第三十八話 確信が持てないのよ
主人公不在回。三人称です。
ユイの領域のリーダー、ユイの自室。ここは複数の部屋があり、彼女のプライベート空間とは別に作戦会議室があり、領域にとって重要な話し合いが行われる場所である。
この作戦会議室は以前に圭祐たちが奪還作戦について聞いた場所でもあり、領域への参加を決意した場所でもある。
今この部屋には、四人の男女が集まっていた。そのうちの一人は西沢鳴海。
本間譲二と井上千佳が仮面の男に倒された現場から「転送」で離脱した彼女は、ユイに報告するため、領域に戻ってきていた。
戦闘班の二人が倒されたことを鳴海が話すと、ユイがつぶやいた。
「そうですか、あの二人が…」
「俄かには信じ難いですな」
そう話すのは木下裕也。領域の生活を支える、調達班のリーダーだ。太い眉に鋭い目つきでまるで殺し屋の様な険しい顔をしているが、それに反して極めて温厚な紳士である。
「とは言っても、実際にそうなってるんだ。グダグダ言っても始まらねぇよ」
吉田由和が木下にぶっきらぼうな口調で返す。無精ひげを生やしてバンダナをまいた筋肉隆々の肉体に迷彩服を着た無骨な男だ。
「俺たちが考えなきゃならないのは、だぜ? 情報の真偽じゃない。あの本間さんと千佳を倒した敵にどう対処するかだ」
そういうと吉田は腕を組み。三人を見渡す。それを受けてユイが答える。
「ヨシシの言う通りですね。ですが、それ以前に、私から鳴海さんに確認したいことがあります」
彼女は一度口を閉じると、鳴海のほうを向き、続ける。
「鳴海さん、この領域の所在地が漏れた可能性はありますか?」
鳴海は軽く首を横に振りながら答える。
「わからない、というのが正直なところだわ。だけど、元々この辺りを活動範囲と考えて探りを入れていたようだし。とんでもない強者を投入してきてるし、なにより…」
そこで鳴海は少し言い淀み、視線を落とす。
「なんだよ? お前さんがはっきり言わないのはめずらしいな?」
「……確証がないのよ」
吉田につっこまれて、鳴海が自信なさげな声で返事をする。
「少しでも情報があるのでしたら、確証が無くてもかまいません。話してください」
ユイが鳴海に話を促す。木下は口こそ開かないが同じ気持ちだと言うように小さく頷いている。吉田も腕を組んだまま、鳴海をじっと見ている。
部屋が静寂に包まれた。三人は鳴海が口を開くのをじっと待つ。十秒ほど沈黙が続き、やがて鳴海が顔を上げ三人を見返すと、口を開き言葉を絞り出すように言った。
「彼らは相手の思考を読む超能力を持っているかもしれない」
鳴海の口から出た言葉に、驚く三人。ユイの口から当然の疑問がでる。
「あなたの思考を読まれたのですか?」
「はっきりとはそう言えない……。順を追って説明するわね。まず、仮面の男。彼は本間さんと千佳ちゃんの猛攻をただの一度も受けていない。まるで、どこに攻撃が来るのかわかっているかのように、悠々と避けていたわ。そして、千佳ちゃんの『空白』が通じなかった。身体に影響がある能力は、それが精神に作用するものであっても効かない、と言っていたわ」
「その男が、何らかの精神系の能力を持っていると? 攻撃を避けたのも思考を読んだからだということですか?」
木下がそう言い、吉田が続ける。
「それだけだと、弱いな。身体に作用する攻撃が効かないのなら防御系の能力じゃないのか? 攻撃が当たらないのは単に彼ら以上の武道の達人の可能性もある」
「私の『転送』位置を正確に捉えられたのよ。 武道の達人、というだけでは説明がつかないわ」
「そこまで言っておきながら、確信が持てない理由はなんです?」
ユイが確信をついた質問をする。
「私の『転送』位置をとらえたのは、もう一人の仮面の女のほうよ?」
鳴海の返答に吉田が首をひねる。ユイと木下も顔を見合わせている。
「うん? じゃあ、その女が思考を読む能力者ってことなんじゃねぇのか?」
「仮面の女に『転送』を読まれて攻撃された私は、とっさに彼女ごと仮面の男に向かって『転送』しなおしたのよ。そのままぶつけてやろうと思ってね。だけど『転送』したタイミングを正確に読まれて、避けられたのよ」
鳴海の更なる返答に、三人は思案顔になる。
「……それって、ありえるんですか?」
木下がユイを見て聞く。
「ありえなくはないのですが……、現実的ではないですね」
二人のやり取りに、なんのことだと吉田が口をはさむ。
「ちょっとまってくれ。あんたらと違って俺は超能力者じゃない。わかるように説明してくれ」
「能力が発言していないヨシシは知らない話よね。私たちが超能力者は、一人ずつ発動する能力が違うのよ。かぶることはないの、普通はね。桜子ちゃんたちのように二人が同じ能力なのは特殊なのよ」
「むしろ、彼女らは二人で一つの能力と言っていいでしょうから、本当に特別です。ですが、実際に居るわけですから、ありえない話ではないわけですが……」
鳴海に続けてユイが、吉田に超能力について説明する。
宮内桃花と宮内桜子は、お互いに離れていてもの現在の身体状況や位置がわかる「絆」という能力を持った双子の姉妹である。ちなみに、彼女たちの能力でもお互いの思考がわかるわけではない。
「そんな特別な例が、いくつも存在するはずはないんです。ですので、仮面の男女がどちらも思考を読む能力を持っているとは考えづらいんですよ」
木下が説明をまとめる。それを聞いた吉田はなるほど、と頷くがすぐに次の疑問を口にする。
「それじゃあ、なんでそいつらは鳴海が現れる位置がわかったんだ?」
「それがわからないから、確信が持てないのよ」
作戦会議室に、またもや静寂が訪れる。その沈黙を破ったのはユイだった。
「とにかく、こうして考えていてもわかりません。最悪を想定して動きましょう」
「最悪? 位置を特定されたと考えるってことですか?」
「おいおい、それはちょっと乱暴すぎじゃねぇのか?」
木下と吉田がユイに異を唱える。鳴海は口を一文字に結んで三人のやり取りを見ている。
「このまま、様子を見ていてもしものことがあれば、今ここに住む超能力者とその家族達が命の危険にさらされます」
毅然とした顔でそう告げるユイ。しかし続く言葉は、とぎれとぎれで、声がかすれていた。
「私には……、そんなことは、もう、耐えられません。あっては…行けない、ことなの、です」
悲痛、と形容するしかないほどに表情を歪ませながら、言葉を絞り出したユイに、もはや二人は反論することができなかった。
ユイは一度目を瞑り大きく深呼吸をすると、再び目を開けた。その顔は先ほどの悲痛な表情が消え、再び毅然とした顔つきになっていた。
「領域全人員の避難を行います」
そして三人を順に見ながら、リーダーとしての指示を出していく。
「吉田由和さん、木村裕也さん、あなたたちは人員の避難誘導を行ってください。西沢鳴海さん、あなたは『転送』を使って随時、避難誘導のサポートを行ってください」
そして左右の掌で頭を挟み目を瞑ると、その場にいない誰かに語り掛けるように静かに話し始めた。
『現時点をもってユイの領域を放棄します。全員速やかに脱出してください』
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