異変?
サウナ中毒を少しでも解消出来ればとお茶を出してみた訳だけど……まぁ、うん、それだけで解消できるはずもなく、尚も村人の何人かは洞窟サウナに通い続けていた。
そうは言っても春は忙しい季節で、やることも一杯あるので全員がそう出来た訳ではないけども、結構な人数が通っていて……だけどもそのうちの一部、何人かはサウナよりもコタでお茶を飲むことを選んでくれてもいた。
全く新しい味と濃いめのカフェインという新しい刺激。
カフェイン耐性が強い人にはただの飲み物かもしれないけども、そうではない人には一種の活力剤であり、漲る活力でもって仕事に励んだり狩りに励んだり、悪くない結果に落ち着いてくれたようだ。
……これ以上の解決は俺には難しいと言うか、専門家ではないので他の対策は思いつかず、今後は何かを思いつき次第提案するということにし、そうして俺は春仕事へと精を出していた。
春仕事……春にしか出来ない野草やハーブなどの採取を村ではそう呼んでいる。
春のうちにできる限りそれらを採取し、乾燥させたり塩漬けにしたりして冬まで保つようにし、冬になったらそれらを使いながら次の春を待つ。
決して欠かすことの出来ない大事な仕事で、本来はこういった採取は女性陣の仕事とされているのだけど、村から距離のある危険な地域での採取は男性陣の仕事とされていて……ユーラとサープと共に遠出し、拠点となるラーボを建てて、そこから三方向に別れての採取作業となる。
護衛であるユーラ達とそんな風に別れてしまっても良いのかと思う部分もあったけども、俺の側にはシェフィとグラディスとグスタフの姿もあり、いざという時はシェフィ達が声を上げるなりしてユーラ達を呼んでくれるはずなので問題はないだろう。
そういう訳で俺はグラディス達が一生懸命に春の新緑を食む横で採取に精を出し……アーリヒから預かった見本の草花をちょいちょいと確認しながら、草花を摘み腰に下げたカゴに押し込んでいく。
これは食べられる草、これは傷薬になる花、これは……何に使うかよく分からないけど、何かの役に立つらしい草の根……と、採取を進めながら頭の上のシェフィに声をかける。
「こういう作業って嫌いじゃないんだよね……前世でも山での山菜採りとかたまにやっていてさ、目的のものを見つけた時の楽しさは、なんとも言えないものがあるよねぇ。
しかもここではそれが見つけたい放題……前世での山菜採りは他の人との競合もあってこんなには採取出来なかったから、本当に楽しいよ。
アーリヒはこんな仕事頼むなんて~って、申し訳なさそうにしていたけども……こんな仕事ならむしろ大歓迎だよねぇ」
『そういう所は本当にヴィトーらしいよねぇ。
まー、ボクもこういう仕事は嫌いじゃないけどね、浄化が進んで綺麗になった自然……一切の歪みのない自然な自然を楽しめるっていうのは、この世界ではこれ以上ない贅沢だからね。
こうしているだけで精霊として誇らしくなるっていうか、嬉しくなるっていうか、感無量だよ、うん』
「そういうものなんだ……?
まぁ、きれいな光景だっていうのは否定しないけどね。
雪解け水と草花、そして冬の間は見ることのなかった虫達に、それを食べに来る色とりどりの鳥達。
特に鳥はこんなの多種多様の鳥が生息していたんだって驚くくらいで……いや、ほんと、オウムみたいな鳥もいて驚くよねぇ。
ああいうのって南の方に生息しているイメージだったけど、そうでもないんだねぇ」
『ん? ああいや、あの鳥はボクも初めてみる種類だから、他所からやってきた鳥なんじゃないかな?
ほら、鳥って飛べるから思ってもみないとこで見かけたりするものでしょ?』
「……うん? 他所からやってきたって……渡り鳥ってこと?
あんなオウムみたいな渡り鳥もいるものなんだねぇ」
『いやいや、違う違う。
瘴気に歪められた土地じゃ生きていけなくて、こっちまで避難してきた……って感じになるのかな。
餌を見つけるのも一苦労なのに、その餌がひどく歪んでいて美味しくない。
その上魔獣が跋扈していて好き勝手に暴れているとなったら、他所に行きたくなるのも当然の話だよね。
……これからもっともっと移動してくると思うよ、野生の動物も恵獣もどんどんやってくるよ、あっちこっちからやってくるよ』
「……浄化された土地を求めての大移動ってこと?
いや、一部の動物がこっちに来るくらいなら問題ないと思うけど、全部とか大半とかになると、大変なことにならない?
生態系が崩壊するっていうか……鳥が一定数いなくなると害虫問題も発生しやすくなると思うんだけど……そうなったら結構な大惨事じゃない?
場合によっては瘴気以上の問題になりかねないよ? いや、間接的にはそれも瘴気の仕業ってことではるのだけども……。
不作とか飢饉とか、そういうことになったりしない? 大丈夫?」
『どーだろうねー? 大丈夫じゃないかもねー?
ただ、そうなったとしても同情はしないかな……散々ボク達がそうなる可能性を示唆して止めていたのに、それを無視して魔法を使い続けた結果なんだからさ、自業自得だよ。
……ボク達精霊が必死になって引き止めたら動物も虫も鳥も、故郷に残ってくれるかもしれないけど……そんな残酷なことボクには出来ない、かな』
……それはまぁ、その通りなのだろう。
瘴気で歪んだ土地で……歪んだ生態系の中で野生の鳥獣が生きていくのは並大抵のことではないだろうから。
歪む前の土地で……普通の自然の中で生きるために培われてきた本能は、歪んだ土地で役に立たないのだろう、本来存在しないはずの獣、魔獣が相手でも同じこと。
襲いかかられたなら、とっさに逃げるのも応戦するのも難しく、土地を捨てなければ全滅……なんてこともあるのかもしれない。
しかしそうなると困るのは沼地の人々で……鳥獣がいなくなれば狩りが出来なくなるし、鳥獣が虫を食べなければ増えすぎた虫の被害を農作物が受けることになるし……うん、まず間違いなくとんでもないことになってしまうことだろう。
……もう既になんらかの影響が出ていたりして……?
そうなってしまったら……沼地の人々はどうしたら良いのだろうか?
魔法を使わなければ文明を維持出来ず、魔法を使えば自然を維持出来ない。
文明だけで諸問題を解決出来るほど科学は進んでいないようだし……一体どんな手があるのだろうか?
あれこれ考えてみるが答えが出ることはなく……そうして俺は頭を悩ませながらも手を動かし続け、腰に下げたカゴをいっぱいにしてから拠点のラーボへと帰還するのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は南からの……となります