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第十七話 あんたも何か言ってよ!

中々まとめられず、投稿時間を大幅に遅れてしまいました。すみません。

 話し合いの後、すぐに訓練所に戻り、本間の指導が始まった。

 

 訓練は一言で言えば地獄だった。彼の指導はひたすら実践あるのみ、延々と手合わせを行うというものだ。目標は俺の攻撃を彼に当てること、前回のようなダメージの無い攻撃は無効。はじめから本間も攻撃してくる。それも寸止めはなしで。さすがにグローブは付けない。

 一切の攻撃を躱され、はじき返され、ぶん殴られ、または蹴り飛ばされる。痛みでのたうち回り、何度も死ぬかと思った。

 昭和のスポ根よりも酷い。滅多打ちにされ、立つことも出来ないくらいの疲労でへばっている俺に本間は言う。


「お前の攻撃は、腕の動きを見るだけで何をするのか、分かり安すぎるんだ」


 俺は、息も絶え絶えに聞き返す。


「はぁ…はぁ…。フェイントをいれたりして…工夫しているつもりなんですけど…ね…」

「あんなものはフェイントとは言わん」


 厳しいなあ。確かに、黒づくめ男には通用した、片手で掴んだものを、両手で掴む様に見せかけたフェイントも、本間には通用しなかった。


「大きい腕の動きは目立つ。お前がどれだけフェイントを入れようが、最終的な腕の振りを見ていれば攻撃の瞬間がわかる。もっと工夫しろ」

「…腕の振り、ですか。考えてみますよ」

「ああ、弱点を補う方法を考えろ。そして答えをだせ」


 そういうと、本間は腰を落とし構えた。


「もう息は整っているだろう。休憩は終わりだ続けるぞ」


 はたして俺は、彼に一発入れることができるんだろうか…。弱気になりながらも、地獄の指導はまだまだ続く…。


――――――


 身も心もズタボロになりながら、なんとか部屋の前までたどり着き扉を開けると、ダブル優子はちゃぶ台の周りに座ってしゃべっていた。二人は先に戻っていた様だ。


「…ただいま」


 俺が入ってきたのに気づいた優子が振り向き、驚いた声を出した。


「おかえ――圭祐! 大丈夫!?」


 彼女たちは俺の傍まで駆け寄ってくる。


「何があったんですか!?」


 二人とも、心配してくれるのはいいんだが、あまり体を触らないで欲しい。殴られた箇所を触られると痛いんだ…。


「…なんでもない…大丈夫。今日は…疲れたから…もう寝るよ」


 俺はベッドに横になるとそのまま眠りについた。




 翌日、目が覚めるとダブル優子はおらず、鳴海と本間が部屋に居た。


「おはようー。ずいぶんしごかれた様ねー。もうお昼よー。」


 本間が近づいて来て、バツが悪そうな顔をしながら手を合わせた。


「やりすぎちまった。すまん!」


 昨日、ボロボロになって帰って来るなり寝てしまい、朝になっても起きる気配の無い俺を心配したダブル優子が、鳴海に何が合ったのかを問いただしたそうだ。

 鳴海は、俺が能力を使いこなすための訓練を行ったことを二人に話した。奪還作戦のことは上手くぼかした様だ。今日は俺に傍のいると言う二人を宥めて、調達仕事に向かわせるのに苦労したと言って苦笑している。

 鳴海も本間も忙しい中、様子を見に来てくれたようだ。特に本間はゲートを出す予定が詰まっているらしく、鳴海を残して先に帰って行った。


「今日は一日休んでなさいなー」

「はあ、すみません」

「あなたが謝ることじゃないわよー。ここだけの話だけどね、本間さんあなたのこと相当気に入っているみたいよー」

「そうなんですか?」

「『あいつは伸びそうだ。期待のあまり、つい熱が入っちまった』って言い訳してたわよー」


 そう言って鳴海はクスクス笑う。期待してくれるのは嬉しいんだが、ボコボコにやられたことは嬉しくないな。その期待に応えるためにも、必ず一発入れてお返ししないとな。


「とにかく無事でよかったわー。私も忙しくってねー、もう行かなくちゃー。動けそうならご飯はちゃんと食べてねー」


 ちゃぶ台を手で示しながらそういうと、鳴海も出て行ってしまった。

 俺は体を起こし、ベッドがら出る。体のあちこちが痛むが、動けないことはない。ちゃぶ台には、お昼ご飯であろうドライカレーが置かれていた。

 座布団に座りドライカレーを食べる。これも…美味い。

 食べ終わった俺は、またベッドに入り、寝た。




 目覚めたら、次の日の朝だった。何時間寝たんだ俺…。体を起こすともう痛みはすっかり引いていた。

 ベッドから出ると、ダブル優子と鳴海が居た。


「あ、圭祐起きた。体はどう? 動ける?」

「もうすっかり大丈夫だ。心配かけてごめんな」


 俺がそう言っても、優子たちは心配そうに見るばかりだ。俺は屈伸して飛び跳ねたり、腕をぐるぐる回したりして、元気になったことをアピールした。


「その動き、なんかキモイ!」


 優子さん、さすがにそれは酷くないか?

 そんな俺たちを見ていた鳴海が、突然パンと手を叩く。


「それだけ動けるなら、大丈夫そうねー。実はね、昨日ユイちんが帰ってきたのよー。あなた達に会って欲しいから、来てもらえるかしらー」




 鳴海に連れられてきたのは、初日にヨシシと会った扉の前だった。今日はヨシシはおらず、扉の前は無人だった。

 鳴海がノックすると中から返事がした。鳴海が扉を開け、俺たちも共に入る。

 部屋の中はシンプルで装飾品はほとんどなかった。扉の正面に大きめの事務机があり、そこに初めて会う女性が座っている。女性の年齢は三十代後半と言ったところ。落ち着いた上品な雰囲気がある。髪はシルバーで腰まであるストレートのロング、白いシンプルなドレスのような服装をしている。

 机の前には椅子が五脚並べてあり、その一つにヨシシが座っていた。


「君たちの話は全て伝えてある。こちらがリーダーのユイだ」

 

 ヨシシに紹介され俺たちは自己紹介する。


「藤沢圭祐です」

「二宮優子です」

「二宮優子です」


 ユイと呼ばれた女性は、席から立ち上がると静かに言った。


(わたくし)はユイ。ここ、ユイの領域(ユイ・テリトリー)のリーダー役をさせていただいておりますわ」


 そう言って会釈すると、彼女は再び座った。


「あなた達もお座りください」


 彼女に促され俺たちも椅子に座る。


「テリトリーは、あなた達を歓迎します。私たちの目的は、既に吉田からお話ししていると聞いています。私たちは、一週間後に、捕らわれた人の奪還作戦を実行するつもりです」


 アナザー優子がハッとしてヨシシと鳴海を見る。


「…以前に『悪いことにはしない』と話していたのは、そういうことですか」

「ユイちんが出てたからね、具体的なことは話せなかったのよー、ごめんねー」


 ユイのここ数日の不在は、合同作戦として、他のテリトリーの協力を仰ぐための話し合いに出ていたためだと言う。しかし、時期尚早だと言う反対意見への説得に難航し、話し合いは長引いた。結局、話し合いは纏まらず、合同での作戦は流れたそうだ。

 戻ってきたユイと、テリトリーの各班取りまとめ役との、幹部会議で話し合った結果、今を逃せばタイミングを失う可能性が高いことを考慮し、ユイの領域(ユイ・テリトリー)単独で決行することに決まったそうだ。

 ここまでユイが話した後、鳴海が口を開いた。


「桜子ちゃん、紹介したでしょうー? あの子の『絆』にはもう一つの能力があるって話を覚えているかしら? それは、相手の居る場所が分かる、と言うものなのよー」

「じゃあ、作戦を急ぐ理由は…」

「ええ、彼女がお姉さんの位置を把握できるうちに実行しないと、取り戻すことが困難になるからよ」


 続けて鳴海は、あの時点では奪還作戦の計画が決定しておらず、話せないために、この能力のことも伏せていたことを俺たちに告げ、ごめんねと言ってくれた。


「つまり、俺たちもこの作戦に協力して、超能力者を救出する。その中にもう一人の俺、アナザー圭祐がいるはずだ、と言うことですね」

「そうです。圭祐さん。あなたの能力は計画の成否に影響する強力なものと伺っています。そして、アナザー優子さんの移動能力はいざというときのための助けとなるでしょう」


 ですので、と続けながらユイは頭を軽く下げる。


「お二人には、奪還作戦の実行班として同行していただきたいのです」


 俺とアナザー優子は互いに目線を合わせ頷くと、ユイに向きなおり頭を下げた。


「「こちらこそ、お願いします」」


 作戦に参加することにあたり、アナザー優子も訓練を行うことが決まる。彼女はいざというときの脱出要員なので、直接的に戦闘することはないが、アクシデントがあったときに、体が動くように訓練はしておいたほうが良いとの判断だ。

 これで、アナザー圭祐をとりもどせる可能性が出てきた。戦いになるであろうことは、ほぼ確定だが、俺たちの目的を叶えるためには避けられない、ということは既に自覚している。

 戦いへの不安が混じりつつも、希望が見えてきたことで、俺は気分が高揚していた。


「ちょっと待って! 私は?」


 それまでずっと黙って聞いていた優子が。声を張り上げた。


「お二人には…って、私も入れると三人なんだけど! 私も一緒だよね!?」


 優子の疑問にヨシシが答える。


「君はここで留守番だ。命の危険が伴う作戦に、能力も戦う力も持たない者は参加させるわけにはいかない」


 ヨシシが淡々とそう言うと、優子は立ち上がり、ヨシシに詰め寄る。


「私たちは三人でアナザー圭祐を助けるって決めたの! お願い! 私も連れて行ってください! 圭祐! あんたも何か言ってよ!」


 俺に振り向き、加勢を求める優子。すまん優子、俺だってお前と共にアナザー圭祐を助けたい。だが、危険なところに連れて行くのは避けたい。彼らがそう判断したのなら、俺にはどうすることもできない、彼らの協力なしでは無理なのだから。

 自分の参加を認めさせようと、詰め寄る優子に向かって、鳴海が言う。


「気持ちはわかるわ、優子ちゃん。だけどね、この作戦は必ず戦いになるわ。あなた、黒づくめの男達と一人で戦えるの?」


 そう言われ、うっと言葉に詰まる優子。容赦なくきつい言葉を続ける鳴海。


「あなた個人のことだけじゃないわ。もし、あなたが捕まって捕虜にされたらどうするの? あなたのせいで、皆を危険にさらすことになるのよ? あなたのせいで圭祐くんが死ぬことになったらどうするのかしら?」


 何も言い返せない優子は、俯いて押し黙った。


「あなたの気持ちはわからないでもないけど、私たちも捕らわれた人を助けたいの。ここに住む人達には、身内が捕らわれた人が何人もいるのよ。参加したくても出来ないのは、あなただけじゃないわ。だから、聞き分けて欲しいのよ」

「でも…、でも…、私のいないところで圭祐に何かあったら………」


 優子は涙声で、反論にならない反論をしている。ありがとな優子、俺のことを心配してくれているんだよな。俺は優子にそう伝えようとした。


「優子――」

「それでは、こういうのはどうでしょう。作戦決行までの訓練にあなたも参加なさい。そこで最低限身を守れることが証明できれば、参加を許可しましょう」


 俺の言葉にかぶせるように、ユイがそう言った。優子がガバっと顔を上げる。


「本当に!? 私、がんばります! ありがとう!」


 涙を流しながらも、希望が見えた笑顔でユイに答える優子。彼女は気づいていないが、ヨシシと鳴海は何とも言えないような複雑な表情をしている。ユイの言葉は、優子をあきらめさせるための方便だろう。普通に考えて、一週間やそこらで何の力も無い人間が戦えるようになることはない。

 

 いつものようにパンと手を叩き、鳴海が言う。


「それじゃー、まとまったところで、一旦、話を終わりましょうかー」


 俺たちはユイとヨシシに別れを告げ、鳴海に連れられて自分たちにあてがわれた部屋に戻った。鳴海は、予定があるからと言って部屋には入らず戻っていった。


「優子さん、訓練がんばりましょう!」

「ありがと、優子ちゃん! 私も一緒に行けるようにがんばる!」


 アナザー優子も、方便だろうとわかってはいると思うが、優子を激励している。俺も優子に悟られないように気を付けながら、彼女を応援する言葉を掛けた。


 一週間後の作戦決行に向けて、これから忙しくなりそうだ。


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