植物魔獣
散弾に変えての射撃は効果的だったようで、細い体や枝を容赦なく吹き飛ばし、周囲に木片が散る。
その吹き飛び方はかなりのもので……このまま決着かと思ったのだけど、木の魔獣はあっさりと立ち上がり、砕けた枝やらを振り回しながらこちらに駆けてくる。
これが今までの魔獣だったら痛みに悶えるなり苦しむなりするのだけど……植物だからか痛覚がないようだ。
枝を振り回す勢いは変わらず、その枝葉も変わらず周囲のものを切断していて、あれに近付かれてしまったならかなりのダメージを受けてしまうことだろう。
痛覚がないにしても枝は吹っ飛んでいる訳で、何発か打ち込めば倒せるだろうと再装填していると、まずユーラが駆け出し、植物魔獣が迫ってくるのを待ち構え、手にしていた槍を両手でもって全力で叩きつける。
目がないのに槍が迫っていることを感じ取っていたらしい植物魔獣はそれを避けようとするが避けきれず、枝で防ごうとするが防げるものでもなく、幹に直撃を受けて真ん中辺りで大きく折れる。
……が、それでも動きを止めず、むしろ幹が折れたことで可動範囲が増えたとばかりに激しく動き回り、そして枝葉がユーラに迫る中、ユーラの背後から飛び出したサープが、手にしていた槍を鋭く投げる。
それが幹の下、根本のような部分に辺り……見事に切断、根というか足というか、とにかくその辺りから切り離されることになった幹と枝葉は、倒れてそのまま動かなくなる。
これで決着かと、装填の手を止めていると……残された部分、根っこと幹のほんの一部が動き出し、シャカシャカと周囲を駆け回る。
「え!? あっちが本体!?」
思わず俺がそんな声を上げる中、ユーラとサープはなんとかそれを倒そうとする……というか捕まえようとしていて、手を伸ばしているのを見て俺は念の為にと声を上げる。
「木によっては毒があったりかぶれたりするから触らない方が良いよ! 槍でトドメをさそう!」
冬の間は手袋をしていたが、暖かい今はしておらず、素手で未知の植物を触るのは危険だろうと考えての言葉を受けて、ユーラは槍を構え直し、サープは投げた槍の回収のために駆ける。
そして2人からの槍の叩きつけや突きが放たれて……何度かの攻撃を受けてそれは動きを止める。
……死んだ、と言って良いのか……枯れたとも違うような気がするし、とにかく動かなくなって戦闘終了となったのだけど、そこからまた別の問題が発生する。
魔獣は倒した後、浄化する必要がある、恐らくこれも浄化しなければいけないはずなのだけど、戦闘であちこちに破片が飛び散っていてなんとも面倒くさい。
こうなると散弾を使ったのは失敗かなぁとも思えて……その上、素手で回収することも躊躇われるので、思わずため息が漏れる。
「……仕方ないか、シェフィ、大きめのホウキとちりとり、それとゴミ袋みたいなのを工房で作ってくれる? それで破片集めるからさ……」
ため息ついでにそう言うと、頭に張り付いていたシェフィが早速作り始めてくれて……俺はユーラ達と一緒に破片掃除を始める。
他のゴミ……落ち葉やら何やらと一緒に破片を残さないように丁寧に集めてゴミ袋に入れていって……ある程度片付けたところでハッとした顔になったユーラが声を張り上げる。
「お、おい、これ食えねぇぞ! 肉がねぇぞ!!」
それを受けて俺もハッとする。
魔獣を倒し世界を浄化していくという意義があるため、全く無駄な戦いではないけども、魔獣に比べてこの植物魔獣は得るものがなさすぎる。
毛皮がない、肉がない、骨だって色々使えるのにそれもない。
あえて言うのなら根っこや枝葉や破片は残るが……細くモロく、質の良い木材が手に入るこの辺りでは使い道なんてまずないだろう。
あるとしたら火にくべるくらいのもので……こんなのが次々やってきたらたまらないぞと戦慄する。
何の特にもならない魔獣が次から次へとなんて、笑えないにも程がある……これならまだ厄介だとしても食べられる魔獣の群れの方がマシだぞと、そう考えていると、頭の上に寝転がって左右にゴロゴロと転がっていたシェフィが声を上げる。
『うーん、ボクから見てもこいつらは何の役にも立たなそうだねぇ。
だからその分だけ多めにポイントあげるよ、そのポイントで色々作って村の役に立てると良いよ』
「んん? 良いの? そうしてくれるならありがたいけど……随分と太っ腹だね」
と、俺が返すとシェフィは手足をジタバタとさせながら言葉を返してくる。
『……多分これから、こういう面倒な魔獣が増えていくんだろうし、今のうちからしっかりと対応しておかないと、士気の低下とかで大変なことになっちゃうからね。
ボク達精霊はこういったことを疎かにはしないよ! ちゃんとやる気が出るよう、支援していくからね!』
「う、うん、ありがとう。
……なんか妙なとこでリアルな理由付けしてくるよね、ありがたいけども。
そういうことなら俺もユーラ達も、村の皆も頑張ってくれるはずで……ああいうのがたくさん来てもなんとかなるかな。
……あ、そうだ、この木材に毒があるかどうかって調べられる? ほら、ウルシとかああいう感じの植物だったら厄介だからさ」
と、俺が返すとシェフィは『それもそうだね』と、そう言ってムクリと起き上がってぷかりと浮かんで足元まで移動して、破片を一つ手にとって工房へと続くモヤの中へと放り込む。
それからシェフィもモヤの中に入っていって……調査でもしてくれているんだろうと頷いた俺は、片付けを再開させる。
そして破片らしい破片……恐らく魔獣と関係ないものまで丁寧に片付けて袋詰し……作業が終わったなら倒木に座っての休憩をし、シェフィが帰ってくるのを待つことにする。
それから数分してモヤが現れ、シェフィがにゅっと顔を出し、こちらにやってきながらの報告をしてくれる。
『とりあえず素手で触っても問題はないよ。
ただ食べるとかはやめた方が良いね、確実にお腹壊すから……強度はないから木材としては使えないそうで、ヴィトーの言う通り燃料にしかならないかなぁ。
燃やせば一応それで浄化になるから、浄化作業すっ飛ばして燃やしちゃってもOKだって。
……とりあえずその袋は工房で処分してくれるそうだから、モヤの中に押し込んで』
そんな言葉を受けて俺達はすぐに袋を持ち上げ、工房に押し込み……そうして一仕事終えたとため息を吐き出す。
……すると、まるでそれを待っていたかのように先ほど聞いたような音が南の方から聞こえてきて……音がどんどんと増えていき、まるで数体の植物魔獣がこちらに駆けてきているかのようだ。
『いや、駆けて来ているんだよ実際。
どうやら結構な数が発生しちゃったようだね……葉っぱの切れ味とかは中々のものらしいから、攻撃を受けないよう気を付けてね』
そんな俺の考えを読んでかシェフィがそう言ってきて……再びため息を吐き出した俺達は、迫る植物魔獣を迎撃すべく武器を構えるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
植物魔獣戦はこれで一旦終わり、次回は村に戻ってのあれこれです。
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