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新サウナ


「出来ましたー!」


 うどんがすっかりと定着し、村の皆が当たり前のように食べるようになったある日のこと。


 春だからとコタの中ではなく、村の広場で日光浴をしながらの昼食をとっていると、突然ビスカがそんなことを言いながら駆け込んでくる。


 サープと付き合うようになってビスカは、サープと一緒に過ごすか、学者としての本文……シャミ・ノーマの文化を研究するかのどちらかで日々を過ごしていたはずだけども、一体全体何が出来たというのだろうか?


 俺が抱いたそんな疑問は、向かい合って座ってうどんをすすっていたアーリヒも抱いているようで、アーリヒが小首を傾げるとビスカは待ってましたとばかりに元気な声を張り上げる。


「サウナです! あたしの考えた良さそうなサウナを作ってみました!

 ……と、言ってもアイデアの根底は、ヴィトーさんが話していたものなんですけど、でもでも、良い感じになったと思いますよ!

 結構手間とかかかっちゃいましたけど、レベルアップした村の皆さんに手伝ってもらったから完成度は保証します!」


 どうやらサウナを作っていたらしい。


 ……ここに来てまさかの新サウナ、一体どこにどんなサウナを作ったのやら。


「場所はいつも使ってるサウナの近くです。

 あそこってそんなに広くなくて順番待ちすることもあったじゃないですか? だから2軒あっても困らないかなって建てたんです。

 早速見にいきませんか? あ、まだ火は入れてないんで見学だけですよ、入れるのは今夜からです!」


 ビスカがそう言葉を続ける中、サープとユーラ、そしてベアーテもやってきて……全員興味津々といった様子なので、そういうことなら……と、早速皆で向かうことにする。


 うどんを食べ上げ、器の片付けをし、それからいつもの湖へと向かうと……確かに新しい建物が出来上がっている。


 そしてその建物はまさかの半木造だった。


 屋根などは木造、床も多分木造、柱も木なんだけども、壁の一部は石造り、レンガのような大きさに切り出した石を、これまたレンガのように積み上げているようだ。


 そしてそんな石壁の途中には大きな煙突……上に進む程細くなっている、石積煙突が壁に埋め込まれるような形で配置されていて……恐らくその下には暖炉というか、サウナストーブの代わりになるものが作ってあるのだろう。


「へぇー……石造りかぁ、保温性のためかな?

 確かに木造よりは良いのかもなぁ……でも一部は木造にしたんだね?」

 

 外見を見てまずそんな感想を口にすると、ビスカが得意げにふふんと鼻を鳴らしてから説明をしてくれる。


「全部石だと熱くなっちゃいますし、香りも良くないんですよ。

 あの立ち枯れの木を使わないと甘い香りが出てくれなくて……それに全部石とか作るのが大変過ぎるので妥協したってのもあります。

 でも、暖炉式にしたおかげで熱が逃げにくくて、燃料少なめでサウナが楽しめるのでお得ですよ!

 中はもっと工夫してあるので、見てくださいな!」


 その説明を受けて俺達は素直に頷き、ドアを開けて中へと入る。


 まずは脱衣所、こちらも一部が石壁となっていて……ビスカが言うには薄めのその石壁がサウナの熱をこちらに伝えてくれるので冬でもあったかくなる……予定らしい。


 流石にそこら辺は実際に冬になってみないと分からないとかで、実際に使ってみながら調整する予定だそうだ。


 脱衣所を過ぎて中に入ると、サウナはかなり広くなっている。


 石壁と一体化した暖炉を前にする形で、木造階段が三段……一段に10人くらいは座れるんじゃないかって長さになっている。


 背後にも石壁があって、石壁で挟んで熱を逃さず楽しむ……みたいなコンセプトなのだろう。


 暖炉上の石壁には妙なくぼみがあって、まるでテレビでも置くようなそのくぼみを見て何のためだろ? と、首を傾げていると、更に得意げとなったビスカの説明が始まる。


「こちらは精霊様のためのお席です!

 精霊様にはこちらで楽しんでいただく予定で……さらにはこの横のとこには穴があってですね、ここに風の精霊様の風を吹き込んでもらうと、暖炉から上がってきた熱を部屋中に送り込めるようになってるんですよ。

 ほら、以前やってもらったアウフグース、あれをサウナ全体の構造でやっちゃうみたいな、そんな感じです。

 石の中で溜め込まれた熱もしっかり使う感じで、こちらは既に精霊様の協力のもと実験を行い、効果は実証済みです! 凄く気持ちよかったです!」


 あ、もう実験してあるんだ、そして堪能してるんだ、しっかりと。


 ……いつの間にウィニアに協力してもらったやら、抜け目ないなぁ。


 そんなサウナの脇には木の箱? と言ったら良いのか、小さな木のプールのようなものがあり、水風呂でもするつもりなのかと覗き込んでみると……中にはどうやらたっぷりの塩が入っているらしい。


「そちらは塩サウナ用です! なんでも美容に良いそうで、精霊様達も楽しんでおられましたよ!

 塩はベアーテさんが都合してくれたもので、在庫も十分ですのでしばらくは補充なしでもいけますが、足りなくなったらポイントでの補充をお願いします!

 ポイントで作った塩の方が綺麗で、綺麗な方がきっとお肌にも良いはずですので!」


「ああー、塩サウナかぁ……なるほど。

 塩は塗り込むんじゃなくて、体に乗せて湿気で溶けるのを待つのが良いらしいよ。

 そうすると浸透圧で汗をかきやすくなるのと、古い角質が排出されるから肌がツルツルになる……んだったかな?

 まぁ、あんまりやりすぎるのも良くないだろうから、たまにやるくらいがちょうど良いのかもね」


 と、俺がそう言った瞬間、アーリヒとベアーテから物凄い圧が放たれる。


 突然のことで驚き視線をやると、二人共笑顔ながら迫力のある気配をまとっていて……どうやらお肌ツルツルという部分に意識を持っていかれたようだ。


 そして俺ではなくビスカの方へと迫っていき、一体いつから入れるのか、どのくらいの頻度で入れるのか、しばらくの間は女性専用にしてはどうかとか、そんなことを言い出し……ビスカさんがどんどんと壁際に追い詰められていく。


 そうしながら俺達へと視線を向けて助けを求めてくるが、俺やサープ、ユーラに出来ることはなさそうで……そっと目を逸らした俺達は黙って新しいサウナを後にするのだった。


 


お読み頂きありがとうございました。


次回は新サウナについてになります


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