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第三十七話 わくわくするね

全然かけなくて…かなりの時間が空いてしまいました。でも、完結までは書きたい…。かなり間が空いてしまいましたが、続けて行きたいと思っています。

エタらせたりはしたくないんだー!

 千佳は背後に気配を感じていた。しかし、今振り向けば気づいていることを悟られる。それは拙い、と、これまで修羅場を潜ってきた経験が、彼女にその直感を与えたのだ。

 遅れて、本間も同じ気配を感じ取った。一見穏やかな、だがその奥には芯の強さが感じられる気配。彼もまた、自身の膨大な経験から、千佳と同じ結論に達し、迂闊は動くのは拙いと考えていた。


「この気配……、キツイな」

「わくわくするね……」


 本間は素直な感想を口にし、千佳は軽口を叩く。

 本間も千佳も先ほどの黒づくめとの戦いでかなり消耗している。戦闘すれば負けはしなくとも、かなりの苦戦を強いられることは明らかだった。

 鳴海も真剣な顔で二人の側に立っている。彼女は自分が動くタイミングを図っていた。

 先ほどまでとは打って変わり、静けさが辺りを包む。

 その静寂を破るかのように、拍手をしながら物陰から男が現れた。男は黒のスーツに身を包み、背にはマントをたなびかせ、白い仮面をつけていた。


「俺たちの気配に気づいていたな。見事だ」


  男はそう言いながら、三人の前で立ち止まる。それをきっかけに三人がゆっくりと振り向く。


手前(てめえ)何者(なにもん)だ……?」


 本間が絞り出すような声で聞く。


「答えは既に出ているだろうに、その質問をするの意味はあるのか?」


 仮面の男の声が一段低くなる。男の言葉が示す通り、本間と千佳は戦闘態勢を取っていた。鳴海は自然体で立っているが、その真剣な表情から二人と同じく臨戦態勢に入っていることがわかる。


「仲間が全滅しても出てこないからな…。もしかしたらと思ったんだ、よっ!」


 本間は言い終わるか終わらないかの内に、凄まじい勢いで踏み込むと、男の仮面めがけて拳を打ち込む。それと同時に千佳が「空白」を叩き込み、鳴海の姿が掻き消えた。


「よくできた連携だ。普段から鍛錬を積んでいるのがよくわかる」


 しかし男は微動だにせず、左掌で本間の拳を受け止め、穏やかな声で返した。叩き込んだはずの千佳の「空白」が効果を発している様子もない。


「な、ボクの『空白』が効いていない!?」


 千佳が驚いた声を出す。


「身体に直接影響を与える能力は俺には効かない。精神操作系だろうとな」


 本間が止められた拳を引き、バックステップして距離を取る。突如、二人と仮面の男との間に出来た空間に鳴海が現れた。

 鳴海は地面にうつ伏せに這いつくばっており、白い仮面付けた女が彼女の手首を掴んで背に回し抑えつけている。鳴海の首元には奪い取られたナイフが突きつけられていた。

 ナイフを取り上げられた上に喉元に突き付けられ、鳴海は悔し気な顔で歯を食いしばっている。


「……!」


 転移攻撃を仕掛けようとした鳴海が、無力化され捕縛されていたことへの驚きで、声を発することも出来ない本間と千佳。再び辺りを静寂が包む。


「離していいぞ」


 男が声を掛けると、女は鳴海から手を離し立ち上がった。彼女は黒ジャケットに丈が少し短いフレアスカートを履いている。

 女は立ち上がると、手に持っていたナイフをカランと投げ捨てた。


「さて、こうしていても何もすすまないな。はじめようか」


 男はこれまでと変わらない穏やかな声で言うと、右手を開いて横に伸ばして握る。その手はレイピアを掴んでいた。男は感触を確かめるようにレイピアを左右に振ると三人に向けて切っ先を突き出す。


 次の瞬間本間と千佳が動いた。右から本間の拳が、左から千佳の蹴りが凄まじい速度で男を襲う。

 男は緩慢に一歩、前に出た。その動きだけで二人の攻撃は見事に躱される。その動きとは打って変わって今度は目にも止まらない速さで振り向いた。


「がぁっ……!」


いつ刺されたのかも分からぬまま、本間の右肩から血が流れた。力が入らないのか右手をだらんと下げたまま、本間が後ろに跳び下がる。


「シッ」


 本間に向く男の背後から、 千佳が踵落としを仕掛けた。男は振り向くことなく。一歩横に動いてそれを躱し、振り向きざまに裏拳を叩き込む。千佳はなんとか両腕でガードして防ぐが、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 千佳に振り向いた男の背に向かって、本間が左の拳を叩き込むが、男はそれも予期していたかのようにゆらりと躱す。


「……」


 仮面の女が無言で三人の攻防を眺めている。その後ろで、鳴海は地面に這いつくばったままだ。


 吹き飛ばされた千佳が、体制を整え直して、再び男に殴りかかる。男が最小限の動きで千佳の拳を躱す。それと同時に、千佳の右腕から鮮血が飛び散った。


「ぼくの攻撃はかすりもしないのに……。本間さん!」

「わかってる!鳴海!お前は、この場を離れろ!」


 レイピアに何か所も刺され、血を流しながらも本間が鳴海に向かって声を掛ける。しかし、鳴海は反応しない。


「負傷している身で仲間に声かけとは、余裕だな」


 男はそう言いつつ、レイピアを振るう。本間も千佳もその攻撃を避けることができず、いたずらに傷が増えていく。


「生憎と、根性だけはあるんでね」


 傷が増えていくことを厭わず、本間も攻撃の手を止めない。千佳も同様だ。

 しかし、二人の攻撃は尽く躱される。


「鳴海!お前はここから離脱しろ!」

「鳴海さん!お願い!」


 鳴海が地面に手をつき、上半身を起こした。ゆっくりと戦っている三人のほうを向く。仮面の女は、鳴海の動きに構いもせず、背を向けて戦いを見ている。

 本間は男の攻撃を受けすぎたのか、膝をつき、動きが止まっていた。その様子を見て、鳴海の表情が変わる。


「本間さん!」

「行け……!鳴海!」


 本間の絞り出すような叫びを聞いて、唇を噛みしめる鳴海。次の瞬間彼女の姿が掻き消えた。


「どうするの?」


 消えた鳴海の方を振り向きもせず、仮面の女が問う。


「放っておけばいい、どうせすぐ終わる」


 男は千佳の攻撃を避けながらそう言うと、レイピアを振るう。言い終わるかのうちに鮮血が飛び散り、右足を貫かれた千佳はその場に崩れ落ちた。



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