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花びら


「ジュイ、ジィ~、ジュイ、ジュイー」


 村に戻って翌日、朝食や日課やグラディス達の世話を終えての時間、村の周囲の地面に潜っていた花モグラ恵獣……本人とどんな名前が良いか相談した結果、日本語でのモグラという発音が良いという意見が出たのだが、流石にそれはそのまんまが過ぎるということで、そこそこに改変してのグオラと呼ばれることになった恵獣が声を上げる。


『えぇっと、この辺りの土はやっぱり畑向きではないってさ。

 水場が近過ぎて土が緩んでるのと、寒さのせいか木の葉とかがあんまり分解されてないので、掘るだけでも一苦労みたいだね。

 まぁー、ここら辺はグラディス達のための餌場なんだからそれも当然かな。

 餌の苔……キノコが生えやすい場所に村を作ったんだからね』


 とシェフィ、さっきからずっとグオラの言葉を翻訳してくれている。


「ジュイー! ジ~~ジィ~~ジュイ!」


『それとここら辺の土を変に弄っちゃうと、餌場にも影響があるかもしれないってさ。

 木とか草、苔ならちょっとした変化にも強いんだけど、キノコだと少しの変化にも影響されちゃう……かもしれなくて、ここら辺を弄るのは得策ではないみたいだね。

 自然のまま任せた方が良くて……畑を作るならやっぱり南部だって』


「ジュイ、ジューイ、ジュイジュイ、ジュイ~~」


『この辺りでグオラに出来ることは、サウナ周辺の改良だってさ。

 周辺の土を固めるとか、サウナ小屋の下の土を固めるとか、そうやってサウナ小屋や湖が壊れないようにするくらいしか出来ないってさ。

 どう思う? ヴィトー』


 と、話を振られて、ずっと聞きに徹していた俺は、聞いた話を頭の中で再確認しながら言葉を返していく。


「……なるほど、やっぱり畑は南部かぁ。

 まぁ気温のことも考えると、少しでも暖かい所でやるのが正解かもね。

 そしてサウナ小屋と湖は……うん、壊れてもそこまで困らないんだろうけど、手間がかかるのは確かだから、暇があったらやってもらえると助かるかな。

 ……というか掘るだけでなく土を固めるなんてことも出来るんだね?」


「ジュイ、ジュイ~~~、ジュイ」


『もちろん出来るってさ。

 これからグオラの仲間達もやってきて手伝ってくれるから、かなりの広範囲でも工事してくれるみたいだよ』


「ん? あ、そっか、花モグラ恵獣は別にグオラだけじゃないんだもんね。

 これからやってきて……皆でこの辺りで住む……となると、食料とか大丈夫?

 この辺りってあんまり餌になる虫とかいないよね?」


「ジュイジュイ~、ジュイッ、ジュイ」


『全くいない訳ではないから問題なさそうだけど、一族の数を増やしていくと足りなくなるかもってさ。

 その場合は人間と取引して食料を集めたいと考えてるみたいだよ。

 恵獣なこともあって野菜とかお肉とかも食べられるみたいだし、土壌改良とか工事のお礼って形でヴィトー達が食料を用意してあげると良いよ。

 ハーブが収穫出来るようになったら、それと交換でも良いだろうしね』


「……なるほど、分かったよ。

 そういう感じになるみたいだけど、アーリヒは大丈夫?」


 と、俺の隣で同じく聞きに徹していたアーリヒに声をかけると、アーリヒは笑顔で頷き言葉を返してくる。


「えぇ、もちろんです。

 恵獣様が増えるだけでもありがたいのに、私達ではどうにもならない土のこともやって頂けるのであれば文句もありません。

 この辺りの環境のことやラン・ヴェティエル様への配慮もして頂けているようですし、ハーブの中には健康に良いものもあるそうですし……むしろ多くの恵獣様に来ていただき、そのお力を貸して欲しいくらいです」


 するとグオラはアーリヒの言葉をとても喜んで目を細めて鼻を左右に揺らし、その喜びを精一杯に表現する。

 

 モグラは土の中で、鳴き声でのコミュニケーションを取るものらしいが、グオラ達花モグラ恵獣は、鳴き声に加えて鼻でのコミュニケーションを取るらしい。


 鼻を揺らすとか、鼻同士を合わせるとか、暗い土の中での大事な意思疎通方法だそうで……明るい場所で、種族の違う俺達と会話する時も鼻を動かすことで感情表現をしようとしてくる。


 鼻は口ほどに物を言う、という感じなのだろうか? ここら辺にも追々慣れていかないとなぁ。


「ジュイ、ジィイー、ジュイ、ジュ~イ、ジュイ」


『それとこれから雪解けの季節らしいから、雪解けからしばらくは土いじりは避けたいってさ。

 まぁ、一帯がビショビショになるし、下手すると溺れちゃうから仕方ないかな。

 それと雪解け水が落ち着くまでの住処も欲しいって。

 という訳で、何件かコタも用意してあげて』


 今度はグオラの鼻がスンッと下に向く、どうやら申し訳なさを表現しているらしい。


「コタくらいは何でもないですよ、集まった数に合わせて用意しますのでいつでも声をかけてください。

 生活に必要な道具や他のものでもなんでも惜しみません。

 恵獣様や精霊様にはそれだけお世話になっていますし、世界を浄化するための仲間なのですから」


 そしてそれをすぐに察したらしいアーリヒがそう声をかける。

 

 この辺りは流石族長といった所で……そんなアーリヒの言葉を受けてグオラの態度がかなり柔らかくなる。


 体の半分を土に隠していたのが全身を出して近寄ってきて、長い鼻をスンスンとアーリヒの方へと近付ける。


 するとアーリヒはしゃがんで、手のひらを差し出して……鼻と手のひらが触れ合い、一種の握手の出来上がりだ。


 グオラはかなり大きく、中型犬くらいの体躯をしていて……遠目で見れば犬がじゃれているように見えるかもしれないなぁ。


「ジュイ、ジュイジュイ、ジューイ、ジュイ」


『アーリヒの寛大な態度に感謝を、お礼に花びらを一枚どうぞだって。

 ……花モグラの花びらは特別なもので、お茶にするなりして飲むと健康に良いみたいだよ。

 そっとつまんで取ってくれて構わないってさ』


「は、花びら……!?」


 シェフィのまさかの翻訳を聞いて、俺がそんな声を上げる中、アーリヒもまた目を見開いて驚くが、俺みたいに声を上げたりはせず、至って冷静な態度を維持し……そうしてアーリヒはそっと花びらをつまんで、一枚を花モグラ恵獣から引っ張り取るのだった。



お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、新たなトラブル? になる予定です

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