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小細工


 沼地の人々に対し、有利な条件を突きつけるためにこちらの力を見せつける。


 それを本当にやって良いのか、問題はないのか。


 その辺りのことをアーリヒの下に向かう道すがら、皆に相談しての答えはこんな感じだった。


 まずは精霊シェフィ。


『ちょっとした火薬を作るくらいは良いよ? ただそれ以上のはちょっとね。

 銃を使うのも良いけど、誰かを怪我させたり、自然を壊しすぎるのも駄目かな……見せつけた結果どうなるとかは、ボクには分からないから何も言わないでおくよ』


 次に炎の精霊ドラー。


『なるほどな、悪くはないんじゃねぇの?

 ん? そこで炎の力を借りたい? 構わねぇよ? なんでもやってやるさ』


 そして風の精霊ウィニア。


『……んー、良いんじゃない、かな?

 正直よく分かんない部分もあるけど……風の力を貸すくらいはなんでもないよ』


 次に話し合いに同行した面々に聞いてみると……ジュド爺は「やっちまえ」サープは「よく分かんないんで任せるッス」そしてビスカは「驚かし過ぎちゃ駄目ですよ」というものだった。


 そしてアーリヒの下に到着しての相談の結果も似たようなもので……結果どうなるかは分からないが、やってみても良いんじゃない? という態度が多かった。


 アーリヒからも特に反対はなく、男衆からは賛成の声が多めで……ユーラとベアーテのコンビからは熱烈な賛成意見という感じだった。


 特にベアーテからは、


「これから瘴気で沼地が荒れてくんだろう? なら今のうちにここいらが恐ろしいとこなんだって見せつけておかないと後で厄介なことになるんじゃないか?

 どんどん沼地の連中がやってきて、勝手に家を建て始めたりして……それが当たり前のような顔をしてくる、なんてのはどこでもある話だよ。

 アンタがここで精霊様の力の一端を見せつけておけば、それを防ぐ良い牽制になってくれるかもねぇ」


 との意見が出て……それが決めてとなって村の皆が俺の作戦に賛成してくれることになった。


 ……で、肝心なのは何をどうするか、だ。


 シェフィが多少の火薬を作ってくれて、銃を使っても良い。


 それだけだと大したことも出来なさそうだけど……そこに炎と風の精霊の力が合わさったなら、面白いことが出来そうではある。


 問題は火薬を使う場所だけども……沼地の方に木々が少ない、岩山のような一帯があるので、そこでなら植物などにも被害を出さずに済むだろう。


 あとは一応の実験をやって、ちょっとした小細工なんかもして……それから改めて俺とシェフィだけで、沼地の人々……ロレンス達が待つコタへと足を運ぶ。


「……族長にそちらの希望についてを伝えてきました。

 族長は今話し合いの準備を進めていまして……会談の場も整えていますので、そちらまで移動をお願い出来ますでしょうか?」


 それからそう声をかけるとロレンス達は、願ってもないことだと頷いて立ち上がり、コタから出て……俺の後に続く形で歩き始める。


 その間俺はずっと猟銃を手に持っていて……初めて目にする不思議な道具にロレンス達は興味津々だ。


 森の中を歩きながら両手で持っている何か、普通に考えれば武器だが、どんな武器かは思い当たらないようだ。


 クロスボウとか大砲とか、そういった武器が沼地にあれば想像は出来そうなものだけど……ロレンス達の様子を見るにそういったこともなさそうだ。


 魔法に頼り切りの文明だったそうだから、そういった発明は遅れ気味なのかもしれないなぁ。


 これからやることを考えると火薬の発明もされてないと良いのだけど……前の世界では確か6世紀とかそこら辺の発明品だからなぁ……魔法頼りの文明でも火薬くらいは作っていそうな気もする。


 ……まぁ、うん、もしそうならビスカから反対意見とかが出ているはずだし、きっと大丈夫……なんてことを考えながら足を岩場へと進めていく。


 大きな崖が崩れて出来たようなその一帯には、これといった植物もなく、動物の姿もなく……あるのは岩陰に設置しておいた仕掛けだけ。


 木材を簡単に組み上げてキャンプファイアーのような形にしたなら、その中にシェフィに作ってもらった火薬を設置しただけではあるのだけど、その火薬に火が点いたなら盛大に燃え上がってくれることだろう。


 それだけでなく―――と、そんな事を考えていると、偶然なのか何なのか熊が俺達の目の前に現れる。


 魔獣ではなく普通の熊のようで……一体なんだってこんな所にいるのやら。


 周囲にはユーラとサープを始めとした男衆が潜んでいるはずで、普通ならこんな人の気配だらけの所にはやってこないはずだけども……。


 ……もしかして人の気配に誘われてやってきた? 人を襲う気満々で?


 そう考えた瞬間、目の前の熊が、


「ガァァァァァ!」


 と、声を上げ両手を振り上げてきて……そういうことならばと俺は猟銃を構え、熊の心臓に狙いをつけて引き金をそっと引く。


 すっかりと聞き慣れた力強い発砲音がして、熊がゆっくりと倒れていって……熊が絶命したことを確認してから振り返ると、俺の後ろにいたロレンス達の面白い表情を眺めることが出来た。


 驚愕一色、護衛の男なんかは顎が外れそうな程の大口を開けている。


 魔法の中には攻撃魔法なんてものもあるらしいけども、この様子を見ると銃程の威力はないようだ。


 魔法が銃と同じ……熊を一撃で倒せる威力なら、それを見慣れているはずの彼らがここまで驚くはずもないし、威力に関しては銃の方が圧倒的のようだ。


 と、その時、ガリッと音がする。


 俺達がいる場所から少し離れた岩の陰からの音で、その音はまるでそこに何かがいることを知らせてきているかのようだ。


 ……実際にはそれはユーラ達がそう思わせるために立ててくれている音で、それに続く形であちこちから、俺達を囲む形で様々な音が響いてくる。


「この感じ、魔獣かもしれません、警戒してください!」


 そう俺が声を上げると、ロレンス達は震え上がりながらも、それぞれが携えていた武器を構える。


 どうにか棒読みにならない程度の低い演技力での一声だったけども、ちゃんと信じてくれたようで、陣のようなものを組み、周囲へと警戒心を向ける。


 すると音がしていた岩陰の一つからヌッと黒い影が現れ、それを目にしたロレンス達は顔面蒼白となる。


 それは魔王……の毛皮だった。


 魔法の毛皮を雑に組んだ木材に引っ掛けて、それっぽく見せているという感じで、はっきり全貌が見えてしまうと毛皮だとバレてしまうが、ユーラ達がうまく顔や腕の部分だけを見せているので今の所そうとはバレていない。


 三人係でわちゃわちゃと毛皮を動かし、それを受けて猟銃を構えた俺は、わざとらしくならないように声を上げる。


「皆、力を貸して!」


 するとシェフィ、ドラー、ウィニアの三精霊がなんとも仰々しい、演技かかった態度で俺達の前に現れ、同時に腕を振り上げその力を発動させる。


 シェフィが無駄に光っていかにも力を使ってます風な演出をし、ドラーが小さな火を操り木材の中の火薬に着火、激しく燃え上がった炎にウィニアが風を送り込み、送り込んだ風を渦巻かせ、あっという間に火柱へと変貌し……その火柱に更にドラーが力を送り込むことで、ちょっとした火災旋風のようなものが巻き起こる。


 一箇所ではなく複数で、音がしていた岩陰全てでそれが起こり、あっという間に岩場は炎の竜巻に包まれるが、その熱がこちらに伝わってくることはない。


 誰かの服とか、魔王の毛皮とか、岩場に飛んできた木の葉とか、岩場の周囲の草木とか。


 そういったものが燃えてしまうことはなく、用意した木材だけが燃えて……ドラーが完璧に熱を制御してくれるおかげで、安全にそんなパフォーマンスを実行することが出来た。


 そうやって精霊の力によって発生した火炎竜巻は、しばらくすると消火剤でも吹きかけたかのようにすっと消えて……そうして静かになった岩場で俺が、


「もう大丈夫ですよ、隠れていた魔獣は精霊様が焼き尽くしてくれました」


 と、そう言うことで計画が完了となる。


 ……本当はもう少し猟銃の威力を見せつける予定だったのだけど、熊が乱入したことでそこら辺が省略される形となってしまった。

 ……けども、結果としてはその方が良かったのかもしれない。

 

 我ながら酷い演技だったし、精霊達の演技も結構アレだったし、予定通りにやっていたなら、ロレンス達に怪しまれてしまったかもしれないからなぁ。


「……とりあえず良い肉が手に入りましたし、話し合いをしながら食事を楽しむとしましょう。

 新鮮な熊肉は臭みがなくて、とても美味しいんですよ」


 ここからは演技の必要はない、肩の力を抜きながらそう言った俺は、猟銃を肩にかけ、倒れた熊の足を両手で引っ掴み……それを引きずりながら村に向かって歩き出す。


 精霊の加護のおかげで、このくらいの熊ならどうにか運べるはずと、力を入れてみると結構なんとかなっていて……雪がない春でも運搬に支障はなさそうだ。


 雪があった時は雪の上を滑らせるだけで良いから楽だったんだけどなぁ……と、そんなことを考えながら熊を引きずっていると、そんな俺の様子を見ていたロレンス達は、またも大口を開けてみたり、腰を抜かしたかのように座り込んでみたり、膝から崩れ落ちてみたりと、それぞれ面白いくらいに驚きの感情を表現してくれる。


 ……それを見て俺は変な小細工をせずに、精霊の加護で強化された身体能力を見せればそれで良かったのか? ということに思い当たるが、今更だ。


 とりあえず村までの道中、このくらいなんでもないという余裕な態度を見せつけるかと心を決めた俺は、息が乱れたりしないよう気をつけながら、村まで熊を引きずっていくのだった。



お読みいただきありがとうございました。


次回は話し合いやら何やらです。


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迷い込んだ熊のファインプレーに助けられたね!
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