第四十三話 発見しましたー!!
「とりあえずは振り切れたようね」
バイクから手を離した女性は俺のほうを向き、ヘルメットを脱ぐと、中から長い髪がバサッと降り背中ま伸びる。彼女は目元がキリっとした美人といった感じだ。同年代くらいかと思っていたが年上か? 三十は超えているように感じる。
「ええ、助かりました。あなたは?」
「さっきは返事できなかったね。渡しの名前は静岡愛美。あなたは藤沢圭祐君ね」
この人俺のことを知っているんだ、と思いながら俺は頷く。
「ええ、そうです…。俺のこと、ご存じなんですね」
「ご存じ、って……」
何が面白いのか俺の言葉を繰り返しながらクスクス笑っている。なんでだ?
「あなた、結構な有名人よ? 自覚ない様だけど」
どういうことだ? 俺は意味が分からず黙っていると、彼女は呆れる様に言った。
「とんでもない超能力を持っていて、領域に入って数日で戦闘班のトップと対等に渡り合い、奪還作戦に参加して成果を上げた、すごい新人がいるって噂になってるんだけど、知らなかった?」
ええええ、俺そんな噂になってたの? 慌てる俺を見て愛美はクスクスと笑い続けている。
「勘弁してくださいよ」
俺は苦笑いするしかなかった。本間さんたちには訓練してもらっただけだし、奪還作戦ではアナザー圭祐と優子を奪われてしまったし、俺としては過分な評価過ぎて恥かしい。噂って怖いな……。
「とにかく、助かりました。ありがとうございます」
俺は反応に困り、無理やり話を切り替える。
「あなたなら、あの状態からでも何とかしたんじゃない?」
愛美が笑顔でそういうが、それは買い被りだ。彼女が助けに来なければ本当にやばかった。鳴海はともかく俺は捕まっていただろう。
「いや、それはないですね。繰り返しになりますが、本当に助かりました」
俺の言葉が真剣なことを理解した様で、愛美から笑顔が消え真面目な表情になる。
「その言葉、ありがたく受け取るわ。どういたしまして」
そして、ふっと表情を緩め、言葉を続ける。
「どうにか振り切ったけど、これからどうしようかしらね」
とりあえずの危機は脱したものの、ユイの領域は襲撃されて戻ることはできない。どこかに身を寄せるしかないが、俺にはその伝手も無い。
「静岡さんはどこか宛があります?」
「愛美でいいわよ。私も圭祐君ってよばせてもらうわ」
俺の言葉にそう返した愛美は、眉を寄せて思案顔になる。
「うーん、心当たりは無くはないんだけど、ちょっとね……」
そういって黙り込んで何やら考えているようだ。俺は彼女が言葉を続けるのを黙って待つ。そんなとき、背後から声が響いた。
「あー! 発見しましたー!!」
突然の大声に振り向いた先には見知った顔があった。そこに居るのは門脇唯奈ことQちゃんだった。
「「Qちゃん!?」」
俺と愛美の声が被った。この人Qちゃんとも知り合いなのか。
「おやおや? そこに居るのは藤沢さんじゃないですか。マナちゃんを発見したと思ったらあなたまで!」
Qちゃんがトテトテとこちらに走り寄ってくる。
「よっ!」
愛美が右手を挙げて言う。挨拶が軽いな。
「『よっ!』じゃないですよ! 私のこと突然放り出しておいて、なんで藤沢さんと一緒なんですか」
事情はわからないがQちゃんは何やらお怒りの様だ。愛美は俺とQちゃんが初対面じゃないことを何も気にしていない様子だ。多分、彼女から聞いていたのだろう。
「いやー悪い悪い。圭祐君がピンチだから助けて欲しいって連絡を受けたんでねー」
「だからと言って、私を置いてくにしてもあんな放り出しかたは無いでしょう~!」
なんか、愛美のしゃべり方の雰囲気がさっきまでと違うな……。そしてQちゃんはやっぱりお怒りの様だ。というか彼女を責めている様だ。気になるので二人の関係を聞いてみた。
「お二人、お知り合いなんですね」
俺が声をかけると二人ともこちらを向いた。Qちゃんが答えてくれる。
「知ってるも何も、同じ作戦計画班なんですよ、私たち」
ムッとした表情のままそう言って黙るQちゃん。なんだろう。お怒り、というよりは、Qちゃんからはあまり話したくなさそうな雰囲気を感じる。その態度が気になったのが愛美がQちゃんに抗議する。
「ちょっと、Qちゃん。説明それだけ? 恩師に対して失礼じゃないの?」
「恩師?」
愛美の口から意外な単語が出たのでそのまま繰り返す。Qちゃんが面倒くさそうな顔をする、それを説明するのが嫌だったってことかな。
「マナちゃんは、私の中学時代の担任なんですよ……」
……そういうことか二人の顔を交互に見る。笑顔の愛美と対照的にQちゃんは何とも言えない顔をしている。担任と生徒だったって関係、そこまで知られたくないものか? とは思うが、この話題はあまりして欲しくはなさそうだ。俺の方としても、これ以上話を広げるつもりもないしな。他にも気になることもあるし、そっちを聞いてみよう。
「ところで、Qちゃんの口ぶりだと、俺を助けてくれるまで一緒にいたということです?」
「いやーそれがね。Qちゃんを後ろに乗せてバイクで脱出したんだけどさ。リーダーから『念話』で圭祐君が危ないから救出して欲しいって連絡があったのよ」
また、新しい単語が出てきた。いや、意味は想像つくけど。ユイの能力ってことだよな。一応確認しておくか。
「『念話』、ですか?」
「うん。領域から脱出するときに頭の中に声が届いたでしょ? あれ、団体にも個人に向けても出来るみたい。つっても、負担が激しいらしくて、滅多に使わないんだけどね」
彼女がタイミングよく現れたのは、ユイの指示だったのか。しかしどうやって俺たちがピンチだってわかったんだろう。千里眼みたいな能力の持ち主がいるのだろうか?
「そこらへんは…、私にもちょっとわかんないかなあ。まあ、それでね、Qちゃんには降りてもらって駆け付けたってこと」
「降りてもらってじゃありませんよ!」
Qちゃんがまたお怒りだ。彼女の声が一段と大きくなるが、愛美はあまり気にしている様子もなさそうだが。
「悪かったってー。けど、安全におろしたんだから、そんなに怒らないでよー」
「走ってるバイクから無理やり降ろすなんて酷すぎです!」
Qちゃんは両腕を広げて全身で怒りを表現している。確かに酷い。説明もなく突然に降ろされたらお怒りになるのも当然だ。てか、走ってるバイクから無理やり!? よく怪我しなかったな。てか、どうやってたら走行中のバイクから無理やり下せるんだ……?
「私の超能力は『アクセル』ていうんだけど、物体を加速させることができるの。ちょっと急ぎだったから能力をつかって降りてもらったのよ」
「突然自分だけバイクから取り残されて、突然地面にストン。ですよ。事前説明も無しにですよ? 心臓が止まるかと思いました!」
俺が疑問を浮かべたの気付いたのか、二人が説明してくれる。Qちゃんは膨れっ面で、愛美はニコニコと。あーそれでか。交差点で二台連なるトラックの間を抜けたとき、能力の発動を感じたのはそういうことか。
一台目のトラックを加速させて前に移動させて、隙間を広げてそこを走り抜ける。その後、後方のトラックを加速させ、黒づくめの男のバイクの進行方向を塞ぎ衝突させたんだな。
俺の考えを伝えると、愛美は笑みを深めた。
「正解。さすがは圭介くんね」
だが疑問が残る。加速する能力を使ってバイクから降ろすってどういうことだろう。
「それだと、Qちゃんを地面に落ろすことはできないのでは?」
俺がそう言うと、二人は顔を見合わせてから、にんまりとこちらを見る。
「進行方向のへ逆に加速すれば、それは減速と同じことよ?」
「ですです。バイクに乗ってる私にだけマイナス方向に加速して速度を0にすれば、そのままバイクだけが進んでいくというわけです」
なるほど。
「そういうこと。きっちり0にするのは難しいんだけどね。緊急事態だったとはいえ可愛い教え子だからね、怪我させないように頑張ったのよ」
だから許してね、と両手を合わせる愛美。
「まぁ、あの時は仕方なかったということで、貸一つということで収めましょう。こんなことは二度としないでくださいね」
どうやらQちゃんのお怒りモードは終了したようだ。貸がどれくらい高くつくかは不明だが。
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「距離が近すぎてお互い意識していなかった幼馴染と付き合うことになった訳」
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