第二十七話 とまったらだめだよ
何も見えない。
辺りを見回しても何もなく、俺は暗闇の中にただ一人立っていた。
闇に飲み込まれて消えてしまうんじゃないかと思いながら、右手を伸ばしてみる。
手は消えなかった。
暗闇の中でも自分の手が、伸ばした指先までも、はっきりと見えている。
ふと、視界に入る右手に違和感を感じて、左手も伸ばしてみる。やはりおかしい。掌を自分に向けてじっくりと見る。
手が小さい? まるで子供の手の様だ。一体何が起こっている?
その時、後ろから声が聞こえてきた。
「……ちゃん、けいちゃん」
声とがすると思に、服のすそを引っ張られる感覚。
振り向くと、少女が立っていた。
「とまったらだめだよ。あるいていこ?」
途端に暗闇の中に浮かぶ木々と土の道。あれ? ぼくはここで何してたんだっけ?
俺の手を引っ張って歩き出す少女。この子は……、優子だ。そうだ、俺は一年生だ。
優子と一緒にぼくも歩く。
そうだ、ぼくとゆうこちゃんは山で迷子になっちゃったんだ。
確か……小学一年生の夏休みだ。
どんどん歩いて行くゆうこちゃんを追いかけて、ぼくもどんどん歩いて行ったんだ。
それで、俺たちは帰る道が分からず、気が付くと夜になっていた。
暗くて怖かったけど、ぼくは男の子だから、泣いちゃだめなんだ。
優子は「ずっと歩いてたら山からでられるよ」と言って、俺を引っ張って歩き続けた。
だからぼくも「そうだね」って言って、一緒に歩いたんだ。
出鱈目に歩き続け、気が付けば登り道になっていて、それでも俺たちは足を止めなかった。
くらくてこわくて、とまっちゃったら泣きそうだから、ずっと歩いたんだ。
でも、いつまでたっても山からは出られなかった。
…………思考が混乱している。
俺はなぜ子供なんだ?
突如、優子が地面に伸びて盛り上がっている木の根に躓いて転んだ。手をつないでいた俺も一緒に転ぶ。
じめんは冷たくて、ざらざらとしていた。ぼくはこわくなって、とうとう泣き出してしまった。
「けいちゃん、泣いたら、ダメなんだよ……。止まったら、かえれなくなるよ!」
そういう優子もべそをかいている。
泣き続けた俺たちは、いつのまにか地面に転がったまま寝てしまった。
そして翌朝、自分の部屋で目が覚めたんだった。
両親にこっぴどく怒られて、しばらく家から出してもらえなかった。
優子も同じだったと、後から聞いた。
子供の頃の記憶だ。
何事にも物怖じせず突っ走る優子。俺は子供心に彼女を守らなくてはと使命の様なものを感じていた。
しかし、俺では守れ切れず、大事になって親に叱られることばかりだった。
ふと気づくと、また暗闇の中に居た。
自分の体を見下ろすと、中学校の制服を着ていた。
中学生になっても優子は活発で、突拍子もなく危ない遊びをすることが多かった。
公園のブランコを超スピードで漕いで一回転すると言い、勢いをつけすぎて吹き飛ばされ、頭から落下した。目を覚まさない優子に慌てて、大人を呼びに行っている間に、誰かが救急車を呼んでいて病院に運ばれた。
幸いなことに怪我もなく、気絶しただけで済んだが「お前がついていながら」と両親に叱られた。
優子は「また圭祐君に迷惑をかけた」と叱られたと言って笑っていた。
そんな彼女は中学の卒業式にはいなかった。
親の仕事の都合で引っ越してしまった彼女と俺は、離ればなれになった。
そうだ、離ればなれになったのだ。もう二度と会えない。そう思うと寂しくなった。
再び、暗闇に包まれた。
そうだ、暗闇だ。優子は黒い何かに連れ去られてしまったんだ。また離ればなれになったのだ。
俺は二十四歳に戻っていた。
「優子!」
叫びながら体を起こすと、ベッドの上だった。
「ここは?」
誰もいない部屋で目覚めた俺は、ベッドからおりて外へ出た。
ここは……、見覚えがある。ここは……ユイの領域だ。
俺はリーダーの部屋を目指して歩きだした。
――――――
圭祐が目覚める少し前、リーダーの部屋には、リーダーのユイとヨシシ、鳴海、本間達が集まっていた。
「それで、何が起こったのですか?」
ユイの問いに答える鳴海とヨシシ。
「アナザー優子ちゃんの能力で、本間さんと千佳ちゃん、荒木君、村さん、優子ちゃん、アナザー圭祐君が消えたのよ。その直後に突然、圭祐君が錯乱したようになって叫びながら、中村さんが落としてしまった盾、落ちている銃、他にも色々な物を能力で振り回したのよ」
「俺たちが持っていた武器、俺の銃や鳴海のナイフ、荒木の剣もだな。ありとあらゆるものが浮かんだと思ったら、ものすごい勢いで振り回されたんだ。銃は動きながら乱射するし、圭祐は叫んでいるし、まるで修羅の様だった」
「敵が持ってた銃も浮かび上がって……、全部が無差別に襲い掛かったのよ。私たちも死ぬかと思ったわ」
「圭祐が暴走している様に見えたが、俺たちも動けるような状態じゃなかったんだ。それが突然止まったと思ったら、圭祐が倒れた」
「その時には、敵は全滅していて……。血の海だったわ」
「暴走……ですか。圭祐さんはなんと叫んでいたのですか?」
「優子ちゃんを返せって言ってたわね」
「彼女たちが脱出して、自分が残ったことに不安を感じたのでしょうか……?」
理解しかねると言った顔のユイ。その発言に対して本間が口を開いた。
「だが、『世界を渡る力で』で跳んで俺たちの中には、優子もアナザー圭祐もいなかった」
「なるほど……続けてください」
ユイに促され、本間が答える。
「俺たちは、アナザー優子ちゃんの『世界を渡る力で』平行宇宙に跳んで脱出した。向こうに着いたのは、俺と千佳、荒木、中村、アナザー優子の五人だった。飛んだ先は……とんでもない世界だった」
「とんでもない世界、ですか?」
「『掌底をぶつけ合う肉体言語が基準の世界』だったよ……」
「何それ……」
本間の報告に、訳がわからないと言う顔をする三人。
「まぁ……、俺と千佳が中心になってなんとかなったんだ。落ち着いたところでアナザー優子にもう一度能力を使ってもらい、こちらに帰ってきた」
跳んだ先の世界の話は後回しにしてほしいと、本間遠い目をしながら言った。頷いて同意したユイが疑問を口にする。
「結局、優子ちゃんとアナザー圭祐さんはどこへ行ってしまったのでしょうか。彼が何かを知っているのかもしれませんね…」
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