第二話 自分で気づいてないの?
第二話です。
「えい! や! とぁー!」
優子が金属バットを俺に向かってブンブンと振り回す。
これからどうするかを考えていたんだが、せっかくなので圭祐の能力を調べよう! と優子が言い出した。
それに同意したところ、にっこにこのいい笑顔で優子が「じゃ、行くよー」とバットを振り回しだした。
優子がこうなったら止まらないので、ため息をのみこんで付き合うことにした。
バットが当たれば大惨事確定なのだが、俺に当たることはない。
当たらないように振っているわけではない。その証拠に外れるたびに優子の顔が険しくなって、さらに声を張り上げて俺に向かって振り下ろしてくる。
俺はバットをよけるでもなく、右手を前に突き出して向かってくるバットを振り払うように左右に振る。そのたびに、バットの軌道は俺に当たる二十センチほど手前で逸れ、優子はバランスを崩しかける。
そして、怒ったような顔を向けて再びバットを振り回すのだ。
「なぜ当たらぬ! 解せぬ!」
疲れたのかバットを振るのをやめた優子が、肩で息をしながら言う。
「まあ、当たらないようにしてるしな。優子からはどんな感じだ?」
「なんかね、振ってるバットを横から押されてるような感じ? 圭祐が手を振ると、その手で押されたみたいに横に動いちゃう」
「なるほど、イメージどおりだな」
右手の掌を広げて優子に向ける。
「ん? 今度はなにするの?」
「こうするんだ、よっと」
掌を向けたまま、手を伸ばしてそこにあるバットを掴む様に握りつつ、右手を引く。
すると、優子の手から離れたバットが吸い寄せられるように飛んできて、俺は右手にバットを握ってた。
「おおー! すごい、相手の武器を奪って反撃できるね!!」
一瞬目を見開いた優子が興奮気味に言う。
とりあげて攻撃させないようにしたらそこで終わりでいいのに、なぜ反撃する前提なんだ…。
「ところで優子、今日、仕事は?」
「先週の休日出勤の代休で今週は休みだよ」
「休日出勤大変だなー」
「せっかく勝ち取った大手の広告だからねー。締め切り落とすわけにはいかないでしょ。落ち着いたし、代休取れたから平気。今日はバッティングセンターに行くつもりだったし」
優子はスポーティーな恰好が好きで体を動かすのも好きなんだが、昔から時間があれば絵をかいていて、今ではデザイン事務所でイラスト書いている。
最近コンペで勝ちとった、大手の広告のイメージキャラクターの仕事が忙しかった様だが、休みが取れるくらいには落ち着いた様でなによりだ。
「だから、そのバット?」
「うんうん。圭祐を誘っていくつもりだった。別のことに使っちゃったけどねぇ」
ホント、優子がバット持って来てくれて助かったよ。
「じゃ、次試そう」
「何ためすの?」
「物体に力を加えるのはわかったから、今度は安定して加え続けられるかを確認する」
「わざとややこしい言い回ししてない? どゆこと?」
眉を顰めながら、優子が聞いてくる。
「能力で物を持ち上げて、そのまま維持できるかってことだよ」
そういいながら俺はバットを放り投げ両手の掌を向けた。
掌を向けたまま、落ちてくるバットを能力で掴んで受け止めようとするがバットは止まらず地面に落ちる。
「失敗だー♪」
優子がやけに明るい声で言うのでそちらを見ると、にやにやしながらこちらを見返してくる。
「圭祐の超能力、バット受け止め失敗の巻きー♪」
なんか変な節回しで失敗したことを煽ってくる。
俺は無視して今度は能力で持ち上げようとする。
全然動かないな。
今度はさっきやった様に自分の手に来るように念じて引っ張るように手を動かす。
バットはもちあがり、俺の手に向かって飛んできた。
それを手にもち、地面をコンコンと叩きながら、何が違うのかを考える。
今までで成功したのは、振り回されるバットの横から力を加えて軌道をそらすこと、落ちているものを引っ張って自分の手で掴むこと。
失敗したのは、落ちてくるバットを受け止めること、落ちているバットを持ち上げること。
この違いはなんだ?
「うーん。わからん」
「何がわからないのさ?」
「成功するときと失敗するときに何が違うのかわからないんだよ」
「え?見たまんまじゃん?」
優子の意外そうな返事に俺は思わずそちらを見る。
不思議そうな表情でこちらを見返してくる優子。
「圭祐、自分で気づいてないの?」
「何が?」
「手、だよ、手」
そういって、優子はこちらに掌を向けてブンブンと振り回す。
手? なんだ?
俺はもう一度成功したときのことを思い出す。
優子が振り回すバットの軌道をそらしたときは、そらす方向に振るように手を動かしていた。バットを掴むときは伸ばした手を引く動きをしていた。
失敗したときは…。
落ちてくるバットは掌を向けたまま受け止めようとした。持ち上げるときは…このときも掌を向けて念じていたな。
「もしかして、手の動きが重要なのか…?」
よしそれなら…!
バットを上に放り投げて、今度は掌を上にして救い上げるようなポーズでバットを受け止めようとする。
なんとなく、両手に重さがかかったような気がしたとき、バットは空中で静止していた。
次の展開まで進む予定だったのですが、長くなってしまったので分割しました。
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