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幸いにもセレニアだった時の記憶はほとんどそのままで、辺境伯邸の要塞のような大きい屋敷のどこに何があるのか、なんとなくだけれど思い出すことができた。
ご飯をお部屋で食べてから侍女に連れられて向かった玄関ホールに着くと、そこにはすでにお父様とお母様がいて。
「おかあさま、おとうさま。おはようございます!」
にこにこの笑顔で近づけば、そこに居合わせた大人たちが驚いたように固まる。
そりゃあ昨日まで愛でられるたびに顔を真っ赤にしてむっつりしていた子供が朝目覚めたらニコニコ挨拶をしてくるように変わっていたら誰だって驚くだろう。私だって自分の変わりようにはびっくりだ。
「セレニア……?」
恐る恐る、といった様子で手を伸ばしてくるお父様にとてとてと近づいて、ぎゅっと抱きしめた。どうだお父様、ふわふわ3歳児ボディを楽しむがいい!
「わっ……セレニア?どうしたんだい?」
「おとうさま、きょうもおしごとがんばってくださいませ!」
本来のセレニアとしての恥ずかしさをこらえた結果顔が真っ赤になってしまったけれど、1日目にしては及第点といっても差し支えないだろう。
満足してむふふと笑っていると、お母様がにこにこしながら近づいてきた。
「もうカルロス様ばっかりずるい!セレニアちゃん、お母様には〜?」
もちろんお母様にも抱きつきに行こうと思っていましたとも!名残惜しそうなお父様のもとを離れて代わりにお母様に抱きついた。贔屓目を抜きにしても爆美女のお母様は、本当に今日も麗しい!
「おかあさま、きょうもと〜ってもきれいです!」
「まあまあ!セレニアちゃんもとってもかわいいわよ〜!あらどうしましょう、セレニアちゃんが言動まで可愛くなっちゃったら嫁としての引く手が数多になっちゃうわ!」
きゃー!と言いながら抱きつく力を軽く強めるお母様。特に訝しがられることもなくお父様もお母様もめろめろになっていて、完全に抱きつき作戦の効果は抜群だ!
よしよし、このままお父様とお母様の溺愛を享受していけば愛されることにも慣れて将来の旦那様と会った時も大丈夫なのでは?
「かわいい僕らのセレニア……家にずっといたっていいんだよ!でも来週には交流会があるから首都に行かないといけないな……もういっそバックれるのも良いか?」
お父様から発せられたのは明らかに不穏な単語の羅列!
交流会も首都も嫌だけどバックれるのは多分だめー! 確か彼に初めて会うイベントって王家を含めた交流会だったはずだけれど、それって多分この交流会のことだった気がする。
ひとかけらのワクワクと、かなりの恐怖感。
“将来の旦那様”に思いを馳せながら、私はうんうん唸りながら考え事をするお父様がお仕事に行くのを見送った。
更新遅くなり申し訳ございません(泣)
今後は週1〜2回の投稿を目指します…