会に対するやる気はそこまでではないというか、参加できればそれで良いかなと思っている側なので、それで全く問題なく……グオラが作った地下への穴を覆う形で作られた木造の小屋へと入っていく。


 トイレくらいの広さの、小さな小屋の中に入るとまず穴があり、その穴の中には土を固めて作った階段があり……階段の先はグオラに協力しているらしい精霊の力で明るく照らされている。


 そして広がっている空間……地下とは思えない程に広い、これまた精霊の力で拡張されているらしい空間があって、地下とは思えない畑が……畑? が、広がっている。


 いや、畑は畑なんだけども、空間がおかしくなっている、壁や天井にまで草花が生えている。


 そりゃまぁ確かにそこも土なんだから種を植えれば生えてくるんだろうけど……重力に逆らう形でしっかり生育しちゃっているのがなんとも異様だ。


 普通なら重力に引っ張られて垂れているとか、変な成長の仕方をして歪んでいそうなものだけど、そういった様子は一切なく、どれもこれも順調に育ってしまっている。


 上下左右にそんな形で畑がある空間というのは、なんとも言えなくなる光景であり……グオラもよくたった一頭でここまでの作業をこなしたものだと驚かされる。


「いや、本当によくグオラだけでここまで……。

 これから毎日の世話をして、成長してきたら収穫して……グオラだけでやれるものなのかな?」


 視線を上げて回し、あらゆる方向に広がる畑を眺めながらそんな声を上げると、俺の隣に浮かんで俺と同じように周囲を見回していたシェフィが言葉を返してくる。


『たーぶんだけど、グオラだけじゃないと思うよ?

 ……ほら、あそこ、天井の畑に別の花モグラがいる……あの子も南からやってきたのかな?

 地中を移動してきて合流して、そのまま住み着いたみたいだね』


「え? あ、ほんとだ、あっちにもいるし、5頭か6頭か……それ以上の花モグラがいるみたいだ。

 皆で耕してのこの結果かぁ……。

 精霊達の助けもあるし、成功は間違いないんだろうけど、この異様な光景はなんとも言えない気分になるなぁ。

 上下左右全部が畑で、育てられている作物も見たことのないものばかりだし……なんだか今が一番、異世界を感じているというか、不思議な世界をようやく見られた気分になっているよ」


『あはは、確かに不思議な光景だねぇ、ボクもこれには驚いちゃったよ。

 ヴィトー達にとっては食料が手に入る豊かな畑で、グオラ達にとっては柔らかくて豊かで暮らしやすい土に包まれた楽園で……天敵というか、襲ってくるような相手もいない訳だから、最高の環境なんだろうねぇ。

 ……村の皆にはここには入らないように言った方が良いかもね、あんまりにも常識から離れた光景は、精神にダメージを与えちゃうこともあるからさ』


「このくらいなら平気だとは思うけど……ああでも、信仰心が強かったり科学知識がなかったりすると、変な感じになっちゃう可能性もあるのかな?

 それならまぁ……聖域ってことで立入禁止を周知徹底しておこうか」


『うんうん、それが良いと思うよ。

 ……あ、それとヴィトー、大会のことなんだけど……例の若者達を先導していた子がさ、ヴィトーのことを侮っているっていうか、楽勝だって触れ回ってるみたいなんだよね。

 普段銃ばかり使ってるからかな、銃が使えない力比べなら楽勝なんだってさ。

 ……どうする?』


「え? いや、え?

 どうするも何も……普通に相手するだけ、かなぁ。

 まだ狩りに出ていないからレベルの概念を理解しきれてないんだろうし、若者らしい発言と言えばそうだし、特にどうこうするつもりも言うつもりもないよ。

 むしろ若者はそのくらい向こう見ずなくらいが頼もしいんじゃないかな?」


 そういったことにはあまり興味がないというか、普段は淡々としているシェフィが突然そんなことを言うものだから驚いてしまったけども……そうだった、シェフィはそういうとこがあるんだった。


 親バカと言ったら良いのか、精霊の愛し子である俺のことになると、少しタガが外れてしまうことがあり……今回も少しだけそうなりつつあるようだ。


 一体どんな反応が返ってくることを望んでいたのか、少しだけつまらなそうな顔をしたシェフィは、ちらちらとこちらを見てきて、何か期待しているような顔をして……その意図が分からない俺が困った顔をしていると、シェフィもまた困ったような顔になり……それからポンッと手を打つ。


 それからシェフィは工房のモヤの中に入り……工房からかなり大きなポイント、金色の塊を持ってきて、こちらに見せつけてくる。


『どう? このポイント、凄いでしょ?

 これはボクのポイントの一部、ボクが今まで世界のために頑張って手に入れてきたものさ。

 ……大会でヴィトーが頑張ってくれたら、これをあげるよ。

 ざっと10万ポイントってとこかな? うん、これがボクからの景品……やる気出るでしょ?』


 その言葉を受けて俺は頭を抱えたくなる。


 何なら文句まで言いたくなるが……シェフィの性格的にどちらも喜んではくれないだろう。


 そうするよりは……、


「わざわざありがとう……それだけのポイントが貰えるなら頑張れそうだよ。

 10万か……10万あったら新しい武器を作ることもできそうだねぇ」


 と、そう言って喜んで見せる。


 すると親バカ精霊はにんまりと笑って……それからそのポイントを掲げて改めてこちらに見せつけてくるのだった。


 


お読み頂きありがとうございました。


次回は大会本番となります


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