サウナでの雑談
村に戻ったら早速熊の解体が始まり……その間に俺はサウナへ。
狩りの穢れを落とすためということで精霊達と一緒の入浴となり、じっくり体を温めていると、話があるのかタオルを腰に巻いたロレンスさんが入室してくる。
目礼をしてから腰を下ろし、じっくりとストーブの熱と向き合い……サウナに入っているというのに顔色を悪くしたままのロレンスさんに、俺はついさっきシェフィ達と話し合っておいたことを言葉にしていく。
「今日見たことをそちらの議会で話してもらって構わないですよ。
他の議員達への証明が必要と言うのなら、こちらの領域の南端でそれをお見せします。
俺達の目的はあくまで世界の浄化……そちらとの敵対ではありませんから、浄化派の方が議席を増やせるというのなら協力はしますよ」
ただ驚かせただけでは意味がない、その先どうするかが大事で……議会制であるならば味方となり得る議員を増やすのも悪くないだろう。
あの光景を……精霊の加護の力を見せつけ、浄化にメリットがあることを伝え、魔法と今の世界がいかに歪んだものを理解してもらえるのなら、多少のパフォーマンスくらい大した手間でもないだろう。
「……それは、ありがとうございます。
議会を持たない方々から、そこまでのご配慮をいただけるとはまたも驚かされました……。
……協力のお約束をいただく前に一つだけ、我々が顔色を悪くしている理由を語らせていただきます」
するとロレンスさんがそう返してきて、俺は疑問符を心の中に浮かべながら頷き、続きの言葉を促す。
「……ヴィトー殿はそもそもきっかけ、魔法と瘴気を生み出した存在についてどの程度知っておられますか?」
「……そう言えば、その辺りのことはよく知らないですね。
世界を危機に陥れた化け物と、そんな風に聞いていますが……」
「その認識で問題はないかと思います。
我々はその存在を魔王と呼んでいまして……そしてその魔王を倒した英雄を勇者と呼び、今に至るまで語り継いできました。
勇者の力は凄まじく、体力も膂力も何もかもが常人の数倍あり、更には先ほど見せていただいたような威力のある魔法も扱えたそうです。
見たこともない武器を扱い、その戦略はどの国の将軍も舌を巻くもので……魔法推進派は、魔法こそが勇者の力の残滓、勇者の血が我々に流れている証拠だと主張してきました。
……その主張が間違っていることは薄々理解していましたが、いざ明確過ぎる証拠を目にすると腰が抜けてしまうようです。
勇者の力は我々には伝わっていなかった、辺境の人々にこそ伝わっていた……そのことを知らされた議会や民達がどんな反応を示すのか、私如きには予想することもできません」
あー……なるほど?
魔王と勇者とはまた随分分かりやすい話が出てきたけど……想像するにその勇者もまた精霊の愛し子だったのだろう。
シェフィからはそんな話を聞いたことがないから、シェフィとはまた別の精霊がやったこと……なのだろうか?
まぁー、かなり昔の話のようだし、尾ひれが付いているだろうことは明らかで、その全てを鵜呑みには出来ないけども、精霊が関わっていることは間違いなさそうだ。
そんな伝説の再来のような力を見せつけられて顔色を悪くしている……と。
ただ力を見せつけるだけのつもりが、まさかの方向でクリティカルヒットしてしまったようだ。
うぅーむ……それは予想外ではあるけども流石にそこまでは世話を見きれないというか、そちらのことはそちらで頑張ってもらうしかないだろうなぁ。
「議会がどうなるか、沼地の人々がどうなるかは、俺達にはなんとも……そこはロレンスさん達に頑張ってもらうしかないのでしょう。
繰り返しになりますが、俺達の目的は世界の浄化です。
世界が歪みきってしまう前に……世界が成り立たなくなる前に、浄化をしていくしかないんです。
……すでに自然界には結構な影響が出ているようで、今年中にある程度の目処をつけなければ、来年の春にはかなりの大きな影響が出てしまうはずです。
そちらの議会がどれくらいの間隔で開かれているのかは知りませんが……急いだ方が良いと思いますよ」
実際虫や鳥が南から逃げてきているのだから、手遅れなくらいなのだけど、ここでそんなことを言ってもしょうがない、急いだ方が良いとだけ伝えることにして……そして俺はそろそろ限界だなと立ち上がる。
サウナで長話というのは……うん、良くない、本当に良くない。
少しのぼせかけているシェフィ達を抱きかかえて外に出て、氷が張っていないまでも十分に冷たい湖へと飛び込み、キンと冷える水風呂を堪能する。
水風呂に入ったことでシェフィ達も復活し、湖に浮かんで水風呂タイムを堪能し始める。
そしてロレンスさんも追いかけてきて……少しの躊躇の後、湖に飛び込み、そして凄まじい声を上げる。
「ひぃぃぃぃ~~~~~」
悲鳴だった、まぁ、未経験だとそうなるのも仕方ないかもしれない。
シェフィ達が近くにいるし、いざとなったら精霊の力で守ってもらえるはずだし、特に心配することなく放置し……じっくりと体を冷やしたなら瞑想小屋へ。
するとロレンスさんも慌てて追いかけてきて……瞑想小屋に椅子に深く腰掛けたなら目をつむり、全身から力を抜く。
今回も問題なくととのいが始まり、なんとも言えない気持ちよさが広がり……そしてまたもロレンスさんから声。
「はぁぁぁぁ~~~~~……」
どうやらロレンスさんもととのっているようだ、腹の底から声を吐き出している。
そうして十分に休んだなら脱衣所に向かい、着替えを済ませ……そうして広間へ。
すると料理の支度が整っていて、今日は気温も高く風が心地良いということで外での食事会となっているようだ。
ロレンスさんの護衛達もすでに食事を始めていて……ロレンスさんもそこに参加し、食事を始める。
「お、美味しい……!」
またも声。
サウナの後はご飯が美味しく感じるからなぁ、そんな声が出るのも仕方ない。
それからロレンスさんは護衛達とあれこれ言葉を交わし始め……簡単な相談のようなことをし始める。
それを盗み聞くのも失礼かと距離を取った俺は、アーリヒが用意してくれていた席、毛皮をピクニックシートのように広げた場へと足を進め、そこで春山菜いっぱいの熊肉スープを受け取り、シェフィ達と一緒にその美味しい料理を堪能するのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はロレンスのその後となります






