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第三十話 私が解決しましょう!

 俺たちがアナザー圭祐の奪還に失敗したあげく、優子も連れ去られてしまった作戦から、3か月が経っていた。

 アナザー優子と俺は、彼らの奪還を目指して、ユイの領域(ユイ・テリトリー)の所属メンバーとなって活動している。

 あの作戦の最後で暴走状態になったためなのか、あれ以来、俺は自分の能力「コントロール」を使えなくなった。何をやっても発動しないのだ。だが、その代わりなのか、一週間ほど前から新たな能力が発動していた。

 「ジャミング」と名付けたそれは、他人の超能力が発動する予兆を感知することができ、さらにはその発動を阻害することが出来る能力だ。

 本間の「トランスポーター」であれば、ゲートが発生しなくなるし、アナザー優子の「世界を渡る力」を阻害すれば、何も起こらない。

 とても強力な能力ではあるのだが、発動を阻害するために集中力が必要なため、咄嗟に使いこなすことが難しい。阻害に失敗すればそのまま発動を許してしまうため、攻撃的な能力に対しての防御として使うには難易度が高いのだ。

 俺は新たに発現した、この「ジャミング」を使いこなすため、戦闘班のメンバーとして訓練に励んでいる。戦闘に於いては隊長の井上千佳がトップなのだが、性格的に実務面がさっぱりなので、本間譲二が実質のリーダー、というのが千佳自身をも含めての皆の認識だ。

 そして、今も本間の指導による特訓の真っ最中である。西沢鳴海との対戦形式での訓練だ。彼女は「転送」を使って瞬間移動しながら攻撃してくる。それを防ぎつつ彼女に勝つのが目標だ。

 だが目標は遠く、俺の首筋にはナイフサイズの木剣が当てられていた。彼女の「転送」を阻害し損ねて懐に入られてしまった結果だった。


「ほらほら~、ちゃんと阻害しないとダメよ~。今のが実戦だったらあなた死んでるわよ~」

「もう一度お願いします!」


 俺たちは一度離れ向かい合って構える。お互いに相手を窺い合うこと数秒、鳴海が木剣を構えて能力を使わずに飛び込んでくる。

 俺は木剣を持った右手を前に出し、彼女の剣を防いで跳び下がる。間髪入れずに彼女は剣を突き出してくる。

 今度は剣を使わずにそれを躱し、下からの切り上げを彼女に見舞う。

 その瞬間、彼女が能力を発動させる予兆を感じた。阻害の為に集中しようとしたとき、彼女は瞬間移動することなく、俺の剣を横から打ち据えて弾き飛ばした。


「能力の為に集中するにしても~。攻撃を疎かにしたらいけないでしょ~」


 返す刀でしたたかに打ち付けられた俺はそのまま倒れこんでしまう。彼女は素早く俺の上に覆いかぶさり、喉元に剣を突きつけた。


 「やめ!今日はここまでにしておこうか」


 本間の声で、鳴海が立ち上がり、剣を持っていない左手を差し出してくる。俺はその手を掴んで引き起こしてもらう。

 

 「やはり、お前の課題は……、如何にしてその能力を実戦で使いこなすか、だな」

 「そうねー。能力を使うために動きが疎かになっる様じゃ、実戦で使うのは難しいわ~」


 本間と鳴海の二人から、ありがたい寸評を頂いた俺は、無駄だとわかりつつも反論する。


「そう言いますけどね。咄嗟の判断で瞬間的に集中するのは難しいんですよ。後方で動きを阻害するだけならほぼい行けるんですけどね…」

「それはわかるが、集中が必要なのはお前だけじゃない、鳴海の『転送』も千佳の『空白』も発動の瞬間に集中が必要だ。それを訓練して動きながら使えるようにしている」

「それはそうですけど…」

「まぁ、私と千佳ちゃんは~、自分のタイミングで使えるから~圭祐くんより使いやすいのは確かね~。自分の意図しないタイミングで反射的に集中するのが難しいのは分かるわよ~」

「だが、やれるようになって貰わないと、この先困ることになる」


 鳴海は本間と顔を合わせ、やれやれと言った表情をしている。


「それは…、例の噂が関係してます?」


 俺の問いに本間が憎々しげに答える。


「ああ、超査室のやつらが各所にある領域(テリトリー)を潰して回っているってやつな」

「本当なんですか?」

「確証はない…。だが連絡がつかない領域(テリトリー)があることは事実だ」

「それに超能力者が協力しているらしいって話だしね~。とにかく、ウチも襲撃されるかわからないわ~。遅かれ早かれ戦いになるのは避けられないわよ~」

「こちらから迂闊に動くわけにはいかないが、本当に敵に寝返った超能力者が居るとすれば、お前の能力が役に立つ。そのためにも実戦で使えるようになって貰わないと困るんだ」


 そう言うと本間は、俺をじっと見る。横に立つ鳴海も俺を見てくる。


「がんばりますよ。俺の目標は決まってますから」


 そう、俺の目標は優子とアナザー圭祐を取り戻すことだ。そのためには、この新しい能力も使いこなして見せる。


「俺たちは会議がある。お前は自己鍛錬を続けて、程々で上がってくれ。無理はするなよ」


 そう言って、二人は訓練所を出て行った。

 二人が出て行くのを見届けた後、俺は木剣で素振りを継続しつつ、不定期に「ジャミング」を発動させるための集中を行う訓練を続けた。

 木剣を振りかぶり、振り下ろす。

 振りかぶり、振り下ろす。

 振りかぶりながら、能力発動の集中を行う。動きは継続したまま振り下ろす。

 この訓練だと、集中しながら動けるんだよな。それは集中するタイミングを自分で決めるからだ。不意のタイミングで集中するとなると、難易度が跳ね上がる。

 ちなみに、じっとしていて鳴海の能力発動に合わせて「ジャミング」を発動することは出来る。だが、いつ発動するかわからない状態で待機し続けるため、精神力の消耗が半端なかった。

 本間からは、普段リラックスしている状況でも、反射的に「ジャミング」を発動できることを目指すように言われているが、至難の業だ。


「ふむふむ、ふむふむ。なかなか難儀しているようですねぇ」


 不意に後ろから聞こえる声に反応して、振り向く。

 俺の背後には、緑のセーターに縞のオーバーオールを着て、キャップの鍔を少し斜めにしてかぶった、黒縁眼鏡の女性が立っていた。俺と同世代か少し下…。二十歳前後くらいかな。

 この人は確か……、作戦計画班の人だったか。


「どもども、直接お話しするのは初めてですね。私、作戦計画班の門脇唯奈かどわきゆいなと申します。Qちゃんって呼んでくださいね」

「あ、どうも藤沢圭祐です。えっと……、キュ、Qちゃん?」

「そうですそうです。Qちゃんです。あ、なんかわかんないって顔してますね。えーと、007しってます?スパイ映画の」

「ああ、はい。……そういえばあの映画でQっていましたね」

「そう、それ!そのQです」

「は、はぁ…」


 どういう関係があるんだ?余計に意味が分からん。そう思っていると唯奈は更にまくし立ててきた。


「私ね、色々と道具を開発するのが趣味でしてね。困ってる人を助ける道具を開発するのが得意なんです。結構役にたってるんですよ!」

「はぁ、そんな門脇さんが俺のところに何を…?」

「あー! だからQちゃんって呼んでください!」

「え?あ、あぁ。Qちゃんは俺に何を?」

「説明聞いてました?あなた困ってるでしょう?」

「ま、まぁ、困っていると言われればそうだけど…」

「ズバリ、そのお困りごと、私が解決しましょう!」

「は、はぁ…」


 一体なんなんだ、この人は…。

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