再びの来訪者
村の皆の刺激中毒は日が経つにつれて段々と落ち着きを見せていった。
洞窟サウナに入り飽きたというのもあるのだろう、お茶が広がったのもあるのだろう。
他にも春となったことでグン上がりしていたテンションが落ち浮いたというのもあったようで……そうやって落ち着きを見せた皆は春仕事に励むようになり、作業はかなり順調に進んでいった
魔獣がすっかりと姿を見せなくなったということもあって、村の皆が気軽に出歩けるようになり、何なら子供達までが作業を手伝うようになり……必要な量があっという間に集まり、乾燥などの加工作業の手が足りなくなる程だった。
それは忙しいながらとても嬉しいことであり幸せなことであり、村中に笑顔が溢れて皆楽しそうに作業をしていて……すっかりと村に馴染んだビスカも、なんとも楽しそうに作業に参加していた。
これも研究の一環とかなんとか言いながら、村の中央広場でハーブを洗ったり、乾燥台に並べたりとし……村の皆とワイワイと語り合い。
沼地出身のよそ者とは思えない馴染みっぷりに驚かされるが……ビスカがそれだけの努力をしたのと、村の皆がその懐の深さでもって受け入れた結果なのだろうなぁ。
同じく新参者であるベアーテも狩りを通じてすっかり皆と仲良くなり、昔から村人だったと言わんばかりの馴染みっぷりを見せていて……うん、村の皆の寛容さにも驚かされるなぁ。
まぁ族長のアーリヒと信仰の対象である精霊が認めているというのも強いのだろうけども……。
なんてことを、広場での作業を手伝いながら考えていると南の方に狩りに行っていた一団が帰ってくる。
シェフィが言っていた通り、鳥に続いて獣達が南からどんどんやってくるようになっていた。
汚染された地域からの避難ということで受け入れてあげたい所なのだけど、数があまりにも多く、恵獣やこの辺りの地域の動物の餌を食べ尽くしてしまう可能性があって、積極的に狩りをしようということになっている。
毎日毎日10人前後の一団を組んで出来る限り。
と、言っても一つの村でやれることは限られていて、増え続ける動物の数を減らすことは出来ておらず、餌場への侵入を防ぐので精一杯、明らかに手が足りていない。
この地域には他のシャミ・ノーマ族の村もあって、シェフィが言うにはそれらの村も積極的に狩りをしているそうなのだけど、全然追いついていない状況で……肉に困らないのはありがたいけども少し困った状況になっていた。
ならいっそ他の村と連携しての大規模狩猟でもしようかと考えたのだけど、他の村との距離は数十キロとかそれ以上となっているらしく、連携して狩りどうこうはあまり現実的ではなかった。
ヴァークも今は忙しい時期らしいし、どうしたものかなぁ……なんてことを考えていると、一団の最後尾にいた狩りを得意としている、それなりに仲の良いおじさんがキョロキョロと視線を巡らせ、それからこちらに視線を向けて声をかけてくる。
「ヴィトー、族長はどこだ?」
「アーリヒですか? 今はサウナに行っていますよ。
染め物の作業をして匂いがついてしまったので、それを取るためにじっくり時間をかけてくるんじゃないですかね?」
「あー……サウナか、サウナなら仕方ねぇなぁ。
いや、沼地からまたおかしな連中がやってきたんで、その連絡をしたかったんだが……サウナ中なら変に急かす訳にもいかねぇか」
沼地……以前追い払った連中がまた来たのかな?
まぁー……暖かくなったし雪も減ったし、移動が楽になったということでまたやってきたとしてもおかしくはないか……。
「どんな連中が何人くらいで、何を目的にやってきたんです? もし急ぎなサウナ中でも知らせてきますけど……?」
と、俺が返すとおじさんは腕を組んで首を傾げながら言葉を返してくる。
「どーなんだろうなぁ? 騒ぐようなことでもない気もするが、よそ者はよそ者だしなぁ……。
まぁ、とりあえずアレだ、狩りもできなさそうな細い野郎が一人、その護衛みたいなのが二人。
全員男で……まぁ若いと言えば若い連中か、目的は話し合いらしいが、具体的にどんな話し合いをしたいのかはよくわかんねぇな。
なんか歩み寄りたいとか、浄化の方法を知りたいとか言ってたが……沼地の連中が浄化とか何言ってんだろうな?
ああ、あとはビスカの嬢ちゃんのことも心配してたみたいだぞ、サープとくっついたって教えてやったら変な顔してたな」
……ん? ビスカのことを??
待てよ、沼地の人々からするとビスカの現状ってどう見えるんだ?
商人とその護衛と一緒に、異民族であるシャミ・ノーマの下に研究に向かってそのまま取り残されて帰還出来ず、そして現地の男とくっついた??
いきなりそんなことを知らされて向こうの人はどう思うんだ?
素直に信じるか……? いや、そうなることを強制されたとか、そんなことを考えるんじゃないか?
……夢中で作業を楽しんでいるあの笑顔や、サープと一緒にいる時に見せるあの笑顔を見ればそれが誤解ということはすぐに分かってもらえるだろうけど、難しくないか?
うぅーーん、すこぶる面倒くさいことになりそうな気配がしてくるけども、かと言って放置も出来ないし……と、あれこれと悩んだ俺は、頭の上ですやすや寝ているシェフィに声をかける。
「シェフィ、話を聞いていた?
聞いていたなら今の話をアーリヒに伝えてもらえるかな? 俺はビスカやサープに今の話を知らせて……対応を相談してくるからさ」
するとシェフィは俺の頭から転がり落ちながら目を覚まし、ふんわりと中に浮かびながら大あくびをしてから、言葉を返してくる。
『ふわぁ……うん、おっけー、良いよ。
何があったかを知らせて……急かす必要はないんだよね?
緊急って感じでもないだろうし……そいつらも村に近づけてはいないんでしょ?』
そんなシェフィの疑問のおじさんは、もちろんだと頷き、狩り場の南端で待機させていると、そう教えてくれて……それを受けてシェフィは頷き、ふわふわとサウナの方へと飛んでいく。
それから俺はおじさんに礼を言い……とりあえず本人に知らせるかと、楽しげに作業を続けているビスカさんの方へと足を向けるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、来訪者のあれこれです