第二十六話 実に興味深い
合流地点付近の曲がり角を利用して、追ってくる黒づくめの男達と戦っていると、本間と千佳が戦闘に加勢してきた。どうやら彼らが戻ってくるまで持ちこたえることができたようだ。
後ろから呼ばれる声がして振り向くと、アナザー優子がアナザー圭祐の肩を掴んで揺すっていた。
「圭祐! どうしたの!?」
助け出したアナザー圭祐は意識はあり、指示すると動いてくれるが、自分の意思がないと言うか、何も認識できていないかのように、ぼんやりしていたのだ。
アナザー優子が目の前に現れても、わからない状態らしい。、
「圭祐! 圭祐!」
アナザー圭祐の肩を揺さぶりながら、叫ぶアナザー優子。取り乱すのも仕方がないと言える。
「優子ちゃん、落ち着いて!」
後ろから中村と共に追い付いた優子が、アナザー優子の手を掴んでいる。
「撤退するぞ! 村さん、彼女達を頼む」
ヨシシが銃を撃ちながら、後退を指示する。
中村が巨大化させた盾で警備員の銃撃を防ぎながら全体で下がっていく。
本間、千佳、荒木の近接三人が駆け戻ってきて、盾に隠れながら下がる。
俺も山内さんの後ろに入りつつ、能力を使って棚などを向こうに投げつけながら下がる。
盾の隙間をから、山内が矢を射る。鳴海も瞬間移動で敵の後から攻撃を加えつつ、皆に合わせて下がってきた。
「本間さん、ゲートだせますか!?」
「敵が多すぎる。その隙が無い」
突進してきた黒づくめの男に、千佳が空白を入れて作った隙に、拳を叩き込んで吹き飛ばした本間が、答える。
敵は数が多く、絶え間なく攻撃を加えてきている。
山内の「集団転移」はアナザー圭祐を取りこぼしてしまうので使えない。鳴海の「転送」は自身以外は二十四時間以内に再転送できない制限がある。
「アナザー優子君、何秒あれば跳べる?」
もう平行宇宙に逃げるしか無いと判断したヨシシがアナザー優子に確認する。
「わかりません……。この人数では時間がかかりそうです。」
「全員行けるか?」
「それもわかりません……」
バックアップであるアナザー優子の「世界を渡る力」が全員跳べるのか、どれだけの時間がかかるのか。それが不明らしい……。
「迷ってる時間はないな……。やってくれ!」
ヨシシが決断して指示する。
それ受けたアナザー優子が、両手を胸の前で合わせて目を閉じた。
こうしている間にも、敵は追撃の手を緩めていない。
遠距離攻撃ができる俺とヨシシと山内が、相手の動きを牽制し、鳴海が瞬間移動で行ったり来たりしながら攻撃を加えて足止めしている。俺も能力で掴める物を使って反撃の手を休めない。
中村が「サイズアッパー」で盾を巨大化させて、加えられる攻撃をなんとか防いでいる。だが、能力の連続使用で疲弊していて限界が近そうだ。
アナザー優子が目を閉じてから十秒ほどたった頃、体が硬直したように動かなくなった。知覚は出来るのだが、動くことができない。まるで自分の時間が止まったかのような……。
遅れて、本間、荒木、千佳、中村、アナザー優子、アナザー圭祐、優子が白く光りだした。
それ以外の者は俺も含めて能力の発動範囲から漏れてしまったらしい……。動いていたからか、人数制限があったのか……。
やがて、六人の体が真っ白になると、光が輪郭の外側に漏れて行く。こっちに山内が残っているのが幸いだ、アナザー圭祐が逃げてくれれば、緊急脱出できる。
だが、それは甘かった様だ。
白い光りの一部が影が差すように突然暗くなった。
初めは淡い影のような暗さだったものが、少しずつ濃さを増していき、まるでスポットライトが白黒反転したかのように、真っ黒になった。
そして、暗闇に人物が浮かび上がるようにはっきりとしてくる。人の輪郭の外は黒いままで、影が人を包んでいる様に見えた。
その人物は優子とアナザー圭祐だった。
二人は影の中に捕らえられたかの様に宙に浮いた。それと同時に、アナザー優子達五人を包む白い光は縮小し、消えた。
、影に捕らえられた二人は黒づくめの男達の方にふらふらと飛んでいく。
その方向には白衣の男が立っていた。男の体中から黒いひも状の何が放出されている。その一部はアナザー圭祐と優子を包む影まで伸びており、その他は空中に漂っている。
俺は必死に優子に手を伸ばそうとするが、体が硬直して動かない。
「すばらしい! 『インターセプタ―』の実験は成功だ!」
二人を包んだ影は、白衣の男の目の前で停止し、宙に浮かんでいる。
「この男の潜在能力は、計り知れないものがありますねえ。これからも有効活用させてもらうとしましょう!」
そして、影に目を向け、怪訝な顔をする。
「おや? 余計な者が引っ付いていますねえ。 邪魔です」
空中に漂っていた黒い紐の一部が、優子に伸び絡みつこうとする。
「優子!」
アナザー圭祐が叫びながら、優子を奪い取られまいと強く抱きしめる。黒い紐の先が離れた。
「混乱しているようですが、覚醒してしまいましたか……。強制的に無意識化に移行させた者が、自力で覚醒するとは……。実に興味深い」
白衣の男から放出されて、空中に漂っていた黒い紐のようなものが伸びてい二人に伸びていく。そして、二人を包む影と同化した。
「この現象の引き金は間違いなく彼女ですねぇ。一緒に連れて行きましょうか」
男はそう言うと、二人を包みこむ影と共に暗くなっていき、やがてその付近を塗りつぶした様に真っ黒になると、上下から押しつぶされるように縮んで、消滅した。
その瞬間、体の硬直が解けた。
「優子おおおおおおおおお!」
優子は目の前で白衣の男とともに消えてしまった。熱い。体の中に、煮えたぎったマグマが埋め込まれたような熱さだ。
俺は消えてしまった優子を探すが見つからない。視界に映るのは、優子以外の者達のみ。
「優子を! かえせえええええええ!」
体の中からマグマが溢れ出す感覚。自分の体がどうなっているのかわからない。
優子を取り返さないと! 一刻も早く! 視界に映る、黒づくめの男たちが邪魔だ!
銃撃音と衝撃音が鳴り響く。
「お前らは! ここから! 消えろおおおお!」
どれくらい、絶叫していただろうか。俺の体から溢れつづけるマグマが唐突に無くなり、空っぽになった。
そう感じるとともに、俺の視界は暗闇に包まれた。
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