第四話 どの世界でも不変の原則です
アナザー優子のセリフ中で「超能力者捜査室」の名称が間違っていたため修正しました。また、略称を明言し忘れていたので、あわせて追加しました。
光る人型がさらに光を増し、部屋の中が真っ白になった。
目を瞑ってもまぶしさから逃れられない、両腕を目の前にやり交差させて目の前のをふさぐ。それでも漏れた光のまぶしさが容赦なく伝わってくる。
目が、目が痛い…!
そう思った直後、まぶしさが収まった。目を開けてみる。どこにも光は感じない。両腕をどかすと目の前に人が立っていた。
大人しそうな印象の女性で、黒髪ロングで白いブラウスにデニムのスカート。そして…、厚底の赤いサンダルを履いていた。
また土足…!
俺の部屋はいつから土足解禁されたんだ…と思いながらそっとため息をついた。優子も目を塞ぐのをやめたようで俺と同じく女性を見つめてからつぶやいた。
「あなた、…誰?」
現れた女性をよく見ると、服装や受ける印象が違うが、優子そっくりの顔をしていた。顔だけじゃない、背格好も優子と同じくらいだ。
女性はこちらをじっと見ながら、口を開いた。
「私は二宮優子です。そちらの優子さんと同一の存在です」
何を言っている?優子と名乗る女性をまじまじと見つめたままフリーズする俺。言葉が出ない俺より先に、優子が話し出した。
「ええと、これドッキリ? それとも世界には同じ顔が三人いるとか言うやつ?」
「ちがいます」
「じゃあ、じゃあ、何よ! 一体なんなの!?」
再起動を果たした俺は、イラつきだした優子の肩に手を置いて黙らせた。
「冗談じゃないんですよね?」
「はい冗談じゃありません」
「じゃあ、どういうことでしょうか?」
俺の質問に黒髪ロングの女性は淡々と答えた。
「お二人は平行宇宙というものをご存知でしょうか? 私は別の宇宙からやってきた二宮優子です」
平行宇宙。SFなんかでよくあるやつだ。
主人公がタイムスリップして過去を改変して戻ったら違う未来になっていた、なんてストーリーの映画があったが、改変する前の世界は消えてしまったのだろうか?
改変された瞬間から世界が分岐して、どちらも存在したまま別の時間を進んだら現在は二つあることになる。
過去から現在、未来へ続く歴史的瞬間。もしそこで別の選択がなされていたら?そしてそれらがすべて存在していたら?
すべての可能性の世界が平行して存在する、それが平行宇宙、パラレルワールドってやつだ。
「なんとなく理解した。優子はおっけー?」
「おっけー。この前見たSFアニメがそういうのだった」
そうSF、サイエンスフィクション。
でもここは現実だ。どこからフィクションがやってきた?
「SF、ではありません、アニメでもありません。これは現実の出来事です」
「あ、ああ、そうだな。で、君は別の世界の優子ってことか」
「はい。私は『世界を渡る力』を使ってこちら側にやってきました」
「『世界を渡る力』…。もしかして、そちらでも超能力者の発現が?」
「そうです、数年前から超能力が発現する人が現れています」
ん?数年前?
「ちょっとまって、超能力者が現れだしたのって半年くらい前からだぞ?」
なんか、認識にずれがあるような気がするな。そこでお互い、今は何年かを言い合うが同じ年だった…。
「つまり、だ。超能力者の発現時点ですでにずれがある世界なんだな」
「そのようですね。こちらだと半年…。ということはまだ『超査室』は発足してませんか?」
「『超査室』? 何それ?」
「正式名称は『超能力者捜査室』。超能力者を捕縛、隔離するために発足した政府組織です」
そういうと、平行世界の優子は一旦口を閉じた。
「捕縛…」
「隔離…」
俺と優子は顔を見合う。そういえば、超能力者の発現に対して政府が何か動いていたはず。もしかしてそれか。
「…こちらでは、まだそんなのは出来てないな。けど、近いうちに出来そうだ」
「そうですか。私の世界ではこちらよりも数年早く事が進んでいるようですね…」
「お腹すいた」
「うん、お腹すいたな。それでどうして君…、ええっと二宮、さん? は世界を渡ってきたの? 痛!」
俺は優子に頭を叩かれていた。
「何すんだよ、優子」
「お腹すいたって言ってるでしょうが!」
「会話の途中で関係ないこと突っ込むなよ」
「適当に流して話進めようとすんな!」
ぺちぺちと頭を叩きながら抗議してくる優子。
それを見て、別の世界の二宮優子はクスクス笑いだした。
「こちらの優子が失礼した」
「あ? 何気取って言ってんのよ」
「お前なあ、今、俺は別の世界の二宮さんと話してんの。こちらの優子は会話を邪魔するんじゃないよ」
「なんだとー。この私よりもそちらの私のほうが良いって言うのか? 黒髪ロングのほうが良いって言うのか!?」
優子は意味不明なことをいいながら、さらに俺の頭を叩いてくる。ぺちぺちくらいだったのが、バシバシくらいにだんだん力が強くなってきて痛い。
「大体、あちらとかとかこちらとか、どっちも二宮優子だとややこしいのよ。呼び名を考えようよ」
「うーん。黒髪優子と茶髪優子、とか?」
「なんかやだ」
「えー」
「あの、もうお昼過ぎてますし、食事でもしながら続きを話しませんか?」
こっちの優子もお腹がすいたのかよ。
あーでも、俺もお腹が減ってるっちゃあ減ってる。
「わかった。じゃあファミレスにでも行って食べながら話そう」
そして、今度はちゃんと玄関に鍵をかけて外にでて、三人でファミレスに向かった。
お昼時だったが、店内はそれほど混んでなくすぐ席に案内された。俺と優子は隣同士、その向かいにアナザー優子が座る形だ。
そして、メニューを見ながら何を頼むかを決める。
「私、魚介のパスタ大盛にするー」
「お前、パフェ食ったのにそんなに食えるの?」
「パフェとパスタは別腹ですー」
「えー」
アナザー優子はこちらを見ながらまたクスクス笑っている。
ファミレスに向かう前の道のりで話し合って、二人の優子を区別するときは別の世界の優子を「アナザー優子」と呼ぶことにしていた。
「そうですよ、圭祐さん。デザートと食事は別腹。これはどの世界でも不変の原則です」
「えー」
アナザー優子も別腹派かよ。しかし、どの世界でも不変の法則って…。
「だよねー。男ってそういうところがわからないから嫌だねえ」
二人は顔を見合わせてうんうんうなづいている。アナザー優子はこちらの優子とは違うと思っていたが、案外同類の様だ。
「で、アナザー優子さんはメニュー決めた?」
「はい、私はハンバーグ定食のミニピザセットにします」
「えー。君も結構食うのね」
やっぱり同類…というか同一人物だわ。
「こちらの圭祐さんも同じ反応するんですよー。私がデザートたのむといつも『え? まだ食べるの?』って言うんです」
顔を顰めた俺を見て、クスクス笑いながらアナザー優子はそう言った後、表情を曇らせた。
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