第八話 ダメだよ!
すみません、今回短いです。
改札を抜けて階段を駆け上がり、電光案内板を見ると、もうすぐ電車が来るところだった。奴が追ってくる前に乗れたら逃げ切れるか…。
「まぁまぁのタイミングね」
優子がそう言う。電車が来る方向と登ってきた階段を交互に見ながら、黒づくめの男を警戒する俺。階段の下を指さして慌てるアナザー優子。
「き、来たわ!」
ブイーンという軽いエンジン音が階段の下から聞こえ、なんと、黒づくめの男が原付スクーターで階段を登ってきた。
「「マジか!」」
俺と優子が同時に叫び。アナザー優子も含め三人で階段から離れた。黒づくめの男は階段を登りきると、そのままこちらに向かってくる。俺はスクーターを能力で掴んで横にスライドさせた。バランスを崩してスクーターから落ちた男はそのままホームを転がり線路に落ちた。スクーターは転倒して止る。ちょうどそこに電車が入ってきて黒づくめの男はその下敷きになった。
俺たちはすぐさま階段を駆け下り、改札機に切符を入れてを出ようとする。しかし出口が閉まって警報が鳴り響いた。慌てて切符を入れ直すがまだ警報がなる。仕方なく駅員のいる窓口に行くと、乗った駅で降りようとするとこうなるとのことだった。
すいません、忘れ物をしたので出たいんですと言って、頭をさげて通してもらおうとすると、返金処理をすると言う。急いでいるので良いと言うが、それは出来ないと言われ、三人分の返金処理を待たされる。
電車に轢かれたとはいえ、黒づくめの男が追って来ないとは限らない。いつ、黒づくめの男が起き上がって追いかけてくるか、そう思ってイライラするが、駅員はきっちり返金処理をして、結構時間がかかってしまった。
焦りながら階段のほうを見ると、黒づくめの男が階段を走って下りてきた! 走って逃げる俺たち。黒づくめの男は警報音が鳴る改札機に構うことなく突破して追ってくる。
俺は走りながら目に入る路上駐車している車を能力で引っ張って後方の男に向けてスライドさせる。黒づくめの男は動きを止めることなく、両手を突き出し腕を跳ね上げるように、飛んできた車を上に弾いて躱し、そのままこちらに向かってくる。車を掴んだままの俺は、はじかれた勢いでバランスを崩して引っ張られそうになる。
「圭祐!」
「圭祐さん!」
ダブル優子が俺を掴んで支えてくれる。俺は車を能力で掴んでいたのをやめる。
「ありがと!」
俺は、左右に手を広げると、自動車を一台づつ能力で掴み、左手を振り黒づくめの男に向けてスライドさせる。さっきと同じく黒づくめの男ははじき返すが、今度は立ち止まっている。俺はぶつかる直前に離していたため引っ張られることはなく、そのタイミングに合わせて右手の車も黒づくめの男にぶつける。
「今度はかわせないだろ!」
両手を上げた体制のままの男に車がぶつかる直前、黒づくめの男の全身が青く光り、男にぶつかった車はそのまま動きを止めた。
「あの青い光…一体何なんだ…!」
黒づくめの男は動き出し、自動車を避けてこちらに迫ってくる。俺たちはさらに走って逃げる。追いかけっこが再開された。
走って追ってくる黒づくめの男に、今度は電柱を引き倒して足元を狙う。立っている棒を弾いて倒すように手を振りはらい、能力で電柱を後ろに飛ばす。黒づくめの男は難なくジャンプして躱して追ってくる。
自動車、電柱、その他目に入るものを投げては躱される、同じ光景を繰り広げる。攻撃を躱すたびに男の速度が少し落ちるので、俺たちもなんとか走り続けることができた。
「圭祐…このままじゃ…!」
「いずれ、追いつかれてしまいます」
「ああ、それはわかってるよ」
俺だって何度も同じ攻撃を続けてもジリ貧だってことは分かっている。それでも男を引き離すために、攻撃を続けた。そして、ある程度の距離を引き離したところで、走る速度を落とし二人に言う。
「俺に考えがある。けど…もしものことを考えて、二人は先に行ってくれ」
「ダメだよ!」
「ダメです!」
即却下するダブル優子。俺って信用無いなぁ…。俺はとにかく二人に信じて欲しいと頼む。
「大丈夫だから!な?」
「大丈夫でしたら、一緒にいます!」
「圭祐を置いて逃げらんないよ!」
頑固だなあ…。だがモタモタしてると、黒づくめの男に追いつかれてしまう。俺はしぶしぶ了承し立ち止まる。
黒づくめの男が約三十メートルの距離に迫ってきている。俺はその辺りの自動車を能力で掴むと、両手を上に伸ばして持ち上げた。
さすがに、自動車を持ち上げるのは負担がかかる。能力で掴んでいるのに腕がギシギシ言っている様な感覚だ。俺は歯を食いしばって耐え、さらに車を十メートルの高さまで持ち上げた。
黒づくめの男はちらと自動車にも顔を向けるが、気にしない様子でこちらに向かってくる。俺は黒づくめの男に向けて、左腕を振り下ろし、自動車を落下させた。黒づくめの男は両腕を顔の前で交差させる。車がぶつかる瞬間腕が青く光った。自動車は両腕に阻まれて勢いをなくして、男の前に落ちた。
今だ!
俺は上げたままの右腕を振り下ろした!
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