楽器
何はともあれ物がなければ始まらないということで、早速いくつかの楽器を作ってみることにした。
カスタネット、太鼓、木琴、鉄琴、シンバル、トライアングル、ヴァイオリン、ギター、チェロ、縦笛、ハーモニカ、トランペット、ホルン。
何故このラインナップかと言われればパッと思いついた楽器がこれらだったという理由で……他の楽器は名前を知らなかったり、具体的な使い方が分からなかったり、そもそもはっきりとした形を思い出せなかったりで候補から除外されていた。
……図鑑とかを眺めながらとは違い、記憶の中にある情報からあまり興味の無かった道具を選び出すというのは中々難しく……こちらでの生活が長くなってきたこともあってか、前世の記憶が薄れ始めていることを実感することになった。
ともあれ、どれも良い出来となっていて……かなり複雑な造りな楽器もあったが、シェフィがサービスだからと消費ポイントを安くしてくれたので、結構な数を作ることが出来た。
1種類につき1個だけという訳ではなく、2~3個……消費ポイントが凄く安く、子供に受けそうなカスタネットやトライアングルは5個ほど作ってある。
シャミ・ノーマの文化の中にも楽器はちゃんとあって、太鼓のような獣の革を使った打楽器や、骨を使ったものや、腱を使った弦楽器もしっかりとある。
宴会の際には皆で歌を歌うし、その時に楽器もかきならす訳で……これだけ良い出来の楽器ならすぐに馴染んでくれるだろうと思っていた……のだけども、村の皆に見せてもあまり反応は良くなかった。
無駄に立派な造りで尻込みするとか、普段使っている楽器とは音が違いすぎてこちらの音楽に合わないとか、音がうるさすぎるとか、そんな理由で。
唯一受けが良かったのはカスタネットや木琴で……シンプルかつ聞き馴染みのある木の音が安心感を与えているようだ。
それなら革張りの太鼓だって……と、思うのだけど、あまりにも音がでかいと言うか響きが良すぎて怯んでしまうらしかった。
……まぁ、それはそうか、始めて見る楽器な訳だし、これらを使ってどういう音楽が演奏出来るのか、どういう音楽が演奏可能なのか、そこが分からなければ話にならないのか。
……そしてその答えを知っているのは俺だけ。
え? 俺が演奏するの? これらの楽器全部使って? いや、無理無理、学校の授業以外で楽器に触れたことなんて無いぞ……と、そんなことを考えていると、村の広場に並べた楽器の上に浮かんでいたシェフィが精霊の工房のモヤの中へと突っ込んでいき……それに続いてドラー、ウィニアもモヤの中へ。
一体シェフィ達は何をしようとしているのだろう? と、俺やアーリヒ、ユーラとサープ、他の村の皆と首を傾げていると……急にモヤが膨れ上がり、モヤが破裂したかのように弾けて広がり、そこから一気に数え切れない程の精霊達が現れる。
「せ、精霊がいっぱい!?」
「凄い……! こんな光景を見られるなんて……!」
俺が驚きの声を上げ、アーリヒが歓喜の声を上げる。
それに続いて村の皆が一気に沸き立ち……騒がしくなる中、精霊達がまるでオーケストラのように整列をし始める。
どの精霊もシェフィによく似ている……が、全く同じ姿はしていない。
いつの間にかギターを構えていたドラーにも似ているし、縦笛を構えているウィニアにも似ているけど、全く同じ姿の精霊は一人もいない。
全員にしっかり個性があって……そしてその全員が精霊サイズの楽器を持っている。
そうして始まる精霊たちによる演奏会。
賑やかで楽しげで……音楽のジャンルはなんとも形容しがたい。
まぁ、そうだよね、楽器が楽器だからね、思いついた楽器を揃えたせいか、まとまりはないが……演奏している音楽が良いからか、心から楽しむことが出来る。
多分これは、シャミ・ノーマの音楽だ、普段宴などで皆が歌っている伝統的なものだ。
それをあちらの世界の楽器で、プロレベルの腕前で演奏することで、完成度が高くなり、まるで別物と思える程の仕上がりになっていて……最初は盛り上がっていた村の皆が、段々とそれに聞き入るようになり、静かになっていく。
中にはユーラのように音楽に合わせておうおうと声を上げていた者もいたけども、すぐに周囲から窘められ……段々と精霊の音楽だけが聞こえる空間が出来上がっていく。
そうして10分か、それ以上か……長く続いた演奏が止まると、皆がまたも大盛り上がりとなって、それから楽器に殺到、それぞれ手に取った楽器をどうにか演奏しようと四苦八苦し始める。
すると精霊達が演奏の仕方を教え始めて……全員が上手くいく訳ではないけども何人かが上手く演奏して見せて、また皆の盛り上がりの熱が増していく。
そして上手く出来なかった者は、上手く出来た者に習い始め……そうやってますます皆が楽器にのめり込み……そんな人集りの中には長老が警戒していた若者達の姿もあり、とりあえず楽器に夢中になってくれているようだ。
これで解決……とはいかないだろうけど、それでもいくらか意欲は奪えるはずで、あとは長老やアーリヒの説得があれば更に考えが変わっていくはずだ。
その上で、精霊達からの意見表明があればとも思うけども……これだけ世話になっておいて更にというのはどうかと思うし、精霊達にも申し訳ないというか頼り切りも情けないので最後の手段にしておくべきだろう。
と、そんなことを考えていると、ユーラがドラムのスティックを持ち、サープがギターを抱え……そして俺にも何か楽器を持てと促してくる。
いや、俺楽器使えないんだけど……なんてことを今言っても仕方ない、とりあえず一番経験のある縦笛を手にとって、演奏の仕方を思い出しながら何度か吹いてみる。
それを見てユーラもサープも手にした楽器を演奏し始め……そうして俺達はしばらくの間、素人ながらの楽しい演奏を堪能するのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はそれでも……な何かです