第六話 もう手を離しちゃだめだよ
すみません、プライベートの事情で次回更新が遅れると思います…。最悪、週明けになるかもしれません。
はっきりと、協力して欲しいと言われ、俺は動揺する。
「ちょ、ちょっと待って欲しい。助けるのを協力すると言われても、俺たちは普通の人だよ。まぁ、俺は…能力があるけど、今朝発現したばかりだし、優子はそれすらないのに、どうしたらいいかわかんないよ」
「それでも、私はあなた達にお願いするしかないのです」
「なんで、俺たちに拘るの? 『超能力者解放同盟』、だっけ? その人たちに頼むとかできないの?」
「私が、あなたたちにお願いする理由、それは…、私の能力を使ったからです」
超能力が初めて発動したときに、自分の能力についてなんとなく使い方がわからなかったか? とアナザー優子は聞く。完全に使いこなせなくても、なんとなく発動できるし、どういった能力かわかるのだと。
言われてみたら…、俺の能力で物を掴んだり、持ち上げたりできそうだ、というのはなんとなく理解していたように思う。まぁ、手を動かすことには気づかなかったけど…。
「私の能力、『世界を渡る力』は、ただ世界を渡るだけではなく、自分の望みをかなえるための方法を持つ世界に渡る力だと、そしてその世界で出会った人や物が、自分の助けになるのだと、なんとなくわかるんです。私は必ず圭祐を助けると誓い、そのために能力を使いました。ですから、私がこちらに来た時に出会ったお二人のが、私と圭祐を助けてくれる方だとわかるんです」
アナザー優子の表情は真剣だ。本気で俺たちが彼女の救世主だと思っているように見える。だけど、俺も優子もただの一般人だ。助ける方法もわからないし、助けられるとも思えない。それに、こちらの優子は能力もないし、危険な目に合わせるわけに行かない。
俺はこれらのことをアナザー優子に伝えた。隣の優子は終始無言で俯いていた。
「俺から、アナザー優子さんに聞きたいんだけど、もしここで俺たちが協力すると言ってたら、どうするつもりだったの?」
「私の能力でお二人と一緒に三人で元の世界に戻って、圭祐を探して、助け出すつもりでした」
「どうやって探すの? 当てがあるのか?」
「え…」
アナザー優子は返答に詰まるが、構わず続ける。
「三人で当てもなく闇雲に探し回るつもりだった? それでもし、見つかったとして超能力の攻撃も通じない相手からどうやって助け出すすもりだった?」
「そ、それは…」
自分でも意地悪な言い方をしていると思うが、大事なことだ。アナザー優子は俺の矢継ぎ早の質問に言葉を詰まらせていた。
やっぱり、アナザー優子はこちらの優子と同じ、二宮優子だ。考え無しで行き当たりばったりの危なっかしい、世話のかかる妹みたいな優子と同じだ。
「……」
答えることができず、アナザー優子は俯いて黙ってしまった。
俺は別に彼女を責めるつもりつもりで言ったわけではなく、状況を分かって欲しかっただけだ。そして、そこから話を始めないといけない。
「あのさ…「ちょっと圭祐!」」
俺の言葉に優子が割り込んできて、さらに俺は頬をぶたれた。
となりの優子が、顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべてこちらを睨みつけていた。
「圭祐がそんな酷い人だなんて思わなかった…! いくら何でも意地悪すぎるよ。酷いよ、そんな言い方ないじゃない。優子さん、こんなヤツになんか頼らないで、二人で助けに行こう…!」
涙声で俺を非難して、アナザー優子に向かって言うと、俺を突き飛ばす勢いで押しのけて、席を立とうとした。
アナザー優子は両手で口を押さえるようにしてこちらの優子を凝視している。
「ちょっとまて」
俺は、優子の頭にチョップした。
「痛ったぁ! なにすんの!」
「落ち着け優子。俺は助けない、とは行ってないぞ?」
俺の言葉が予想外だったのか、怒りから一転、きょとんとする優子。そして、視線をこちらに向けるアナザー優子。そして、ダブル優子は声をそろえて聞き返した。
「「どういうことなの?」」
俺はとりあえず、優子を座らせて、考えを言うことにした。
「このまま考えなしで向かっても、さっき指摘した通り、何もできやしない。だから一度、俺の部屋に戻って、この先のことを具体的に、どうするか相談しよう。俺たちがそちらに行くかどうかはそれからの話とさせて欲しい」
アナザー優子は何か言いたげな顔をしているが、黙って頷いた。優子も怒りが収まったのか同意してくれている様だ。
俺たち三人はファミレスを出てコンビニで飲みものやら買い、アパートまで戻る道の角を曲がったところで、立ち止まった。
「そんな…、なぜ黒づくめの男がここに…!」
ここからアパートの、俺の部屋の玄関がみえるのだが、そこに黒づくめの男が立っていた。
アナザー優子は呆然としている。そういえば、こちらにも居ることを話しそびれていたな。
「優子さん、あいつのことは後で説明するよ。とりあえず、見つからないように行こう」
回れ右して引き返す俺たち。とりあえず話せるところ、ということで、近所の公園へ向かい、ベンチに腰を下ろした。
プシュと音をさせて炭酸飲料のキャップを開け一口飲む。ダブル優子も同じく飲んだのを見てから、俺は黒づくめの男のことについて説明をすることにした。
「話しそびれていたけど、黒づくめの男はこっちにもいる。そして、今朝俺も襲われたんだ」
「そうそう、圭祐の部屋に行ったらさ、両肩掴まれてこうがくがくってされてて、すごい勢いで揺らされてたんだよ」
優子が続けて話しながら。アナザー優子の肩を掴んで揺らす。彼女はだまって、されるがままに話を聞いている。
「頭を揺らされて意識が飛びそうだったよ。あのまま意識を失ってたらどっかに連れ去れていたんだと思う。助かったのはさ、こいつが金属バットで黒づくめ男の後頭部ぶっ叩いて、動きがとまったところを逃げたんだよ」
俺は優子をゆびさしながら言った。優子はどや顔だ。
「だから、俺たちは黒づくめの男を知ってる。金属バットで後頭部をぶっ叩かれてもびくともしないような奴だ。それに君の話だと、ビームや銃で撃たれても平気みたいだ。だから、安易に助けられるとは思えない。だけど…、そちらの俺…圭祐を助け出すにはどうするか…。途方もない話ではあるけど、三人で知恵を絞れば何か思いつくかもしれない。だから考えよう」
「はいはいはい!」
「お。意見があるのか優子」
「さっき見つけた黒づくめの男を観察して、誰かが捕まったのを追っかけるとかどうかな?」
「なるほど…、捕まえてどうするのかを突き止めてから、こちらの世界に帰れば…」
こちらの優子の意見に目を輝かせて同意するアナザー優子。
「問題は、誰が捕まるのか…。俺やアナザー優子をわざと捕まえらせても、あいつから取り戻せるか?」
「それを言ったら、向こうの世界に行ってもあいつから取り返すのは難しいね」
「まずは、あの人をなんとかする方法を考えないといけませんね」
「アナザー優子さん、あいつは銃に打たれても、そちらの俺の攻撃も聞かなかったんだよね?」
「はい、攻撃が当たっても青い光が吸収するように、防いでいました」
「まったく攻撃が聞かなかった?」
「はい、圭祐が地面をえぐって大量の破片を浴びせても…少し立ち止まる程度で、平気の様でした」
地面をえぐるって…、凄いな。それを防ぐのもとんでもないが。俺の能力で何かをぶつけても防がれるか…。 俺は腕を組み考える、ダブル優子も真剣な顔で考えている様だ。
一つずつ考えてみよう。俺はコンビニで飲み物と一緒にかったノートとボールペンを取り出し、黒づくめ男の特徴を書きだすことにした。
・超能力者を捕まえようとする
・銃を持った複数人の相手を全滅させるほどの力がある
・どんな攻撃もバリヤーの様な能力で防がれてダメージを受けない
・優子が金属バットで後頭部を殴った
・アナザー圭祐が捕まったとき、なんらかの攻撃で一度は振りほどいたらしい
こちらから攻撃したときの様子がヒントになるかもしれないと思い、掘り下げる。優子が殴ったときは、一度動きが止まったがすぐに動き出した。アナザー圭祐の攻撃は、アナザー優子が気絶していたので、詳細はわからないらしい。気絶から覚めた時の様子をよく思い出してほしいと頼む。
「そういえばあの時…黒づくめ男は膝をついていました…そして…」
目を瞑り、眉間にしわを寄せて思い出そうとするアナザー優子。それをノートに書き留める俺。
そのとき、子供の泣き声が聞こえてきた。
「なんだ?」
泣き声がする方向を見ると小学校低学年くらいの女の子が、手を伸ばして上のほうを見ながら、声をあげて泣いていた。そちらを見ると、風船が飛んでいくのが見えた。
「ふうせん! ふうせんがー! うわーん!」
少女は泣きながら風船に向かって手を伸ばしている。涙で顔がぐしゃぐしゃだ。
ダブル優子が俺の顔を見る。俺うなずくと手を伸ばし、能力で風船をひきよせた。俺にひきよせられる風船の動きに合わせてこちらを見る少女はすでに泣き止んでいる。
俺の手に掴まれた風船を、優子が取り上げ、少女のところに持っていく。
「はい、もう手を離しちゃだめだよ」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう!」
笑顔になった少女は優子から渡された風船を手にして走っていった。嬉しそうでなによりだ。走っていく少女の後ろ姿を見て、こけて手を放さないかと心配しつつも、ほっこりする。
――――――
場所は変わって圭祐のアパート。
部屋の扉の前でじっと立っていた黒づくめの男は何かに気づいたように振り向き、そして歩き出していた。
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