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「って、じょうだんじゃない!!」
飛び起きた私は、まず自分の身の安否を確認した。手も髪も、周りの風景もすべて寝る前のまま。なのに精神年齢だけが前世生きた“わたし”と合致する。汗でびっしょりと濡れた夜着が肌に張り付いているのがやけに気持ち悪くて、ぶるりと身震いをした。
セレニア・ジェラトーヌ、3歳。それが今の私のステータスだ。桃色の髪やくりっとした水色の瞳はお母様にそっくりで、我ながら本当に愛らしく育っている…とりあえず、今のところは。
『キミと愛を尋ねて』通称“キミ尋”は、侯爵家に産まれたヒロインが少しの谷と少しの山を乗り越えながら学園生活が進んでゆく乙女ゲームだった。
なぜそんな没個性的な乙女ゲームが話題になったのかといえば、それはひとえに、ヒロインの母親であるセレニアの攻略難易度が高すぎるから。
そうです!わたしがそのヒロインの母親(予定)!
過去の“わたし”がどのような経緯を経てここにいるのかもどんな人間だったのかも全く思い出せない。けれど、思い出せないということは今の私には必要のないことなのだろう。じゃあいいや!と思い出すことを放棄した。3歳児最強!
ただひとつ分かるのは、前世のわたしはキミ尋が大好きでとてもやりこんでいたってことだけ。ファンディスクまでプレイしたわたしに怖いものなんてない…はず。
すでに私にはツンデレの気があるような気もするけど、これがこのまま完全体になってしまえば流刑確定エンド。それだけはご勘弁願いたい…!
「すなおな子になるんだ…だつツンデレ!だつしょけい!」
手始めに、お父様とお母様からの愛を素直に受け止めてみることから始めよう。
グッと小さな手を握って掲げて、強く決心を固めた。