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第五十一話 ありがとう

本日二話目の更新です。

 俺の話を聞いた老人たちが、今までにないほどざわつく。人体実験と聞いて困惑しているようだ。俺は話を続ける。


「やつらは、捕らえた超能力者の脳を調べて、超能力を人為的に発現させる実験をしていました」


 彼らの困惑が一層大きくなるのを感じるが、誰も直接言葉を発しない。愛美が俺に続けて言う。


「その現場を見られたことで、危機を感じたんでしょうね。政府は私たちのいるユイの領域(ユイ・テリトリー)を襲撃してきたわ。今までの、個別に捕らえるやり方でなくて、明らかに潰しにきたと感じたわ。人体実験を知られたことが余程都合が悪かったのだと思う。大々的なニュースにしたのは、他の領域(テリトリー)への見せしめ、と言った意味合いもあるのだと思うわ。実際リーダーが捕まったし、私たちも逃げ出すことはできたけど、手配されて写真も公開されてしまっているわ」


 愛美はそこで言葉を止める。そして大きく息を吐き、申し訳なさそうに続ける。


「最初に言ったでしょ。皆に迷惑をかけたくなかったのよ。だから、本当はすぐに出ていくつもりだったのよ」


 それを聞いたご老人たちが一斉に声を上げる。「迷惑なんて、それこそとんでもないよ!」「わしらに遠慮してんなよ」「なに水臭いこと言ってんだい」「頼ってくれていいんだよ」「そんなわけあるかい」。聞き取れる限り、愛美の言葉を否定するものだった。

 その反応に愛美が両手を突き出す。手のひらを前に向け、ご老人たちを制す様に前後に動かしながら、焦ったように言い返した。


 「ちょっとまって。皆、本気なの? 私、指名手配されているのよ? キヌさんだって、さっき皆に迷惑をかけたくないから、超能力のことは黙ってたって言ってたじゃない」


 愛美がそう返すと、キヌさんがやおら突然立ち上がった。皆の視線が彼女に集まる。キヌさんはゆっくりと歩き、先ほど開けたふすまの前に来ると、音もなく閉める。そして振り返り、皆を見渡してから、愛美に向き直る。


「愛ちゃんから見たらそうなんだろうけどね、アタシらからしたら事情が違うんだよ」


 これまでとは違い、キヌさんの口調は静かでゆっくりだ。真摯に伝えようとしているのが感じられる。皆が口を閉じ静まり返る中、彼女は言葉を続ける。


「アタシの家族は商売に失敗して、何もかもなくしてね、一家心中するところだったんだよ。そんなところをね、大旦那さんが手を差し伸べて、拾ってくださったんだ。アタシの家族は命を救われたんだよ」


 キヌさんの告白に、愛美は眉をしかめ、動揺しているようだ。ご老人たちは神妙な顔で愛美のほうをまっすぐ見つめている。


「ここにいるのは皆、大旦那にお世話になった者たちなんだ。一生かかっても、いつか、その恩を返したいと思って生きてきたんだよ。アタシ達はね……」 


 キヌさんの言葉がふいに途切れた。ご老人たちの中には何人かうんうんと頷いている人がいる。愛美を見据えていたキヌさんの視線がふいにゆるみ、慈しむような微笑を称える。


「だからね、孫娘である、あんたの手助けになることは、静岡の大旦那への恩返しでもあるんだ。この歳になって、やってきた恩返しのチャンスをあんたは無下にするのかい?」


 キヌさんは元の位置まで歩いて戻ると静かに座り、お茶をとって一口飲む。そして表情を引き締めると、愛美の返事を待つように、じっと見つめた。

 その視線を受けた愛美は息をとめ、一瞬ひざ元を見る。そして、膝の上に乗せた手をぎゅっと握ると、再び顔を上げる。彼女の表情は先ほどまでとは違い柔らかいものになっていた。


「ありがとう。キヌさんの決意は受け取ったわ。皆さんも同じ、なのよね?」


 そう言って、皆を見渡す。ご老人たちの空気が少し緩んだように感じた。先ほどの様に声をあげることもなく、真剣さを残しつつも、どこかほっとしたような表情でまっすぐ愛美を見つめている。誰も口を開かないが、ご老人たちがやっとわかってくれたか、と言っている声が聞こえるような気がした。

 愛美もどれをわかっているのか、無言の返事を発した彼らに答える。


「私はあまりおじいちゃんのことは覚えていない。だけど、いつも大きな手で私の頭を撫でてくれたことは覚えているわ。優しい手だった……。本当のことを言うと皆を巻き込むのは気が進まない。だけど、私たち三人だけでは手の打ちようもないのは事実だわ」


 私たち三人、というところで、愛美は俺とQちゃんに目線を送ると、ご老人たちに頭を下げる。


「私たちはこのまま捕まる訳にはいかない。仲間を取り戻さなくちゃいけない。私たちを助けてください」


俺とQちゃんもご老人たちのほうを向き、愛美と同じく頭を下げた。

読んでいただき、ありがとうございます

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