第五十三話 暴かせてもらいましょうか
本間と千佳編、もう少し続きます。
本間が縛り付けられたベッドが運ばれた先は、実験施設のようだった。壁際に大型の機器が配置され、その上には大型モニターが張り巡らされている。白衣姿の男女が機器を操作している。彼らはこの施設の研究員のようで、モニターを確認しながら機器を操作して、忙しそうにしている。
部屋の奥には、背もたれと手すりがついた、大きな金属製の椅子が置かれていた。椅子の背後からはパイプやコードが飛び出しており、その先が大型機械につながっている。真上の天井からはヘルメットが吊るされており、そこからも機械に向かってコードが伸びている。それを見る限り、この椅子とヘルメットは何らかの実験装置なのだろう。
ベッドを運んできた看護師が、本間とベッドを固定しているベルトを外し、乱暴に体を起こす。本間は苦痛に声を上げるが、看護師は一切気に留めることなく彼をベッドから立ち上がらせる。
その場に倒れそうになる本間を、左右から挟み込むように支え、強制的に歩かせる。一歩ごとに激痛が走るが、止まることなく、引きずられるように奥にある椅子へと連れていかれる。
そのまま椅子に座らされると、再び手足を固定され、ヘルメットがかぶせられた。ヘルメットは顔まですっぽりと覆われており、本間は周りが何も見えなくなった。
「さぁ、本間さん。始めますよ」
ヘルメット越しに、白衣の男の声が聞こえ、部下たちの動きが活発になる気配を感じる。程なく、サーっとホワイトノイズのような、微かな音がヘルメット内に流れ出した。
「神経刺激を開始しました」
「……現在、進捗率三パーセント。二十パーセントに上昇後、中和剤の投与をお願いします」
その声が聞こえた瞬間、本間の頭に激痛が走る。これまでのような怪我の痛みではない、頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されているような、芯からの痛み。苦痛から逃れようと体をよじらせるが、固定された手足とヘルメットが逃げることを許さなかった。
「神経刺激二十パーセントを確認。中和剤の投与をお願いします」
機器のモニターを見ながら部下の一人が言うと、他の者が本間の左腕に注射器を突き立てる。そして中の液体を注入した。
「超能力抑制酵素の中和、開始しました」
報告を受け、部下たちは一段と慌ただしく機器の操作を続ける。
「中和剤の投与を確認しました。神経活動の活発化が見られます!」
「神経刺激率四十パーセントを超過!」
白衣の男は腕を組み、モニターを注視している。モニターにはいくつものグラフが表示され波打っている。それが人の頭部のエックス線画像のようなものに切り替わり、脳のあたりと思われる部分が赤く点滅している。それはやがて、赤から青に変化し、緑そしてまた赤と色の変化が続く。
いつしか本間は力なく、ぐったりとした様子で、静かになっていた。
白衣の男は横目でちらりと本間を見ると、薄く笑い、そしてつぶやく。
「暴かせてもらいましょうか、あなたの超能力「トランスポーター」を」
部下達が機器の操作を行いながら、次々と報告する。
「神経刺激率、八十パーセントを超えました」
「無意識下での刺激により、膜電位の振幅がピークに達しています!」
彼らの報告に呼応するように、モニター上の脳の表示が拡大され、大写しになった。
それと同時に、ぐったりしていた本間が、大音量で叫び出す。
「うがあああああああああ!!」
白衣の男が見ているモニターの一つにアラートメッセージが表示される。機器に備え付けられたランプが激しく点滅し、警告音が響き渡る。
部屋に一人残された井上千佳は、縛り付けられて体を動かせないまま、首と目を最大限に動かし、部屋を観察していた。
そこかしこに置かれて、コードで自分と繋がれている機械は、表示されている内容から身体状態をモニターするものだと推測できる。部屋の上部には監視カメラがあり、金属のドアは頑丈そうで、破れるものとは思えない。そのうえ、電子ロックがかかっており、解除キーを知らないと開けられないようだ。窓は見当たらず、牢獄と言っても間違いではないような部屋だった。
一通りの観察を終え、千佳はため息を吐く。そして、連れていかれた本間のことを思う。
「本間さん、大丈夫だよね……」
思わず出た独り言に不安感が増すが、彼なら大丈夫と思い直すと、ここから脱出する手掛かりはないかと、千佳は観察を再開した。
「空白」さえ使えれば、という考えが何度も頭をよぎるが、そのたびに無理なものは無理だと、自分に言い聞かせながら、必死に考える。
何も思いつかないまま、疲労と痛みで限界に達し、意識が沈み始める。
その時、扉が開き、ベッドに縛り付けられた本間が運ばれてきた。焦点の定まっていない目で天井を見つめ、放心しているようだ。
「本間さん……!」
普通でない本間の様子に、一体何をされたのかと、千佳の声が大きくなる。呼びかけに答えない本間に、千佳の不安が高まっていく。
その間にも、看護師の男たちは機器から伸びたコードを、本間に取り付けていく。最後に点滴を腕に刺すと、彼らは無言のまま外に出ていく。
扉が閉まり、ロックしたことを表す電子音が小さくピピピと鳴った。
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