第二十九話 好きにさせておきますよ
長らくお休みしてしまいました。
仕事の合間に書こう書こうとして気づいたら年を越してしまっておりました。
前回までを第一章として、今話から第二章開始として細々とではありますが連載を続けていく所存です。
途中止まる事もあるかと思いますが、完結までは書きたいと思っております。
よろしくお願いします。
コンクリートに囲まれた無機質な部屋。荒い息遣いと男の声が聞こえる。
「同じことを何度繰り返しても無駄だ。自分の能力を把握して、工夫を凝らさねば、俺には届かない」
そう語るのは上下とも黒いスーツを着てマントを靡かせる、白い仮面を被った男。仮面の表面には何の意匠もなく、左右の目の箇所に横に細長い穴が空いているだけの無機質なもの。男の声も仮面のように淡々とした無機質なものであった。
男の右手には細い剣が握られている。一般的にレイピアとよばれる刺突することを主な目的とした剣だ。
レイピアの切先は地面に膝をつく女性に向けられている。
男と同じく黒のスーツだが仮面は被っておらず素顔を出している。男に顔を向け、きっと睨む少し吊り目気味の顔は茶色がかかったショートカットの髪型がよく似合っている
はぁはぁと荒い呼吸をしながら立ち上がる彼女もまた、右手にレイピアを握っており男に向かって構える。
女が構えるのを見た男は、突き出していたレイピアを体の前に引き寄せる。
「今度こそ」
女がそう呟くと、その場から消失した。男は、女が消失したことなど気にしていないかのように、くるりと背後を振り向くと、レイピアを虚空に向けて振り上げた、
キン!
金属と金属がぶつかる音がするのと同時に、男の前に女が忽然と姿を表していた。彼女は男に向けて突き出したレイピアを彼の振り上げにより、それを握る腕ごと上に弾きあげられていた。
「単純に背後に飛んで攻撃するなど、動きを読まれて当然だ」
男は淡々とした口調でそう言うと、レイピアを女に向かって突き出す。
その瞬間、彼女の姿はまたしても描き消えた。そして消えると同時に男の頭上に現れた。空中に現れた女はレイピアの切先を男に向けている。
空中に現れたからには重力により落下するのは当たり前のこと。彼女は落下の勢いを攻撃として利用したのだ。
男は上を見上げることもなく、一歩右に移動する。彼女が向けた切先は男からはずれ、地面に向かっている。
だが、攻撃が地面に当たることはなく、彼女は三度消失する。今度はすぐには現れることはなく、彼女はどこにも現れない。
「ほう?」
彼女がすぐに現れないことに、何か思うことがあるのか男が声を出す。その声に込められているのは彼女の行動に対しての興味のようだ。
男はレイピアの切先を上にして胸元に引き寄せると、目を瞑る。そして数秒が経過すると、男は目を開くとレイピアを握る右手を無造作に薙ぎ払った。
男が振るったレイピアは何物も捉えることなく空を切る。
その瞬間、男の左手前方にレイピアを構えた女が出現。そのまま男に向けてレイピアを突き出す。
「甘い」
男は静かにそう言いながら目を開くと左手を伸ばし、手のひらを突き出されたレイピアに向かって開く。
レイピアが男の手のひらに刺さり、勢いが止まる。
手のひらを刺されたことなど気にもせず、男が左手を振り上げると、レイピアを握った女はバランスを崩した。
男は左手を握り込み、レイピアを掴むようにして引き寄せる。女はレイピアごと引っ張られ、前のめりにさらにバランスを崩す。今にも倒れそうだ。
男はバランスを崩した女に向かって蹴りを放つと、女はレイピアから手を離して吹き飛んだ。
男は右手のレイピアを鞘に収めると左手に刺さったレイピアを引き抜き、吹き飛ばされて地面に這いつくばる女に歩み寄った。
「攻撃のタイミングをずらす試みは良かったが、その後が悪い。あからさまな誘導につられすぎだ」
そう言うと、右手に持ったレイピアを女の前方に放り投げた。
カランと音を縦、レイピアが床に転がる。
「今日の訓練は終わりだ」
そういうと、男はくるりと女に背を向けると歩き出す。
「ま、待って、待ってください。私は……、強くならないといけないんです!」
男は足を止め、振り返ることなく言う。
「このままでは無駄だ。瞬間移動能力だけではどうにもならない。思考伝達を使えないお前ではな」
彼女のほうを振り返り、男は続ける。
「なぜ、使わない? いや、使いこなせない、が正しいか。それを克服することができなければ格上には勝てない」
そういうと、男は歩き去り、部屋から出て行った。
女は両腕で体を起こすが、起き上がらないまま、無言で歯を食いしばり、俯いていた。
――――――
男と女が訓練を行っていた部屋の片隅にある監視カメラはその様子を全て映しとっていた。
それは音声付きでモニターに映し出され、白衣を着た男が革張りのソファに座って眺めていた。
ソファーに座る男の後ろにスーツを着て立っている初老の男が口を開く。
「構わないのか?」
「どんな思惑があれ、私の駒として役に立っているうちは、好きにさせておきますよ」
初老の男の問いかけに、モニターを見ていた男はそう答えると、テーブルから紅茶の入ったカップを取り、優雅に一口飲むと言葉を続ける。
「そろそろ、準備が整う頃合いだと思うが、どうかな?」
そう聞かれた初老の男が答える、
「ああ、準備はできた。すぐにでも始めるつもりだ」
「そうか」
男はそれだけ言うと、再び紅茶を飲んだ。
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