第五十四話 返事をして!
「本間さん! 本間さん!」
千佳は何度も本間に呼びかける。自分の体がベッドに縛り付けられていることがもどかしくて仕方がない。動くことができれば、すぐに駆け寄って、頬を張ってでも正気を取り戻させるのに!
超能力を封じられている身では、叶わぬこととわかりつつも、そんなことを思いながら、千佳は何度も本間を呼び続ける。
必死に呼びかけ続けて、数分が経過したころだろうか。本間の目に徐々に光が戻り始める気配を感じて、千佳の声がさらに大きくなる。
「本間さん! 返事をして!」
「……千、佳……か?」
かすれた声で、とぎれとぎれに返事を返す本間に、千佳は安堵しつつも尋ねる。
「そんなになるまで、いったい何を……?」
「……超能力を解析すると言っていたと思うが、ごついヘルメットをかぶせられ、注射を打たれた以外には、具体的に何をされたのかはさっぱりわからん」
本間の返答は要領を得ないが、意識ははっきりとしているようだ。
「神経刺激とか中和剤と言っていたのは、覚えがあるんだが、途中から何も覚えてないんだよ……。麻酔をかけられたのかもしれないな」
そこまで言うと、本間は首を回し、千佳の方を見た。
「……ところで、俺が連れていかれた後、お前はどうしていたんだ?」
今度は本間からの質問が飛ぶ。千佳はすぐさまそれに答える。
「ずっと一人で放置されてたよ。だからボク、ここから脱出する方法はないか、ずっと考えていたんだ」
一旦そこで言葉を止めると、少し間をおいて千佳は続ける。
「けれど、どうにも厳重で、何にも思いつかなかったよ。『空白』が使えればなんとかできるのに。……それは本間さんも同じか」
最後のつぶやくような一言に、本間は苦笑する。
「そうだな。『トランスポーター』さえ使えれば、こんなところ即脱出だ。……力さえ戻ればな」
そう言って、本間は超能力を発動しようと試みるが、何も起こらない。
「やはり無理だな。力を使おうとしても、何も出てこねぇ。お前もそうだろ?」
本間の言葉を受け、千佳も超能力を発動しようと試してみる。
「………………」
返事をしない千佳に、本間は疑問を投げかける。
「どうした……?」
千佳は答えず、沈黙が続く。千佳は目をつぶり、集中しているようだ。本間は黙り、千佳の様子を見守る。
数秒間の後、千佳から返ってきた答えは言葉ではなく、監視カメラに映らないように控えめにサムズアップする左手だった。その手首にはベルトは巻かれておらず、ちぎれた状態でベッドの上に残っている。
「力が、戻ってきてる……!」
監視の目に気づかれないように抑えてはいるが、声には喜びがこもっている。
「やったな……! そうか、連れていかれて再処置された俺と違って、放置されていたお前は薬の効果が弱まってきているんだろう、多分」
「多分ね」
本間も声を抑えて答える。そして、なぜ千佳だけが力を取り戻しているのかを考察しているようだ。千佳はそれにかぶせるように答えたあと、力なく付け加える。
「だけど……、一割くらいの力しか出せなそう」
「まだ、薬の効果が残っているんだろう。しかしこうなると……脱出を急ぐ必要があるな」
思案顔でそう言う本間に千佳も同意する。
「そうだね。そろそろ切れる時間が近いんだろうね……。せっかくのチャンスなんだ。薬が追加されるまでに動き出さないと……」
そう言いながら、千佳がどこかを探るような目つきをする。
コトリ、コトリ…。
千佳と本間をベッドに縛り付けられているベルトが、小さな音を立ててちぎれていく。そっと手足を動かして、感触を確かめる二人。痛みはあるが動かせないほどではない。
「行けそうだよ、本間さん」
「ああ、そうだな。時間さえ稼いで薬の効果が切れれば、『トランスポーター』でどこにでも逃げられる……」
二人は顔を見合わせ頷くと、ベッドから起き上がり、点滴の針を抜き、接続されているコードを乱暴に外していく。
機器がピーピーと警告を鳴らす。二十秒ほどすると扉が開き、銃を持った警備員が二人、部屋に入ってきた。
「何をしている!」
警備員が中に向かって問うが、部屋には誰もおらず、無人のベッドがあるのみだった。
警備員達は銃を構えつつベッドに近づいていく。
突如、千佳が扉の陰から飛び出し、一人を回し蹴りで打ち倒す。続けて本間も、もう一人の警備員の首を絞めて落とす。
二人は開いた扉から外に出ていく。
しかし、外にはもう一人警備員がいた。警備員は反射的に銃を構え引き金を引いた。
銃声が響き、銃弾が本間の肩をかすめ、血が飛ぶ。
「ぐっ!」
「本間さん!」
続けて発砲しようとした男の動きが止まる。千佳に思考の『空白』を作られ、意識が飛んでいるようだ。
その隙に本間が飛び込み、警備員を殴り倒す。
「悪い、助かった」
「ふふん、僕は隊長だからねー」
笑みを浮かべ軽口で返す千佳。そして真顔に戻る。
「だけど、しばらく『空白』は使えそうにないかな。思ったより負担が掛かるみたい」
「力が戻り切ってないんだ、それは仕方がないだろう。それより……」
廊下に警報音が鳴り響き、二人は脱出が察知されたことに気づく。
「これは、まずいね」
「行こう」
追手の気配を感じた二人は、倒した警備員には目もくれず一目散に廊下を走る。
長い直線を駆け抜けて、曲がり角を曲がった瞬間、銃を構えた六名の警備員と鉢合わせた。
銃口が一斉に二人に向けられる。
「……っ!」
二人は咄嗟に左右に分かれるように飛び退る。放たれた銃弾が、さっきまで二人が立っていたところを通り抜け、廊下の壁に当たって、チュインと鋭い音を立てた。
本間はすかさず反転し、一番近い警備員に体当たりをする。警備員は吹っ飛び壁に叩きつけられた。千佳も同じく反転するとスライディングで足元をすくって転倒させ、手刀で銃を弾き飛ばした。
戦い慣れている二人には銃をものともせず、格闘技で警備員を打ち倒したが、相手の数が多すぎた。残った警備員達は、冷静に銃を構え二人に狙いを定めると、鋭く警告する。
「動くな!」
本間と千佳の動きがぴたりと止まる。出会い頭ならともかく、しっかりと狙われている状態では、手も足も出ない。
「ここまでか……」
「こんなやつらにっ……」
表情を変えずにつぶやく本間。千佳は、自分の力が戻っていれば、と悔しそうに表情を歪めた。
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