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「そう言えば、シェフィって何の精霊なの?」


 翌日、暖かい空気がどんどん流れてきて雪解けが進み、辺りがぬかるんでいるとなって、しばらくは狩りを休んだ方が良いだろうとなり、暇となった時間を鍛錬に費やしていると、ふとそんな疑問が頭の中に浮かんできて、俺はそれをそのまま言葉にした。


『うん? 急になんだい?』


「いや、ドラーは炎の精霊、ウィニアは風の精霊、グオラを生み出した精霊が植物で……じゃぁシェフィは何の属性なのかなって。

 そもそもシェフィって名前それ自体が精霊って意味だよね? ドラーもウィニアも気にした様子もなくシェフィのことシェフィって呼んでいるけど、なんかそれも不思議な感じがするなって」


『ああ、なるほど?

 ん~~~~まぁ、そうだねぇ、ヴィトーには話しても良いのかもしれないねぇ』


 と、そう言うと宙に浮かんでいたシェフィは、村外れで槍を振り回していた俺の頭の上にちょこんと座り、それから盗み聞きを警戒してか少しだけ声を潜めて言葉を続けてくる。


『ボクが何の精霊か、それはとっても難しい質問だね。

 ボクは純粋な精霊、精霊の中の精霊、純度の高い精霊、つまりボクこそが精霊、シェフィなのさ』


「……えぇっと、つまりシェフィこそが本物の精霊ってこと?

 最初の精霊っていうか、初代というか原初というか……」


『いや? そんなことはないよ?

 ボクよりも先に産まれていた精霊はたくさんいるし、初代だなんてそんな、流石のボクでもそんなこと言えないよ。

 そうじゃなくて純粋なの、まじりっけなしの精霊、精霊として精霊から産まれた精霊。

 炎や風、この世界から産まれた精霊とはちょっと違う感じかな。

 だから皆ボクのことをシェフィって呼ぶんだよ、純粋な精霊だって知ってるから』


「……なる、ほど?

 ……とりあえずシェフィは普通の精霊とはちょっと違う、特別な存在だって理解で合っているのかな?」


『そうそう、合ってる合ってる。

 そんなボクの愛し子だからヴィトーも特別な存在で、特別だからこそ色々なことが許されているんだよ。

 銃のこととか爆薬のこととか、毒だって普通なら許可されないんだから。

 ……それが許されているのは、そんな存在に頼らざるを得ない程に世界が汚染されてしまったから。

 本来であればこんなこと許されないんだってことも忘れないでね。

 ……まぁ、ヴィトーはちゃんと自重しているっていうか、大人しくしてくれているから言うまでもないとは思うけどね。

 工房を使って色々やろうと思えば出来るのをしてないでしょ? そういうとこなんだよねぇ』


「……まぁ、うん、そうだねぇ」


 シェフィの言う色々と言うのは、ブレーキを踏まずに工房をフル活用することだろう。


 たとえば村の皆を今よりも武装させたり、工房で産業の基幹となるような道具や部品を作って、それでもって産業を興したりするとか……工房産の品でもって貿易をして荒稼ぎをするとか。


 何しろポイントというよく分からない存在で大体のものを作れてしまうのだから、それらをやったらとんでもないことになるだろう。


 経済関連の本を作ってもらって、それを元に貿易戦争を仕掛け、世界を汚染する人々の経済圏にダメージを与えるとかでも出来てしまうはずで……海を征するヴァークにも協力してもらったなら、とんでもないことになるはずだ。


 経済圏が弱り、活力が減り、人口が減ったなら間接的ではあるけども汚染を止めることが出来るはずだけども……シェフィ達精霊は、そういった手段を望んではいないようだ。


 ……まぁー、エゲつないにも程があるし、かなりガチ目の戦争に発展しかねないことだし、汚染問題とはまた別の問題が発生するだろうからなぁ。


 ……人間同士で争っても魔獣や、そもそもの汚染を仕掛けた存在が喜ぶだけで、良い結果にはならないと、恐らくはそういうことなのだろう。


 だからこそ地道に丁寧に浄化を進めて行く必要がある訳で……世界各地で始まっているらしい浄化が進んでいけば魔獣が減って、おかしくなっている世界が元に戻っていって……魔法に頼っている人々にも現実というものが見えてくるはずだ。


 それでも魔法に頼る人は頼るだろうし、浄化されているのなら少しくらい使っても良いかと考える人もいるのだろうけど、それでも流れを作れたなら世界を変えることが出来るはずだ。


「そういうことならまぁ、焦らず今まで通り、頑張っていくって感じのなるのかな。

 周囲の魔獣をあらかた狩ってしまって、何もかもこれまで通りとはいかないけど……それでもまぁ、なんとかはなるかな」


 あれこれと考え事をしてからそう言うと、シェフィは『あはは』と笑ってから言葉を返してくる。


『そうだね、これまで通り頑張っていこう。

 ……それと魔獣なんだけどね、今は減ってるけど、これからまた増えるかもしれないね。

 向こうも手をこまねいていないっていうか、ここらへんが浄化されたことに気付いて魔獣が集まりつつあるみたいなんだよ。

 再汚染を狙っているっていうのか……本能的に生存圏を広げようとしているっていうのか、もしかしたら魔王みたいな存在が指揮を執っているのかもしれないね。

 前回の魔王の倒し方は少し乱暴だったっていうか、正攻法ではなかったから今のうちに対処法を考えておいたほうが良いかもしれないよ。

 ……そう何度もアレを作ってあげる訳にもいかないからね』


「うぅん……その可能性も考えてはいたけど、そうはっきり言われるとなぁ。

 まぁ、やれることをやっていくしかないか……爆薬以外にも色々と手はあるだろうし。

 雪が溶けたら辺り一帯見て回って、罠とか戦場の構築とかも考えてみようかなぁ。

 ……あとは雪がない状態でのグラディスへの騎乗も試しておかないとだねぇ」


『うんうん、色々頑張っていこう。

 頑張ったら頑張っただけお礼をするし、ボクも手伝うからね。

 世界中を浄化して、きれいにして……自然な世の中に戻していこう』


 シェフィのその言葉に俺がこくりと頷くと、シェフィは俺の頭から浮かび上がり……空へ空へと舞い飛んでいく。


 鳥のように一直線に飛ぶのではなくふわふわと、上昇気流に乗った風船のようにふわふわと。


 そうやってシェフィがかなりの高度まで浮かび上がると、更に温かな風が吹いてきて……そうしてまるでシェフィが呼び込んだかのように本格的な春がシャミ・ノーマの村に到来するのだった。


 

お読みいただきありがとうございました。


次回から新章、春到来となります

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