対策
若者達が色々とやらかしそうになっていると聞いて、それから俺は若者達の様子を探ることにした。
とは言えそれで彼らを刺激してはまずいので、距離を取って穏便に……噂話を集めたり雑談を盗み聞いたりで、結論としてはそこまで差し迫った事態では無いようだ。
辺境へ追いやられた、商売でひどい目にあった、そうして何世代か過ぎてようやく逆転の目が見えてきた。
そこで復讐……と言うか、やり返そうと考えるのはある種当然の思考の流れでもあり、彼らは自然な形でそれに従っている、という感じのようだ。
しかしながら族長も精霊も、そういったことには反対していて、なんなら家長達も反対している中、言動に移すのはかなりの問題行動であり、普通はしないものなのだけど……そこはまぁ、若者特有の無謀さというものなのだろう。
今回中心になっているメンバーは12歳~15歳。
まだまだ若く成人していないか、これからするかの微妙なライン、成人のための狩りに行く準備をしている段階で……体を鍛えて技を磨き、弓や槍を手にし始めたことで気が大きくなっているのかもしれないなぁ。
現状、彼らが何かをしようとした所で何も出来ないだろう。
族長と精霊が反対している以上、一族は動かないし、賛同者を集めるのすら不可能だろう。
状況としては詰んでいる、これ以上先に進めないのは明らかだったけども……彼らが暴走して勝手なことをやらかす可能性はあるし、彼らの存在が周囲に不安感を与えていることは確かで……なんとか出来るのならした方が良いのだろう。
ではどうするべきか……?
自分なりに色々考えてみたけども答えが出ず、仕方無しに皆に相談してみることにした。
まず年長者ということでジュド爺。
「足腰立たなくなるまでしごいてやれば、馬鹿な考えを持つ暇もなくなんだろ。
ついでにその甘っちょろい魂も鍛え直してやらんとな」
次にユーラ。
「ボッコボコにしたら良いんじゃねぇの? とりあえず静かになるぞ」
サープ。
「北の谷の向こう側に連れてって野営の勉強でもさせたらどうッスか? 道具も食料もなしで何日生き残れるのか……そうやって命の大事さを学べば大人しくなるッスよ」
……外部の意見を取り入れようということでビスカ。
「えぇっと、沼地の町ではそう言う時は、首謀者を縛り首にして見せしめにしたりしますよ?
ようするに領主や貴族様への反乱計画ですよね? 普通に考えて穏便に済ませちゃいけないと思うんですけど……」
……。
うぅん、俺の周囲、過激派しかいないなぁ。
特にビスカは淡々としているだけに少し怖かった。
これらを参考には……しなくて良いかな。
と、言うか多分、ジュド爺辺りがそこら辺のことを担当してくれそうだし、俺があれこれ考える必要はないだろう。
ならもうジュド爺に全部任せて放置……でも良いんだけど、うぅん、当然かつ自然な思考の流れではあるので、これからも似たようなのが現れる可能性が高い訳で、それを事前に防ぐ何かがあっても良いように思える。
……馬鹿な考えを無くすと言うよりも、若者の意識を別に向けるとかはどうだろうか?
楽しい何かがあれば……。
しかし一体どんなものがあれば熱狂しつつある若者の意識を変えられるのだろうか……?
娯楽……ここで可能な娯楽……。
歌、踊り、演劇? ポイントを使って多少派手に……ああ、楽器をポイントで作るのはありかもしれないなぁ。
一応楽器らしいものはシャミ・ノーマにもある訳だし……それなりに出来の良いものを複数用意したら気が紛れるかもしれない。
「……と、言う訳なんだけど、どう思う?」
厩舎でグラディスにブラッシングをしながらそんな声を上げると、グラディスの背中に寝転がっていたシェフィが『突然何?』という顔をこちらに向けてくる。
それを受けて俺は、先ほどの考えを口にし……シェフィは『ふ~ん』と言ってからモヤを作り出し、それに顔を突っ込み……しばらくしてからこちらに戻ってきて、口を開く。
『相談したら楽器は全然オッケーだってさ。
目的も凄く平和的だし、向こうの楽器をこっちで作っても問題なしってなったよ。
……なんでも向こうではサウナの中でライブイベントやったりするらしいから、そういうのに耐えられる楽器にしてくれるってさ』
「……さ、サウナでライブ? いや、それ楽器への負担もそうだけど、演奏する人への負担が凄まじいような……?
サウナで好きな音楽の生演奏とか聞けたら楽しいのかもしれないけどさ……。
ま、まぁ、うん、精霊の工房も問題ないってなったなら早速アーリヒと相談してみるよ。
しかしライブか……どんな感じの演奏になるのやら」
『クラッシックコンサートとかもやって、拍手喝采の大盛りあがりになってるみたいだね。
う~ん、楽しそうで良いなぁ……こっちでも早くそういうのが出来るようになると良いねぇ』
サウナでクラシックで拍手喝采……。
とんでもないワードの並びというか、全くイメージ出来ないのが凄まじいなぁ。
まぁ、うん、とにかく許可が出て良かったと、ブラッシングを丁寧に終えてからアーリヒの下へと向かう。
村の人達に話を聞くとアーリヒはどうやら自分のコタで何かをしているようで……アーリヒのコタへと向かったなら、入口から声をかけ、許可を得てから中に入る。
……と、アーリヒは手に皆が鞭と呼ぶものを持っていた。
それは俺が知る鞭ではないのだけど、皆は鞭と呼んでいる。
長く太めの木の棒に動物の皮を貼り付け、持ち手から先端に向かって広がっているような形状となっていて……それでもって素肌を叩くと凄まじく痛いらしい。
ようするにお説教用、折檻用のアイテムで、どうやらアーリヒの耳にも彼らの話が届いたようだ。
今は春だから良いけども、真冬にこれで叩かれると寒さもあってか地獄のような痛みが続くとかで……どうやらそれを使う覚悟を決めていたようだ。
「……アーリヒ、少し話があるんだけども……」
「えぇ、良いですよ、どんなお話ですか?」
俺が話しかけるとアーリヒは、いつもより暗く重い声を返してきて……そんなアーリヒに俺は先ほどの思いつきを話していく。
するとアーリヒは効果が分からないながらも賛成してくれて……、
「もしその楽器作戦が駄目だった場合はこれの出番ですね……本当は使いたくはないのですけど……」
と、そんな言葉を口にする。
それを受けて俺は冷や汗を流しながら、兎にも角にも楽器を作ってみるかと、頭の上に……少しだけ震えながら張り付いていたシェフィへと声をかけるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は楽器やら、引越し準備やらの予定です。