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第五十五話 どうしたかの?

圭祐視点に戻ります。



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圭祐視点に戻ります。


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 俺たちに協力してくれることになった老人たちは、元警察署長や元消防局長、さらには元商業連合会顧問で国会議員にもツテがあるような、錚々たる顔ぶれだった。

 そしていつの間に手配したのか、次々とオフィス机やパソコンなどが運び込まれてきて、愛美が用意した広い板張りの部屋に配置されていく。それが並んだ様は、まるで企業のオフィスフロアかのようだった。

 お年寄りたちはどこかに電話を掛けては、慣れた手つきでキーボードを叩いている。

 

「はえー。なかなか壮観ですね、驚きです」


 そういうQちゃんの口元は少しひきつっていた。俺も多分、同じような表情だと思う。てきぱきと動くご老人たちの手際の良さに、ただただ圧倒されていた。


「ぼんやりしてる暇はないぞ? 情報は集まって来とるが、わしらでは真偽を判断しきれんのでな」


 振り向くと、シゲさんがノートパソコンを持って立っていた。それをQちゃんの前に置くと、モニターを開き画面を見せてくる。

 パソコンの画面には、事件と関係のありそうな情報がずらりと並んでいる。一目見て一画面に収まりきっていないのがわかるほどの情報量だった。


「一応な、こちらでも篩にかけてはおるんじゃが、当事者のあんたらに判断してもらわにゃならん」


 シゲさんはマウスを繋ぐと、カーソルを動かしながら説明を始めた。


「必要だと思った情報は、ここにチェックをいれてくれたらいい。深堀りしたい物はここ。なにかあれば備考欄に書いてくれたら対応するから」


 シゲさんがマウスを動かしながら説明してくれるが、Qちゃんは浮かない顔で聞いている。シゲさんも彼女の表情に気づいたようだ。


「どうしたかの?」

「私、パソコンは苦手なんです。操作もよく分からないんですよ……」


 Qちゃんが意外な弱点を告白する。彼女の声は、聞き取るのがやっとといった小ささだった。


「ふむ……、パソコンぐらい触れんと、そのうち困ることになると思うんじゃが」


シゲさんが気の毒そうに返すと、この作業を逃れようとしてか、Qちゃんは早口で捲し立てる。


「私は自分の頭脳で勝負するタイプなんで、こういうのは苦手なんです。情報の処理は脳内で完結させるのが一番効率的なんです! なので、この作業は藤沢さんに――」

「だめよ」


 Qちゃんは力説の最後に作業を俺に振ろうとするが、それは愛美の声で遮られた。


「圭祐君には、別件で付き合ってもらうことがあるから、その作業はQちゃんにお願いするわね」

「そ、そんな~。また無茶ぶりですか~!?」

「圭祐君、ちょっと聞いてほしい話があるから、付いて来てくれるかしら? シゲさん、Qちゃんをお願いね」


 泣き言を言うQちゃんには答えずに、愛美は俺とシゲさんにそう言うと歩き出す。付いて行きながら、振り返ってQちゃんの様子を見ると、シゲさんが画面を指さしながら、パソコンの使い方を教えていた。


 愛美について行った先も板張りの部屋で、オフィス机がおかれていた。しかし、その上に載っているのはパソコンではなく、紙の束が積まれている。老人が二人、俺たちが入っても顔を上げることもなく、黙々とその紙に目を通していた。

 愛美は無言のまま、近くの椅子を引き寄せると、一つを俺に勧め、自分も別の椅子に座る。そして何も言わず、黙って老人達の様子をみている。俺もそれに倣い、黙って座っていた。

 老人の一人が紙から目を離し、こちらを向いて口を開いた。結構なお年に見えるのに、髪の毛はフサフサで黒々としている。彼は確か、元警察署長と紹介されたんだったか。皆は「署長」と呼んでいる人だ。


「お、来てたか。わざわざすまんの」


 その声が合図になったかのように、もう一人も顔をあげてこちらを見た。この人は元消防局長で、皆からは「局長」と呼ばれていたはずだ。この人も髪の毛量が多く、立派な口ひげを生やしているが、髪も髭も真っ白だ。


「署長、お願いしていた件、何かわかった?」

「元をつけろと、いつも言っとるじゃろ……。そんなことより、まずはこれだ。ほれ」


 元署長は愛美の呼びに方に、顔をしかめて文句をつぶやきながらも、紙の束を俺たちに差し出してくる。書かれている内容は超査室についての様だ。アナザー優子から発足の経緯について聞いてはいたが、ここに書かれているのは、立案から制定までの経緯と、予算に関してなど、一般人では分かり得ない内容が書かれていた。その資料には、ところどころ手書きでの書き込みがされている。


「これは超査室の資料、ですか?」

「うむ。犯罪を犯した超能力者を取り締まる警察の派生組織、と聞いておったんだが……、君らの話を聞いて違和感を感じてな。調べてみたんだよ」


 俺の確認に、署長が説明をしてくれる。


「どうにもな、不明瞭な部分が多い。警察の派生組織と言うことなんだが、実権を握っているのが警察庁長官ではなさそうだ。前の職場に探りをいれても、『上からの命令で言えない』を繰り返すばかりでなあ……。ありゃあ、言えないんじゃなくて、知らされて無いんだろうな」


 どうにも要領を得ない話だが、署長の渋い表情を見る限ると、本人が一番納得していないとわかる。どう答えたらいいかと考えていると、署長は続ける。


「それにな。設立までの経緯が早すぎる。いいか? 通常、新組織を発足させようと思ったら、法案作成やら、審議やらで、二年以上はかかる。異例のスピードで発足したといわれるデジタル庁でも一年だ。それが八ヶ月で成立しとるんだよ」


 超査室の設立速度に驚く俺たちを見ながら、署長は更に続けた。


「超党派で協力して審議を短縮したとしても……、そもそもの法案作りだけで、三ヶ月はかかる。超能力者が現れてから動き出して、この速度はありえんのだよ」

「逆に言うと、超能力者が現れる前から、事態を想定していた、ということですか? そんなことって……」


 署長の言わんとすることを、愛美が代弁するが、そこまで話すと、手を顎に当て考え込むそぶりを見せる。

 その時、部屋の入り口から話し声が聞こえてきた。


「はい。ええ、そうです。ありがとうございます。それでは、先生にも宜しくお伝えください」


 振り向くと、恰幅の良い老人が、電話で話しながら部屋に入ってくるところだった。確かこの人は、商業連合会の顧問をしてた人だったか。元顧問は電話を切ると、署長の隣の椅子に座り、俺と愛美を見て言う。


「どう? 署長から話は聞きましたか?」

「ええ、超査室の発足の経緯がおかしいって話を聞いてたところです」


 元顧問の目は愛美の方を向いていたが、彼女が考え込んでいるので、代わりに俺が答える。


「それで、そっちはどうだった?」


 元顧問はさっきの電話で情報収集していたんだろう。元消防局長がその成果を聞くと、元顧問は静かな声でそれに答えた。


「思ったよりガードが固くて、新しいことはほとんど聞き出せませんでしたよ」


 元顧問の話をまとめるとこういうことだった。


 ・ 正式な予算枠が不透明。予備費から捻出されているが詳細は不明

 ・ 立ち上げ宣言からわずか一ヶ月で法案が出されている

 ・ 初期は、総理大臣は発足には賛成していなかったが、幹部たちに押し切られて、認めざるを得なかった

 ・ 野党は反対派が多数だったが、国会審議時には一転して、ほぼ賛成に回った

 ・ 質疑応答も予定調和で、裏で何か取引があったと疑われるほど、あっさり通った

 

「まぁ、その資料に書かれている内容とほぼ同じですね。新しい情報は総理のことくらいでしょうか」

「そういえば、あまりにもスムーズで早すぎると、マスコミは挙って批判してたな」

「それにしたって、東京タワー消失事件のおかげで、批判していた識者もマスコミも、手のひらを返して大絶賛でしたからね」


 顧問はそこで一旦言葉を切ると、声のトーンを落として続けた。


「何者かが裏で絵を描いているとしか思えない」


 その言葉に、俺は優子を連れ去った白衣の男を思い出した。優子、今どこに居るんだ……! 無意識に手に力が入り、握りしめる。その下にあった資料の紙がクシャリと歪んだ。

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