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琥珀について


 琥珀を試してみた所、一つは身体能力強化、一つは気配を薄める力があることが分かった。


 一つ目の身体能力強化は、とにかく全身のあらゆる能力を強化してくれるようで……その中々の強化具合から、使った瞬間バランスを崩して転んでしまう程だった。


 歩こうとしただけで足を大きく振り上げてしまい、転ばないようバランスを取ろうとすると大きくバランスが崩れてしまう。


 正しく使えば垂直跳躍で2mとか3mとか跳べたりするとんでもない代物なのだけど、俺やサープには扱えきれず……結局使いこなせたのはユーラだけだった。


 琥珀にしっかり意識を向けて、意識の力というか集中力みたいなものを込めると身体が強化され……体を動かしている間もずっとそれを続けないといけない。


 琥珀から少しでも意識が削がれるとたちまち強化が終了してしまい……体を動かしながら、戦いながらそれを続けるのは至難の業だった。


 ユーラはそこら辺のことを無意識でというか、本能みたいなもので出来てしまうらしく……元々の身体能力も高いこともあり、適任だろうとなってその琥珀を、力の琥珀と名付けられたそれを渡すことになった。


 もう一つの琥珀も、使い方は大体同じだ。


 集中力を込めると持ち主の存在が希薄になる。


 そこにいるはずなのに、なんとなく見えないというか、気配を感じることが出来ない……足音なども聞こえにくくなり、話しかけられても反応を返すことが出来なくなってしまう。


 これなら俺にも扱えるのだけど、どうせなら隠密行動を得意としているサープに使ってもらった方が良いだろう。


 こちらの琥珀はシェフィの希望で忍者の琥珀と名付けられることになり……今後活躍してくれるに違いない。


 そしてこれらの琥珀は、使えば使う程に効果を増していくらしい。


 使えば使う程、力を込めれば込める程、効果を増して……増し続けて、最大まで増したなら、琥珀の中の精霊が復活出来るんだとか。


 なんだってまたそんなことになったのか、そしてなんでそんな琥珀が突然俺達の目の前に現れたのかの答えは……どうやら俺達の活躍が影響しているらしい。


 化け物……世界を改変し、魔法なんて代物を生み出す程の存在と戦って敗れた精霊達は、その力に飲み込まれてしまっていた……が、俺達が魔獣を倒し世界を浄化していったことで、その化け物の力というか力の膜というか、世界を改変しようとしている魔力の根底というか、とにかくそういった存在に傷がついたんだそうだ。


 傷がついて穴があいて、そこから飲み込まれていた精霊達が脱出しようとし……結果出来上がったのがこの琥珀、らしい。


 なんでそんなことまで分かったのかというと……琥珀を手に入れた日の翌日、琥珀の実験をしている時に、それが起きたからだった。





「ヴィトーもサープも情ねぇなぁ! 多少体の動きが変わったからって、コケることはねぇだろうよ!」


 と、そんなことを言いながらユーラが村から少し東に行った一体を爆走している。


 力の琥珀を発動させ、それで強化された身体能力を完全に使いこなし……多分あれ、時70kmとか80kmとか出ているんじゃないだろうか。


 前世でのトップアスリートで45kmが最高記録だったか……それを悠に超えるような速度で爆走していて、ユーラが走った後の地面は掘り返されたかのようにグチャグチャになっている。


 そうやって走って走って……走りながらも琥珀にしっかり力を込め続けているのか、速度が落ちることはない。


 精霊の加護のレベルアップで常人の身体能力を更に琥珀で強化して……そうやって爆走しまくったユーラは、流石に息が切れ始めたのか段々と速度を緩めていって……ゆっくりとこちらにやってくる。


「いやぁ、すげぇぞ! 風が全身にガンガン当たってよ! 風景がグングン変わってよ!

 体が熱くなるんだが、風が当たりまくるから全然平気なんだよ! すげぇ気持ち良いな、これ!!」


 そしてそんな声を上げてから琥珀を掲げ……そうしながらゼェハァと息をして肩を揺らす。


 生身で70kmとか80kmで走るとなると……バイクの近い感覚なのだろうか?


 その速度を自分の足でなると、また別の爽快さもありそうで……身体能力が強化されたことよりも、そちらの方を楽しんでいたようだ。


 と、その時、ユーラが掲げていた琥珀の中で何かが動く。


「ん?」


「お?」


「は??」


 俺、ユーラ、サープの順にそんな声を上げ、続いて俺達の上空で傍観モードに入っていたシェフィが声を上げる。


『あれ!? 精霊だ!? 琥珀の中で精霊が動いてる!?』


 直後、シェフィは琥珀へと近寄って張り付いて、黄色に透けている琥珀の中を覗き込もうとし……琥珀の中にいる精霊? も同じように琥珀の外殻と言ったら良いのか外壁と言ったら良いのか、とにかくそんなものに張り付いて、それから精霊同士のコミュニケーションを取り始める。


 そうして明らかになったのは琥珀が生まれた原因と、琥珀を使い続けるとどうなるかと言った話で……それを聞いたシェフィはいつになく喜び、はしゃぐ姿まで見せて、消滅したはずの精霊達の帰還を大いに喜んだのだった。



 


 琥珀というものは樹脂の化石である。


 樹脂が何かと言うと、木を傷つけた際に出てくる樹液から水分が抜けて出来上がったもの、ヤニな訳で……化け物の力の膜に傷がついて、その傷から漏れ出てきて、結晶化した力の琥珀と忍者の琥珀も、大体同じものと言えるらしい。


 琥珀そっくりな見た目なのは、そこに封じられた精霊がなんか琥珀っぽいなコレ、という感想を抱いたことが影響しているそうで……そういうことならまぁ、大体琥珀ってことで良いのだろう。


「……あっ。

 もしかしてなんだけど、あの植物魔獣ってさ、こちらを攻撃しに来たんじゃなくて、あの琥珀に操られてこっちに来たとか無いよね?

 化け物の影響下から逃れるため、俺達に封印を解いてもらうために魔獣を操ってこっちまでやってきた……みたいな。

 いきなりあんな植物魔獣がやってきて何事かと思っていたけども……そうすると辻褄が合いそうな気がするんだけど??」


 琥珀の実験があらかた終わって、ユーラがグチャグチャにしてしまった一帯の手入れをすることになって……夕方。


 ふと思いついたことがあってそんな声を上げると、俺の頭に乗っていたシェフィは『ん~~……』なんて声を上げながら頭を悩ませてから、何も言わずにゴロンと寝返りと打つ。


 ……言い訳を考えようとしたけど、何も思いつかなかったって所か。


「……まぁ、精霊も必死なんだろうし、琥珀という形で力を貸してくれるみたいだし、文句もないんだけどね……。

 ただまぁ……村まで来られちゃ大変だから、それっぽい予兆というか、力の流れみたいなのを感じたら事前に教えてくれると助かるよ」


 と、俺が言葉を続けるとまた寝返りを打ったシェフィが元気いっぱいな声を上げてくる。


『ヴィトーならそう言ってくれると思ってたよ! さすが愛し子だね!

 よっ、精霊の救世主! 何か予兆があったらすぐ知らせるから、任せておいて!! 他の精霊にもそうするように連絡しておくよ!』


 なんともお調子者というか、ちゃっかりしているというか……まぁ、工房だのなんだの、散々世話になっているんだから良いんだけどさ……。


 ともあれ、そういうことで琥珀を積極的に回収、使用することになった俺達は、またいつ植物魔獣が来ても良いように備えることにするのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回は村のあれこれの予定です



マンガUPでのコミカライズ連載、好調継続中です!


現在4話まで進んでいて……サウナシーンなどもあるので、ぜひぜひチェックしてください!

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