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新しい娯楽?


 春の暖かさと風光明媚な光景と、ゆったりとした時間を存分なまでに堪能し……それから皆で帰路につくと、その途中でとんでもない光景が視界に入り込む。


 それは村の皆やヴァーク達が行列を作っているという光景で……どうやらその行列は、開拓が進んだことにより作られたサウナの一つ、洞窟サウナへと続いているようだ。


 洞窟サウナ……洞窟の中で焚き火を燃やし、そこに水を吸った布などを投げ入れるという、ぶっ飛んだサウナ。


 内部温度は130℃とか140℃とかそれ以上になるらしく……普通に入ると肌などを火傷してしまう温度だ。


 だから靴を履き、マントを羽織って全身を覆った状態で入るんだそうで……そこまでする理由は、他のサウナでは味わえない気持ちよさがあるから、とのことだった。


 しかしなんだってまた……。


「……洞窟サウナにあんな風に殺到しているんだろう? 何かあったのかな?

 ……村の中でのブームとか?」


 との疑問を声にすると、ユーラとサープが「あー……」なんて声を上げて、どこか後ろめたそうな顔をし、それからアーリヒが答えを教えてくれる。


「えっと、あれはその……春が来たらそうなるものと言いますか……皆が刺激を求めてああなっちゃうんですよね。

 よりキツめのサウナだったりお酒だったり……危険な狩りに興じる人もいましたが、今年は洞窟サウナがあるので、そちらに意識が向いたようですね」


「ん? え? どういうこと?

 春が来たことによる開放感でってこと? え、去年もあんな感じだったっけ? あんまり覚えがないけど……」


 と、俺が返すとアーリヒはどう返したものかと困ったような顔をし、それを見てかユーラが声をかけてくる。


「……つまりな、ヴィトー、春になったら暖かくなるだろ?

 そうすると当然、湖の水もぬるくなるよな? 氷が溶けてぬるくなって……そうなると水風呂としていまいちだろ?

 サウナでがっつりあったまっても、水風呂がいまいちじゃぁ楽しみきれねぇ。

 楽しみきれねぇと、ととのえねぇし……冬のととのいの気持ちよさにハマった皆としては普通のサウナが物足りなくなるんだよ。

 今年はそれでもヴィトーが色々と、アロマサウナとか工夫してくれたからそこまでの騒ぎになってねぇっていうか……うん、あれでも落ち着いてる方なんだよ。

 お前が知らなかったのはまぁ……子供達には知られないよう気を使っていたからだな」


 ……まさか過ぎる話だった。


 氷風呂に近いような湖で体を冷やしていたから、普通の水風呂では満足できなくなった……出来なくなったから刺激を求めて色々やるのが春の定番で、今年はそれが洞窟サウナになっている……と。


 サウナが気持ち良いのとか、ととのい現象とかは脳内ホルモンの影響もあるそうだから、それの中毒みたいなことになっているんだろうか?


「ま、それもしばらくしたら落ち着くから心配する必要はねぇよ。

 毎年のことだしなぁ……今年は変な騒動が起きてないだけ、平和なんだぜ、マジで」


 更にユーラがそう言って、それ受けて俺がアーリヒを見やると、アーリヒはそっと目を伏せて……態度で今の話が事実であることを示してくる。


 なるほどなぁ……氷風呂中毒の結果が、洞窟サウナかぁ。


 確かに洞窟サウナでがっつり温まれば、普通の水風呂も氷風呂並に冷たく感じはするか。


 刺激を求めて変な騒動を起こすよりかは穏便な解決法でもあるし……しばらくしたら落ち着くのなら、それで良いのだろうなぁ。


 なんてことを思うが、アーリヒの表情は暗く、現状を良いとは考えていないようだ。


 ……同時に俺に何か良いアイデアがないかと期待しているようでもあり……何かあるだろうかと頭を悩ませる。


 新しいサウナを提案するとか? それともサウナに変わる娯楽? あるいは現状あるサウナを改良するとか?


 ……娯楽、娯楽かぁ……。


 脳内ホルモンとかアルコールとか、それに並ぶようなものと言うと……カフェインになるのかな?


 お茶とか紅茶とか……本当かは怪しい所だけど、戦国時代のお茶ブームにはカフェインの力も影響していた、なんて話もあるし、悪くないかもしれない。


 既に工房で紅茶を作ったことはあったけど、よりカフェインに特化した、抹茶とか玉露とかなら良い刺激になってくれるかも?


 そうすると今度はカフェイン中毒に関する懸念とかも出てくるけど、それに関しては用法用量を守って楽しんでもらうことにしよう。


 と、いう訳でアーリヒに新しい娯楽となるかもしれない、飲み物……抹茶と玉露に関する提案をすると、アーリヒは首を傾げながら、


「それは、良さそうですね?」


 と、そんな返事をしてくる。


 まぁ、うん、飲んで効果を実感したことがないとそうなるよね。


「村に帰ったら試作ということでいくつか作るから、それを皆で楽しんでみよう。

 それで効果がありそうというか、サウナ欲が収まりそうなら作っていくってことで……。

 ところでアーリヒ、洞窟サウナにあんまり良い顔をしていなかったけど、何か理由があったりするの? よりサウナ中毒になっちゃうから、とか?」


 との俺の言葉に、アーリヒは至って真剣な顔で力のこもった言葉を返してくる。


「だって危ないじゃないですか、ちょっとの油断で大火傷しちゃうんですよ。

 転んで壁や床に手をついても駄目ですし、火加減間違えても駄目ですし。

 ヴィトーのおかげで色々な治療法を知ることが出来ましたし、お薬も手に入りましたけども……火傷は酷い時には死ぬこともあるんですから、良い顔は出来ませんよ」


「ああ、そりゃそっか、危険は危険か……。

 普通に使うのならまだしも、あれだけの大人数で中毒になっているってのは確かに問題かもなぁ。

 ……じゃぁ、うん、お茶が解決策になってくれることを祈るしかないかな」


 と、そんな会話をしながら村に戻り、早速俺は工房で抹茶と玉露を作ったのだけど、それだけでは話が終わらなかった。


 抹茶は淹れるのにあれこれ道具がいるし、玉露は温度に気をつけないと美味しくならないと判明、その辺りの知識がほとんど皆無だったこともあって知識を仕入れることから始める必要があり……本だの道具だの、あれこれと揃えることになってしまった。


 結果、かなりのポイントを使ってしまったのだけど、抹茶も玉露も試飲の結果は好評で……そうして普通の緑茶と紅茶を含めたそれらのお茶が、食事の際に提供されることになるのだった。




お読みいただきありがとうございました。


次回は沼地のあれこれの予定です

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